第8話 夏目弥生という生徒会長(+役員たち?)

「有馬くん」

 授業が終わり帰宅しようとしたところで女教師の青山先生に声をかけられた。

「な、なんですか、先生」

「今日お前部活ある?」

「いえ。ないですけど」

「それなら生徒会の手伝い言ってくれないかな?」

「せ、生徒会ですか」

 青山先生は生徒会の顧問を務めている。

 こんなことを頼んでくるということは生徒会はかなり忙しいのか。

「今ちょっと新入生歓迎のイベントとかで立て込んでてな。人手が欲しい状況なんだ」

 やっぱり。

「お、俺じゃなくてもいいんじゃ……………」

「有馬君だと仕事が早いんだよ」

「そんなことないと思いますが」

 何度か青山先生に言われて、生徒会の仕事を手伝ったことがある。その時の仕事ぶりを先生は評価してくれているのだろう。

 しかし、気が乗らない。それどころか嫌までである。

「頼むよ。手伝ってやってくれ。今かなり立て込んでいるらしくて」

 それなら先生が手伝った方がいいんじゃないでしょうか。

「諸々こっそり優遇してあげるから」

「は、はあ……………」

「それじゃあお願いね」

 そう言って先生は職員室に戻っていった。

 正直に言っていきたくない。この場で駄々をごねたかったぐらい行きたくなかった。

 いや、本当に行きたくない。

 マジで行きたくない。

 このまま生徒会室に向かわずに昇降口に向かって帰りたい。

 でも先生に行くと言ってしまった。きっと生徒会の人たちにも情報は言っているに違いない。

 ここで帰ってしまったら俺は先生を裏切ることになる。

 それはこちらにデメリットが大きい。

 コンコン

「は~い。どうぞ」

「失礼します」

「あ、有馬君」

「どうも」

 出迎えてくれたのは書記の人だ。クラスは違うが俺と同じ2年生の人。

「会長。有馬君が来てくれました」

「有馬君」

 一番奥の席に座っていた生徒会長さんもやってきた。

 生徒会長の夏目弥生さん。

 俺の一つ上の三年生。この学校の理事長のお孫さんであり、いわゆるお嬢様と言われる人だ。見た目はもちろんのこと、所作一つとっても美しいという言葉が似合う。

 当然勉強もできる。学年首席をここまで一度も譲ったことがないという才女。

 ここまででかなり凄いのだがこの人が一番すごいのは彼女の豊満な胸だ。

 たわわという言葉がふさわしいほとのおっぱいだ。

 見ないようにしているがそれでも目に入る。それほどまでに立体的で巨大だ。

 そんな脂肪の暴力体を持ち合わせている彼女も俺にとっての天敵だ。

「来てくれてありがとう」

「いえ………まあ………お忙しそうなので」

 本当は来たくなかったけど。

 今すぐにでも帰りたいんだけど。

「さあ入って」

「……………」

「どうしたの?入って」

 体が動かない。

 こんな狭い生徒会室で中にいるのは女の子ばかり。

 こんな俺にとって地獄な空間に足を運ぶ。体が無意識的に拒否反応を起こしている。

 入らなければならないのはわかっているのだが、体が拒否している。

 わかってる。危険信号を発しているのはわかっている。

 だがこの場で逃げてしまってはさらなる危険が生まれてしまうんだ。

 だからここは耐えてくれ。

 すぐに終わらせるからさ。

 自分の体を納得させ、俺は生徒会室に入った。

入ってすぐ副会長さんが死んでるのが目に入った。

 机の上には大量の書類が置かれている。あの大量の箱の中には領収書類か。

 机にこれだけ積まれているということはほとんど処理できていないのか。

 その状況で副会長さんが死にかけている。

 庶務の方もかなり疲弊している。

 言いたくないが終わってるな。

「御覧の通り。業務がかなり立て込んでてね。八方ふさがりなんだよ」

 確かに。

「早速だけど仕事にとりかかってくれる」

「わかりました」

 書類系は各役員の権限で処理をしないといけない。なので俺は領収書の処理を行うことにした。何度もしたことがある仕事なので困らない。

だからわかる。

ここにあるのはかなり量が多い。

 ある程度の量は予想していたが、その予想を超えて処理する量が多かった。

 四月になると新入生向けのイベントが各部活や委員会で行われる。加えて生徒会主催のイベントも行われるから会計処理しないといけないものが増える。

 ある程度は覚悟していたがそれにしても多い。

 かなり骨が折れそうだ。

 通常生徒会にこんな会計させないと思うんだが。

 一応会計ソフト入ってるとはいえ生徒会4人で処理できる量を余裕で超えてるだろ。

 もう少し人増やしてもいいんじゃないか?

