第9話 有馬凪という俺の愛する弟①

「今日もようやく学校が終わった……‥」

 疲れた。

 帰っても誰もいない。

 現在俺は一人暮らしをしている。

 実家から遠い学校に通っているから一人暮らしをさせてもらっている。

 通学に時間がかかり、尚且つ、部活をするとなると家に帰るのは遅い時間になってしまう。進学校となると勉強もしなければならない。

 通学時間が短い方がその分勉強時間に充てることができる。

 その反面家のことはすべて一人でしなければならない。

 一人暮らしは楽な面が多いけど、疲れているときは困る。

 部活があるときは疲労と腹ペコの二つが同時に存在する。

 スポーツをしている身としてはしっかりした食事をとらないといけないのだが、どうしても自炊じゃなくてコンビニとかで買ってしまう。

 せめて女の子がらみの疲れがなかったら自炊できるんだけどな。

 無理だもんな………。

 そうこうしていると自宅にたどり着いた。

 三階建てのアパートの二階の角部屋。そこが俺の部屋なんだが、

「家の電気がついてる……………」

 誰か来ているのか。

 玄関のドアを開ける。

 パタパタとスリッパの音を弾ませながら玄関にやってきた。

「おかえり。兄さん」

 家に来ていたのは弟の凪だった。

「凪、来てたのか。来るなら連絡してくれよ。駅に向かえに行ったのに」

 弟の凪は男ながらも中世的な顔立ちしていて、華奢な体つきをしている。おまけに一般的な中学男子に比べてガサツじゃない。美容にもかなり気を遣っていて肌も綺麗だ。

 凪は女の子に間違えられることもある。

 そんな凪が夜一人歩いていたらどこぞの変態に何をされるかわからない。

 凪の貞操が危険にさらされてしまうんだ。

「疲れてる兄さんにそんな苦労はかけられないよ」

「平日なら学校帰り出迎えにいけるからさ」

「でも兄さんより先に来ておかないと食事とか作れないよ」

 俺が一人暮らしをしているから凪が時折家事をしに来てくれている。

 もちろん両親も来てくれるが仕事があるから中々これない。

 その分を凪がしてくれている。

「とりあえず今日は泊って行けよ。帰るときは22時を過ぎるだろうからよ」

「うん。そうさせてもらうよ。明日は土曜日だから学校もないし」

「おう。そうしろ」

「それにしてもお疲れみたいだね」

「まあな。やっぱ学校に行くと疲れてるよ」

「大変だったの?」

「ここ最近は特にな」

「それはそれは…………またかなり大変だったね」

 ああ。大変だよ。

「ご飯できてるけど、先にお風呂に入る?」

「いや。部活終わりだから先にご飯を食べたいかな」

「そうだね。早めに食事をとらないと体が育たないもんね。すぐに準備するから」


 テーブルに凪の手料理が並べられた。

 どれも美味しそうだ。

「「いただきます」」

 うむ。美味い。

 疲れていて腹ペコの俺の腹が満たされるのがわかる。

 ご飯も進む。

 できることなら毎日食べたい。

「凪」

「何?兄さん」

「どうやったら弟と結婚できるんだ」

「に、兄さん。何言ってるの⁉」

「いや。なんとなく思ってな」

 凪と結婚したら毎日この美味しいご飯を食べられる。

 しかも俺は凪のこと好きだし。

「血がつながっていないならともなく。血がつながってるんだからできないよ」

「血がつながっているからできないのか」

「うん」

「愛にそういうのは関係ないだろ」

 結婚なんて所詮社会が生み出した風習にすぎない。

 愛は風習程度に阻まれるなんて俺は納得できないぞ。

「それはそうかもだけど」

「それに普通に男だし」

「愛に性別も関係ない!」

「それもそうかもだけど……………………」

「凪は俺を愛していないのか?」

「そ、そりゃあ…………兄さんのことは好きけど………」

「だったらいいじゃないか」

「でも兄さん。僕と兄さんは血のつながった兄弟で、男同士なんだよ?」

「いやいや。よく考えてみろ。俺からしたら自分の危険対象にしかならない女の人は論外だ。かといって男に興味があるわけでもない。二次元の嫁たちはいるが、三次元でもかのうであれば結婚したいと思っている。しかし三次元の女の人は無理だ。そうなると俺が選べる選択肢は弟しかいないとなってな」

「弟しかいないっていうのもおかしなことだよ」

「あ、そっか。もうすでに家族だから結婚もする必要ないのか」

「確かに僕と兄さんはれっきとした家族だけど…………」

「安心してくれ。凪は俺が一生面倒見るから」

「僕だって一人で生活ぐらいはできるよ」

「俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!」

「それ完全にプロポーズだよね⁉」

「もちろん。プロポーズのつもりでいった」

「僕たち兄弟なんだよ。結婚なんてできないって言ったよね」

「それなら政治家になって法律を変える!これからさらに死ぬ気で勉強して政治家になって法律を変えて見せるから。それまで待っててくれ!」

「そんな理由だけで政治家にならないで…………………」

 世の中探せば兄弟で結婚したいけどできない人いるんじゃないのか。

 そうだよ。愛があれば誰を好きになって、結婚してもいいじゃないか。

 自由じゃないか。

 子供ができないように気を付ければいいだけだろ。

 男同士なんだから子供はできないわけだし。

「兄さん。なんかいろいろと拗らせすぎていない?」

「拗らせていないさ。弟に対する愛があるだけだ」

「それを拗らせてるっていうんだと思うんだけど……………」

 中学時代あんな過去があったら誰だって拗らせる。

 わけのわからない女子たちよりも自分のことを理解してくれている弟の方がいい。

 凪が妹よりも弟だったっていうのもいいことだ。

 ご飯を食べ終わり、二人で後片付けをした。

 仲良く。仲良く。仲良く。

とても仲良く。

すごく仲良く。

 一緒に台所に立って、俺が洗い物をして、凪に洗った食器類を拭いてもらう。

 言葉を発しなくてもお互い慣れているからスムーズだ。

 まるで熟年夫婦のように無言の意思疎通ができている。

 だからあっという間に片づけが終わった。

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