第5話 戸塚伊吹という風紀委員長の女の子①
この声の主は女子生徒の者。聞いたことのある。なんなら聞きなれた声だ。聞きなれたくもない女子生徒の声だ。
風紀委員長だ。
風紀委員長の戸塚伊吹さんだ。
俺や雨宮さんと同じクラスの女の子。黒髪ロングの女子生徒。
彼女も学業優秀で常に学年トップクラスの成績を有していて、勉強面においてライバルの一人として勝手に認知している。
風紀委員長を務めているだけあって模範的な生徒として認知されている。制服を着崩していないのを見ればそれがわかる。
自分に厳しいタイプだろうが、同じぐらい他人にも厳しい。
風紀を乱す人は許さない。校則を破る生徒には容赦しない。
だからこの状況に彼女が現れたというのは最悪だった。
バットタイミングだった。
「こんなところで何してるのよ!」
怒り心頭な表情でこっちの方に詰め寄ってきた。
「何って聞かれてもね」
「何しているのか聞いてるのよ」
「別にいやらしいことはしてないよ。ただちょっとキスしようとしただけ」
「キ、キ、キ、キ、キス⁉」
「そ。有馬君がしたいっていっていたから」
「あ、あんたね!」
何で俺が怒られるんだよ。
何も悪いことなんてしていないぞ。むしろ悪いことをしてきているのは雨宮さんの方だ。
俺は悪くない。無実だ。
俺はしたいなんて一言も言ってないのに。
なんなら俺は被害者側だというのに。
なんてことを思っても意味がない。
そんなこと俺はわかっている。
この状況になった時点で俺は負けている。
「本当はエッチなこともしようと思ったんだけど。有馬君が嫌がってね。じゃあとりあえずキスからしようかって」
「…………エッチなこと………………?」
戸塚さんがフリーズした。
ほどなくして『かちん』という擬音が聞こえてきた。
「あ、有馬正人!」
この上ないほど怒鳴られた。
恐ろしいほどの怒号が飛んできた。
「す、すみません…………」
無意識に誤ってしまう。
こんな風になったらひたすら謝るということが体にしみ込んでいるからだ。
謝って許されるなんてことは一度もなかったが謝らなかったらそれはそれでマズいことになる。謝っておくことはこれ以上怒らせないために必要なことだ。
「伊吹ちゃん。安心して。冗談だから」
「冗談?」
「そう。冗談だよ」
「ならいいけど」
「したいって言ってきてくれたらするけどね」
戸塚さんの突き刺さるような視線がこっちに飛んでくる。
雨宮さん。お願いですから火に油を注ぐような発言しないでください。
油が注がれたことで燃え盛る火が俺の方に飛んでくるですから。
痛くて痛くて。辛くて辛いんですから。
「私や有馬君がが何をしてるわけでもないのに」
「してるでしょうが」
「ほんと毎度毎度寧々は男子生徒をたぶらかすようなことをして」
「風評被害なんだけど。私彼氏いたことないんですけど」
「ダウト。何人もいたって聞いてるわ」
「その話こそダウトだよ。本当にいたことないんだから聞くことはないはずだよ」
「いるから噂が流れてるんでしょ」
「噂程度のことだけを信じて人を疑うのはよくないよ」
「噂であっても信ぴょう性があれば疑うのは当然よ」
「信ぴょう性なんてないのに」
「これからしようとしてただけだよ~」
「あんたはいつもいつもそうやってね」
「伊吹ちゃんそんなに怒ったらストレスたまるよ」
「私だって怒りたくないわよ」
「じゃあ怒らなかったいいと思うよ。女の子は可愛くいないと」
「風紀を乱すようなことをしなかったらいいだけよ」
「これぐらい普通なんだけどね。伊吹ちゃん本当にJKなの?」
「れっきとした女子高校生よ」
「だったら恋愛することぐらいいいよね?」
「恋愛そのものは否定しないわ。だけど限度ってものがあるでしょ」
「してるわよ。していないと警戒対象になんてならないでしょうが」
「雨宮寧々。あんたは先に教室に戻ってなさい。私は彼と話しがあるから」
「私だけのけ者にするの?」
「あんたはまた別で説教するわ。とりあえず先に彼が先ってだけよ」
「二人きりになって変なことしようしてるとか」
「しないわよ」
「わからないよ。私がいないところでいけないことするとかあり得るかも」
「そんなことするわけないじゃないのよ!」
「二人っきりになったからイチャイチャするとかしてもおかしくないもんね」
「だからしないわよ!ちょっと嫉妬しただけ…………あ」
「あ~本音が漏れたね」
「違う!違うから!」
「本人がいるこの場所でそんなこと言っても無駄だと思うんだけどな」
「ぬぐっ…………
「ね、有馬君」
「……………」
「あれ、有馬君?」
「………はい?何か」
二人が言い争いをしている間に屋上から立ち去ってしまおうとしていたのをギリギリのところで見つかってしまった。
ドアノブに手をかけたところまで行っていたのに。
あと少しでこの場から逃げられたのに。
「どこに行こうとしてるの?」
「いや、ちょっと………………お手洗いに行こうかと」
「逃げようとしてたの?」
はい。逃げようとしていました。
女の子と女の子がいい争いしてるのも精神的に来るものがある。
特に戸塚さんの怒号が飛んでいた。
こっちに飛んでくるのは耐えい難い。
苦痛ですらある。
「逃げていいなんて誰が言ったのよ?」
「有馬君。この場から逃げるのはよくないよ」
よくないって。俺悪いことしていないのに。
「ちなみに聞くけどさっきの話聞いてた?」
「さっきの話、ですか」
「そう。私たちがしていた話だよ」
「すみません………あんまり」
右耳から入ってきたのを左耳から出していた。それにより頭が彼女たちの会話を認識できないようにしていた。
「な、ならいいわ」
「あれ?よかったの?」
「よかったわよ」
おそらく男子生徒には聞かせたくないことなのだろう。
それを男子生徒である俺が聞いたところでだ。
聞いたとしても不利益を被るのは俺になる。
「はら。寧々は先に戻ってなさいよ」
「はいはい。戻ってますよ」
「じゃあね~」
俺の近くを通って中に戻ろうとしたところで足を止めた。
「な、なんですか?」
耳元にやってきた。
や、辞めて。これ以上俺を削らないで。
「一応さっきのこと教えておいてあげるね」
いいですって。興味ないですって。
「会話の内容とかじゃないんだけど………」
「伊吹ちゃん、有馬君のこと好きなんだよ」
「⁉」
え、何その話。
初耳なんですけど。
またそのパターンなの?
雨宮さんの言うことだぞ。あの人のことだからまた俺をからかうようなことを言っているに違いないな。
そうだな。きっとそうだ。
戸塚さんみたいな人が俺のことを好きなんてラブコメじゃないんだから。小●川とかじゃないんだから。
「ちなみに本当のことだから」
「⁉」
「ちょっと!二人で何話してるのよ!」
「え?さっきのことだよ」
「さ、さっきのこと…………?」
「それじゃあ~教室でね~」
とんでもない爆弾を渡してきた雨宮さんは手を振りながら彼女は屋上から去っていった
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