 ぐちぐち行っても始まらないか。

 とっとと終わらせて帰ろう。

 オタクにとってパソコンを扱うのはスマホを扱うようなものだ。

 しかも会計ソフトある。あとは数字を打ち込んで最後の処理をしていけばいい。文字を入力するわけじゃない。流れ作業でひたすら処理していけば終わる。

 ひたすら打ち込んでいく。

 時間を忘れるほどに集中して作業を行う。

 じゃないと大変なことになる。

 しかし、気まずい。

 女の子ばかりのこの空間に男がただ一人というのは気まずすぎる。

 ハーレムと思うかもしれないがそれはトップが男の人で他が女の子の場合だ。

 唯一の男である俺はサポートの立場。いわば立場としては一番下に匹敵する。

 そんな俺にとってこの状況はかなりのものだ。

 女性ばかりの職場でただ一人の男として働くのはこんな感じなのか。

 それはなんか辛いわ。

 狭い空間に女の子たちばかり。そこに男の俺がいる。

 俺にとっては尚更辛い。顔を上げれば誰かしらと目が合う。いてはいけないような気がしてならない。彼女たちから許可はもらっているとはいえ居心地が悪すぎる。

 女子たちの空間だと女の子特有の空気というか雰囲気がある。それが気持ち悪くなってくる。匂いというか香り的なものというか。

 ダメだ。そんなことを考えるとほんとに気持ち悪くなってくる。

 とにかく今は仕事を終わらせることに集中しよう。

 そして早くこの場から去ろう。


「お、終わった…………」

 この場から逃げ出したい一心で仕事をしたおかげで比較的早く仕事を終わらせることができた。

 その代償は酷い。

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

「全部終わったの?」

「終わりました。あとで一応確認しておいてください」

「わかった。確認しておく」

「それじゃあ俺帰りますね」

「ちょっと待って」

 会長さんに引き留められた。

「な、なんですか」

「来てもらったのに何もしないで帰すわけにはいかないよ」

「だ、大丈夫ですよ。ただ手伝いに来ただけですから」

 俺にとって一番のお礼はこのまま帰らせていただけることなんです。

 なので帰らせていただきたいです。

「お茶も淹れた。せっかくだから飲んでいってくれ」

「どうぞ」

 すっと書記の女の子がお茶を持ってきた。

「ずっとパソコンに向かって目も疲れたと思いますのでハーブティーをどうぞ」

「あ、ありがとうございます………」

 ここまで気を遣われてしまったらいらないとは言えない。

 くそっ。帰れなくなってしまった。

 紅茶の味よくわからないんだよな。

 でも出してもらった以上は飲まないと。

「いただきます……」

 ああ…………。

 ハーブティーってこんな味か。

香りはいいんだけど個人的には甘さが欲しくなってくるな。

「お菓子どうぞ」

 今度は副会長さんがお菓子を持ってきた。

「ありがとうございます…………」

 なんかすごい気を遣われているような気がして落ち着かないな。

 しかもなんか高級そうなお菓子がでてきたし。

