第11話 席替え

「お前ら。お待ちかねの席替えをするぞ」 

 ホームルームの時間。担任の先生がそう宣言した。

 教室中は歓喜に包まれる。席替えは生徒にとって月に一度の楽しみ。

 親しい人と近くの席になれるかもしれない、もしくは気になる人や彼氏彼女と隣の席に慣れるかもしれない。そんな夢と希望を現実にできる可能性のある。

 俺は違うけど。

 俺の本音としては今の席をかなりきにいっているから席替えをしたくない。

 右側は壁でそれ以外の席はすべて男子生徒で固められているという素晴らしいほどに鉄壁の防御壁を築けていた。ストレスを多少軽減できていた。

 それが解体されることになり、周りが女の子で包囲されるようなことになれば襲い掛かってくるストレスは数倍になる。

 だが可能性がないわけじゃない。

 このクラスの男女比はおよそ1対1。

 つまり隣に男子が来る確率は2分のⅠ。女の子が来る確率も同じく2分の1。

 同じ確率だ。

 確実に女子が来るというのはもはや避けられない。

 だが同時に周り全てが女の子になる確率はかなり低いということが言える。

 であるなら少しでも女子がすくなくなるであろう席を獲得することが至上命題だ。

 自分の希望条件がかなえられる席。

 それは四方の角の席だ。

 あの席なら接地する席は三つ。そこにすべて女子が来る確率の方が低い。最低男子生徒一人は来るはずだ。しかし四隅の席をくじで引くことができる確率もかなり低い。

 一クラスには36人が在籍しているから確率は9分の1。

 しかし希望条件を四角だけじゃなくて窓側及び廊下側の席に範囲を広げたらしたらどうだ。現在俺の席みたいな席だ。

 そこまで範囲を広げれば確率はぐんと上がる。四角以外だと他の席との接地面積が増えてしまうが四方八方を囲まれることはない。それだけで全然マシだ。

 席の配置は【縦6席】×【横6席】=【合計36席】で構成される。

 その中で端の席の数は12席。

 その席を引くことができる確率は3分のⅠ。かなり高い確率で引くことができる。

 だから狙うならその席を狙うしかない。

「次は有馬だな」

 先生が持ってきた投票箱に俺は手を入れる。

 確率は3分の1だ。引ける。絶対に引ける。

 大丈夫だ。俺ならできる。

 俺の選ばれし右手なら引くことができる。

 引け、俺!

 おっしゃああああああああ!

 角っこの席を引いたぞ!しかも窓側の一番後ろという場所だ。あそこなら邪魔が入らない。一番いい場所をとることができた。

「それじゃあ全員くじを引き終わったな。それじゃあ席を移動しろ」

「席番だが今回は俺が適当に番号かくわ」

「え?」

 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。

 ちょっと待ってくれよ。

 11番。11番はどこだ?

 最悪角の席じゃなくていい。窓側か廊下側の席になってくれたらいいから。

 頼む。先生、お願いします。

「よしっ。これで行くぞ」

 11番はどこにあったか。

 ちょうど真ん中の席。

 ど真ん中だった。

 四方八方をクラスメイトに囲まれてしまう。

 確率的に女子が設置の半分を占めるのは2分の1。半分は女子生徒が来る可能性があるが、同じ確率で男子生徒が来る。

 頼むぞ。お願いだからな。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【絶望】


 席替えをして最初に俺の頭に浮かんできた言葉がそれだった。

 悔しがるとか羨ましがるとかならあるが絶望することなんてない。

 新しい席に移動した瞬間俺は絶望のどん底に落とされてしまった。

「隣の席だね。有馬君」

 隣の席になったのは雨宮寧々さんだった。

 女の子が隣にやってくるのは嫌だったのに雨宮さんだなんて。

 しかも……………、

「ちょうどいいわ。私の近くの席なら監視しやすいし」

 前の席に来たのは戸塚さんだった。

 くじ引きの結果、隣に雨宮さん、目の前の席に戸塚さんというフォーメーションになった。

 何これ。

 何この確立。

いろんな確率があっただろうけど、この二人が俺の席の近くになる確率なんてそれこそ低いだろ。端の席を選ぶ、かつ、隣と前の席がこの二人になる確率より周りが全部男子になる確率方が高い気がする。

 なんでこんな低確率かつ一番最悪に近い結果がやってくるんだよ。

 神様は俺を殺すつもりなのだろうか。

 よりにもよってこの二人だなんて。

 すでに気分が悪くなってきた。

 雨宮さんは単体で俺を誘惑しに来る。それを見て戸塚さんが雨宮さんと何の関係もない俺を一緒に怒る。

 そんなすぐにでも起こりそうな出来事が思い浮かんでくる。

 地獄だよ。地獄。

 なんてついていないんだよ、俺。

 俺、悪いことしてないと思うんだけど。

「どうした、有馬。元気なさげだな」

「いえ。ちょっと。まあ。なんでもないです、先生………‥」

「元気ないなら隣に雨宮とかいるし元気づけてもらえ」

「だって。いつでも言ってね」

「だ、大丈夫です。お気になさらず………………」

「遠慮しなくていいからね」

 雨宮さんに元気づけてもらうとかありえない。元気出るどころか命が吸い取られてしまう。精力が奪われてしまう。吸血鬼に血を吸われた人間みたいになる。

 まさに逆効果な結果が生じる。

 おまけに前の席からはこっちに向けて圧力が飛んできてるしさ。

 風紀委員長。勘弁してくださいよ。

 俺何もしてないのに。

何もしようともしていないというのに。

怖い圧力をかけてこないでくださいよ。

そして睨んでこないでくださいよ。怖いよ。

「伊吹ちゃん。何怒ってるの?」

「怒ってないわよ」

「怒ってるっぽく見えるよ」

「怒ってないわよ!」

「伊吹ちゃん。怒るのはよくないよ」

「あなたたちが怒らせなかったら怒らないわよ」

 あんたたちって。俺怒らせることしてないのに。

 これがしばらく続くのかよ。

 これから先、大丈夫なんだろうか。俺。

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