第14話  雨宮寧々とのデート?②

「勝った~!」

「ま、負けた…………」

 普通に負けてしまった。

 精いっぱい戦って普通に負けてしまった。

 3回勝負したが3回とも負けてしまった。

 想定外のことだった。

 雨宮さんがこれほどまでに上手だなんて思いもしなかった。

 ゲームセンターのレーシングゲームは意外と難しい。

 実際にハンドル操作をする。操作を誤れば一気に進路がずれる。

 他のレーシングゲームより簡素化されているとはいえそれでも難しいのだ。

 それなのに雨宮さんは常に最短距離を通っているし、コーナリングに無駄がなかった。ドリフトもうまいからコーナーで減速していない。アイテムも取りこぼさないし、最適な場所とタイミングでの使用もできていた。

 俺もかなりやりこんできたと思っていたがそれ以上じゃないかよ。

 なんでこんな人がこんなに上手なんだよ。

 普通逆だろ。

 オタクのプライドが傷ついた気がする。

「ふふん。私を嘗めていたのかもしれないけど甘いね。私はこう見えてこれ得意なんだよ」

 だからわざわざこれで勝負を挑んできたってわけか。

 くそっ!嵌められてしまったというわけか!

 もっと警戒をしておくべきだったのに!

「というわけで有馬君が罰ゲームだね」

「はい………」

 罰ゲームを受けることになってしまった。

「何してもらおうかな~」

「お、お手柔らかにお願いします」

「どうしようっかな~」

 何かをよからなぬことを考えていそうな不敵な笑み。

 それが恐ろしくて仕方がない。

 何されるんだ、俺。

 お願いしますから俺が社会的に死なない者にしてください。あと俺が物理的に死なないものにしてください。お願いします。

「決めた!」

「な、なんでしょうか」

「私と恋人としてプリクラ撮ってももらおうかな」

 罰ゲームはまさかのプリクラだった。

 大した事じゃないかもしれないが俺にとっては大事だ。

 あんな狭い空間で雨宮さんと二人っきりになる。写真を撮るわけだから体を密着させないといけないかもしれない。

 それこそ抱き着かれたりとかされたら俺の体が耐えられるかわからない。

「ダメとは言わせないよ。勝った人の言うことを聞くのが君の罰ゲームなんだから」

 そうですよね。

 罰ゲームですよね。罰ゲームなら従わないといけなませんよね。

 俺は連行される気分でプリクラのエリアに向かった。

 気分は処刑台に連れていかれる死刑囚の気分だ。

「……………」

「……………」

「……………」

「どうしたの?」

「いや。なんでもないです」

 気のせいか。

 店内の中を歩き回る。

「これにしよう」

 彼女は俺を連れていくつかある内の一つに入った。

 狭い。

 狭いせいか雨宮さんが俺の方に密着してくる。

「これはねカップル向けのプリクラだから他より狭いんだよね」

「な、なるほど……」

 よくそんなこと知ってるな。

 伊達に何人も彼氏がいたことがある人だ。


 むにゅ


 彼女が腕を組んできた。

「ふふん。恋人用のプリクラなんだからしっかりと恋人っぽく映らないとね」

 ぞわっとしてくる。

 全身から鳥肌が立ってきているのが伝わってくる。

 雨宮さんと密着したときには鼻血出してぶっ倒れてしまうかもしれない。

 体が拒否反応を起こしつつあるが、なんとか意識を保たないと。

「撮るよ~」

「凄い顔してるね」

「い、いきなり、抱き着かれたら…………」

 鳥肌と悪寒が全身を襲ってきて、意識が少し朦朧としているが耐えるんだ。

 ここで意識をぶっ飛ばしてもダメだ。

「恋人同士でもこんなにくっつかないと思うんですが」

「そう?これぐらい普通だと思うよ」

 交際経験豊富なあなたにとっては普通なのかもしれないですが、女性恐怖症かつ童貞の俺には刺激が強すぎるんです。

この前の生徒会室みたいなことにならないようにしないと。

「ほら。次来るよ」

「は、はい」