 なにこれ。お茶会か何かなのか。

 これ食べたらお金請求されるとかないよな。あくまで仕事の対価としてだよな。

「手伝ってくれてありがとうね」

「い、いえ」

「忙しいのに手伝ってもらって助かりましたよ」

「本当です。手伝ってもらえなかったらパンクしてました」

 だったらもっと人手を増やしたらいかがなのでしょうかね。

「みなさんも中々大変でしたよね」

「そうなのよね。死ぬかと思ったわよ」

「なるべく早く新入生関連は処理してしまわないといけなくてね」

「どうしてですか」

「5月に入ればインターハイ予選に向けて運動部が動き出す。そうなると処理する量がまた増えてくるからね」

 去年各部活は大会で好成績を収めていた。

 OB・OGからの寄付金が増えている。それによる備品の新調・拡充が行われている。

 また暑さ対策も施さないといけないからその分の支出もある。

 だからなるべく早めに処理をしておきたかったのか。

 それまでわかっているなら人増やしてらどうなんですかね。

 じ~。

 じ~。

 じ~。

 じ~。

「な、なんですか」

 なぜか四人からじっと見られていた。

「いやね。君も考えているかもしれないが生徒会は人が少なくてね。人手を探しているんだ」

「は、はあ………」

「それでなんだけど生徒会に入る気はないかい?」

「お、俺がですか」

「君がいてくれると仕事がスムーズに進むんだよ」

「以前運動部のいざこざを対処してくれただろ。あの時は本当に助かったよ」

 対処してくれたって‥…………。 

 あれほとんど対処させられたようなもんだぞ。

 あの時は部活の休憩中にたまたま他の運動部のいざこざを目撃したから対処しただけ。

 生徒会の役員が対処しないといけないのになぜか俺がしたんだよ。

 しかも対処したって言ったがあれはかなり大変だったよ。

 おかげで一部から恨まれるようになってしまったし。

「私が引退した暁には生徒会長になってほしいと考えてるんだ」

「生徒会長ですか…………………副会長さんとかがいるんじゃ」

「私に学校のリーダーは難しいよ」

「それなら他の方でもいいと思いますよ。経験者がなるべきですし」

「いや~会長さんの仕事ぶりをみてできるとは思えませんよ」

「あんな激務自分がこなせる気がしないですよ」

「だよね」

 何がですよね。

 役員さんならもう少しやる気を出してくださいよ。

「大変なのは事実だから否定できないからね。そう思うのは当然よね」

 現役の役員さんがやりたがらないのを知っているからそれを俺に押し付けようってことですか。そういうことなんですか。

「そういうわけで私としては君にお願いしたくてね。他の役員も引き続き継続させるつもりだ。みんな君を支える気満々だよ」

「はい。全力でサポートします」

「任せて!」

「生徒会長である有馬君の手足になって頑張りますから」

 手足って……………。

「有馬君のためにならなんだってするよ!」

「有馬君を支えて見せるから!」

「私たちを選んで!」

 何その言いぶり。

 俺はプロポーズでも受けているのか?

