第13話 雨宮寧々とのデート?①

 お店を出た。

 時間は午後一時になっていた。

 およそ二時間以上彼女に拘束されていたということになる。

 よく耐えられたと自分を褒めたくなる。

 あの雨宮寧々と会話し続けていたんだ。自分を褒めてあげなければ。

 よく頑張ったぞ、俺。

「これからどうする?」

 店を出た最初にそんなことを言われた。

 どうするって今すぐに帰りたいです。わかっているがそんなこと言えない。

「よかったらもう少し付き合ってよ」

 そう雨宮さんがいった。

 何に付き合うのか。時間稼ぎに付き合えということか。

 それを断れる理由はない。

 俺は彼女の提案(というより命令)を受け入れることにした。

「ありがとう」

 相変わらず男子が100%勘違いさせる笑顔だ。はにかむ笑顔を男子に見せればよろこばれるというのをよくわかっておられる。

 俺には通用しないけど。

 しかし歩く人たちには効果抜群のようだ。

彼女が俺に向けた笑顔を見た他の男たちは彼女に釘付けになっていた。

それは歩いても変わらない。すれ違う男たちは必ず一度立ち止まって彼女の方を見る。そして言葉が漏れる。

「すげぇ可愛いな」

「アイドルみたい」

「マジで可愛すぎるだろ」

「彼女になってほしいな」

「周囲の人たちが雨宮さんを見てますね」

「よくあることだよ」

「よ、よくあることですか………」

「私可愛いからね」

 自分で言ったよ。

「私可愛いから外を歩いていたら必ずあんなふうになるんだ。凄いでしょ」

 ええ。凄いですよ。

 自分のことをそこまで堂々と口にできる雨宮さんがね。

「有馬君も私と同じだと思うよ」

「俺ですか」

 周囲に目を向けてみる。

「あの人かっこいいね」

「すごーい。イケメンだ」

「モデルさんかな。おしゃれ~」

「やばっ。チョーカッコいい!」

 周囲の女の人たちが騒ぎ立てている。

 雨宮さんじゃないが俺もこういうのはよくある。

 自分が褒められるのは嫌いじゃないが、女の人にそう言われるのは嫌だ。

 女の人から視線を向けられるのがそもそも嫌だ。

 本来なら顔を隠すために眼鏡や帽子をかぶりたい。服装もおしゃれじゃなくて普通にパーカーを着ていたい。

 実家のある地元なら陰キャのそういった服装ができるんだがここら辺だと今日みたいに学校の人と会ったりするから服装は気を付けないといけない。

「もしかしてあの二人ってカップルなのかな」

「美男美女だしお似合いだよね」

 どうやら周囲の人たちは俺と彼女が恋人同士だと思っているようだ。

 なんて迷惑な勘違いをしてるんだよ。

「マジかよ。彼氏いるのか」

 彼氏じゃないぞ。

「最悪だ~」

 それは俺のセリフだ。

「くたばれ」

 やばっ。今ぼそりと『くたばれ』って言われたよ。

 絶対に非リアの陰キャだな。

「お似合いのカップルだって」

 どことなく雨宮さんは嬉しそうにしていた。

「そ、そんなこと言われてますね…………………」

 雨宮さんとお似合いのカップルとか言われてもな。

 羨ましい人は多いかもしれないけど俺は困る。

「いつでも私を彼女にしてくれていいんだよ?」

「は、ははっ………」

 それはごめん被ります。

「なんなら腕組む?」

「大丈夫です………」

「遠慮しなくてもいいのに」

 遠慮じゃないです。自己防衛です。

 ただでさえ至近距離で歩かれるだけで苦しいのに腕に抱き着かれるなんてことになったら死ぬわ。今日のダメージも蓄積しているから確実に死ぬわ。

「私の胸の感触を感じられるんだよ?」

 この人に恥じらいはないのか。普通そんなこと人がたくさんいるところで言うか?

 あ、この人露出多めの服着てたから関係ないのか。

 貞操観念低い人に常識を求めても無駄だよな。

「せっかくだしゲーセンによろうよ」

「い、いいですよ」

 まだ俺はこの人から解放されないらしい。

「私ゲーセン好きなんだよね」

「そうなんですか」

 ゲームセンターはオタクとか関係なくいろんな人が気軽に楽しめる場所になっているが、俺みたいなオタクにとっては重要な遊び場所だ。

 そこでしか手に入らないフィギュアやグッズがある。それを手に入れようとお金つぎ込んで必死に取っていた過去を思い出す。

 今でもこっそり来て遊んだりしてるけど。

 このお店も何回か来たことがある。

 行きつけの場所ほど品数がいいとは言えないが、普通にゲームセンターで遊ぶのならここでも十分楽しめる。

「何して遊ぼうかな」

 店内をぐるりと見まわしてみる。

「ねぇ、これやろうよ」

 彼女はレーシングゲームを指さした。

「いいですよ」

 いつも一人でゲームセンターに来ていたからこういうゲームを誰かと遊ぶのは初めてだ。

 少し楽しみだ。

「負けた人は罰ゲームね」

「ば、罰ゲーム⁉」

 何それ。聞いてないぞ。

 なんで負けたら罰ゲームを受けないといけないんだよ。

「ちなみにどんな罰なんですか………?」

「そうだな~」

 彼女は少し考えるとにやりとこちらを見た。

 その顔が恐ろしすぎた。

 何か良からなぬことを考えている魔女だ。悪魔と契約した魔女みたいな表情だ。

 俺に何をやらせるかなんて決めているのにあえて焦らしている。

「よしっ。決めた」

 最初から決めていたはずなのにそんなことを言った。

「もし負けたら勝った人のことの言うことを何でも聞くこと」

 罰ゲームは彼女の奴隷になるというものだったか。

「中々………重たい罰ゲームですね………」

「これぐらいじゃないとゲームが面白くないかなって思ってね」

「ちなみに他の罰ゲームにするというのは?」

「ないよ。何でも命令できるにしたらなんだってやらせられるからね」

 そういう考えですか。

 負けてしまったら俺は彼女の言うことを何でも聞いて、実行しなければならない。

 拒否権なし。言われるまま行動しなければならない。

 反対に俺が勝てば彼女に何でも命令できるということになる。

 だが待て。

 そうは言っても俺が命令できることなんてかなり限られる。一般的な罰ゲームとして命令をしたとしてもセクハラだ、いじめだと言われてしまいかねない。

 たとえ彼女が俺のことを好きだと言っていると言ってもそれはハニートラップである可能性はある。その彼女に対して下手な命令を下してしまったら俺は大変なことになる。

 命令しないということは罰ゲームである以上はできない。

 じゃあ負けるか?それも無理だ。もし負けてしまったら何をされるかわからない。

 となると勝つしか選択肢はない。

 勝った上で小さな命令を出すということにしよう。

「じゃあ早速勝負と行こうか」

 得意げな口調で彼女は言った。

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