 二回目の撮影。

 今度は腕組みをせず普通に撮影した。

 三回目の撮影は全身を写すようにして撮影が行われた。

 最後四回目。

「最後はキスしてるところにでもする?」

 そんなことされたら俺は泡を吹いて失神してしまう。

「なんてね。冗談だよ」

 この人の冗談は冗談に聞こえないから怖い。

 本当にしてきそうだから。

 最後の撮影はお互いの手で一つのハートを作ることにした。

 彼女は手を触れさせようとしてきたがなんとかギリギリのところで回避した。

 撮影が終わると次はプリクラの大事な要素である加工に入る。

 雨宮さんはタッチペンを手に取ると手慣れた手つきで彼女は画面を操作する。

 それを俺は彼女の加工を覗き見る。

 プリクラ凄い。

 加工するものだという認識はしていたが実際に体験してみると凄い。

 顔の輪郭から、明るさ、目の大きさ、髪の色、化粧その他もろもろすべて加工することができる。こんなに加工できたら誰が誰なのかわからなくなるよな。

 タッチペンを動かして何やら文字を書き始めた。

 何々?

『ダーリン・ラブ♡』

 おい。誰がダーリンだ。

『ハニー・ラブ♡』

 誰がラブだよ。

 誰もそんなこと思ってないっての。

 完全に恋人同士のプリクラになってるじゃないかよ。

「加工凄いな………」

「これぐらいは普通だよ」

「でも有馬君元がいいから下手にいじれないな」

 それはどうも。

 でも女子ってルックスいい人も問答無用で加工するよな。

 それは一体どんな思いなんだろうな。

 それこそ雨宮さんも見た目は抜群にいいからプリクラ加工しなくてもいい

 初めてプリクラ撮ったけどこんな感じのなのか。

 世の中のリア充たちはこんな風に彼女とプリクラを撮ってはイチャイチャしてるのか。

 いい勉強になったな。

 加工が終わったらあとはプリントアウトする。

 写真は証明写真と同じように外に受け取り口がある。

これでようやく狭い空間から脱出することができる。

 しかし、どんな感じになってるのか。少し楽しみだ。

 外に出て少し待つ。

「出てきた出てきた」

 撮影したプリクラが印刷されたのが二枚出てきた。

 雨宮さんが取り出して俺に渡してきた。

 さてどんな感じになっているのか。

「完全に恋人みたいじゃん……………」

 見てすぐ思ったことが思わず口から出た。

「いい感じに取れてるね」

「いい感じなんですか、これ」

 プリクラの良し悪しがわからないからこれがいい出来なのかわからない。

 わかるのは普通の写真よりもいろんな箇所が盛られていたり、加工されていること、文字が書かれていることぐらい。

 他のプリクラを見たことがない。

 だから彼女のセンスがいいのか俺は判断できない。

 彼女の慣れた手つきを見る限り経験豊富だからこれはいい感じのものだとは思う。

「最高のプリクラが取れたね」

「最高なんですか………」

「最高だよ。好きな人とプリクラが取れたんだから」

 ああ。そういう意味でか。

 そういうことなら確かにそうなのかもしれない。

 好きな人とプリクラを撮る機会なんてよく考えたらないよな。

 異性間でプリクラを撮るなんてそれはもう付き合っている男女しかしない。

 恋仲でも何でもない、彼女からすれば片思い状態の異性とプリクラを撮る。そんなことは嬉しいことなのかもしれない。

 雨宮さんがどういう考えを持っているのかは計り知れないけど。

 少なくとも今の彼女は心の底から嬉しそうには見える。

 それも演技かもしれないが。

 俺と一緒にプリクラをとって嫌がられたりするよりかはいい。

「嫌だったらそもそも撮らないか」

 俺は嫌だったけど。

 撮りたくなかったけど。

 それでも勝負に負けたし、お店での借りもある。

 一応良しとしておくか。

 死にそうにはなったけど。

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