 それならすぐに断らせてもらいますよ。

 ろくなことがない気がしてならない。

 生徒会が有馬正人のハーレムだなんて不名誉なことをいわれかねない。

 それに………、

「俺部活もありますし」

「大丈夫そのあたりは彼女たちにも頑張ってもらうさ。ここで役員をしているから仕事はできる。私が保障する」

「そうかもしれないですが…………」

「それにきっと私が会長をしているときよりも仕事ははかどると思うから。思ってるほど君に負担はいかないと思うよ」

「思ってるほどと言いましてもね……………」

「まあ、生徒会の話は2学期以降の話だから頭の片隅にでも入れて考えておいてくれ」

「はあ……」

「インターハイ予選で忙しくなるだろうからね」

「えええ。まあ」

 夏が明けたら新体制になるだろうから、それはそれで忙しくなると思うんだが。

 むしろそっちの方が忙しくなると思うんだが。

「まあ、そんなつまらない話はここまでにしよう」

 そういって会長は話を切った。

 そして立ち上がるとこちらに来てなぜか俺の両肩に手を置いた。

「ど、どうしました。生徒会長」

「いやね。ずっとパソコン作業をしていたから肩が凝っているだろうと思ってほぐしてあげようかと」

 ゆっくりと会長が俺の肩をほぐしていく。

「なんか凄く硬くない?」

 女の子から肩を揉まれて硬くならない俺じゃない。

 硬いのは俺が意図的に肩に力を入れているからだ。

 そうしていないと理性が保てなくなる。ただでさえこの空間にいるだけで辛いのに実際に触られていたらおかしくなる。

 俺の視界に生徒会長の姿は見えないから会長が肩を揉んでいるとは限らないかもしれない。しかし、肩に伝わる感触から少なくとも女の子であることはわかる。

 細く、長く、か弱そうな指。男みたいに強くない力。

 女の子だと体が明確に認識している

「有馬君。目、ギンギンになってるよ」

「充血しちゃってるよ」

「大丈夫?」

「あら。よっぽど眼精疲労がたまってるのね。だからこんなに肩が凝っているね、納得だわ」

 確かに目は疲れてますが、それが理由じゃないんです。

 会長さんが俺の肩から手を放してくれたらすぐ治りますから。

「男の子の肩ってこんなに硬い物なのかしら?」

「有馬君はバスケしてますから」

「なるほど。筋肉がついているからということね」

「だと思いますよ。筋肉は硬くなりますから」

「いいですね。男の子の筋肉」

「そうね」

 俺の肩で談笑しないでください。

「!」

 とあることが起こった。

 その瞬間俺は言葉を失った。

 俺は今感じ取ってしまった。背中に異様なほど柔らかい何かが接触したり、離れてりしているのを。

 正体はすぐにわかった。

 生徒会長のはちきれんばかりのおっぱいだ。

 手に力を入れる際にどうしても前かがみになってしまう。

 それによってたわわな生徒会長のおっぱいが背中に当たってくる。

「有馬君。さらに顔ひきつってない?」

「本当だ。目もさらに充血してるし」

「大丈夫?本当に大丈夫?」

 変な顔をしないように注意しないといけなかったから懸命に冷静を保とうとする。

 その結果顔が引きつってしまったかもしれない。

 でもそうしておかないとキモい表情をしてしまいかねない。

 ここは全身に渾身の力を入れておかないと。

「やだ。さらに硬くなっちゃったんだけど。ガッチガチになっちゃったわよ。どれだけ硬くしてるのよ」

 俺が力を入れたせいで硬くなった肩をほぐそうと会長はさらに力を入れる。それによってさらにおっぱいが俺の背中に接触する。少し当たっていたのが押し付けているに近いぐらいに接触する。

 おっぱいの柔らかさがよく伝わってくる。

 やばい。これ以上はまずい。

 俺の体がいよいよ悲鳴を上げだす。

 なんとか体を納得させてこの場に入ったんだ。それなのに体が拒否反応を起こすようなことをされてしまったら体はもう持たない。

「(ダラダラダラダラダラダラダラダラ)」

「あ、有馬君。鼻血出てるよ………」

「ほんとだ……」

「疲れすぎ?」

「あら。やだ。しかも両方から出ちゃってるじゃない⁉そんなに疲れてたの?」

 その後の記憶はなかった。

 きっと何度か生死を彷徨っていたんだろう。

 

 気が付いた時には家路を歩いているときだった。

 

 よくあの場から無事に生還できたよな、俺。


 ちなみに翌日役員の女の子に聞いたら、会長さんが俺を膝枕して休ませてた。それである程度回復した俺は無言のまま生徒会室から出て行ったらしい。


 膝枕って…………。


 とどめを刺しに来てたのかよ。

 

 それでよく俺死ななかったよな。

 

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