第4話 雨宮寧々という女の子②

 普通ならドキドキするセリフなんだろうが、俺にとっては別の意味でドキドキする。

 これから先彼女から狙われるということを宣言されたということだ。

 それは困る。

 マジで困る。

 雨宮さんの場合はかなり困る。

 この人の距離の詰め方はえげつない。距離を詰めてこられたら俺はその場で倒れる。

 何より俺が女性恐怖症だって知られてしまったら大変なことだ。

 女子生徒に弱みを握られてしまうということ。中学時代に戻ってしまうかもしれない。

 たとえ俺がモテてると言ってもそれは起こりうる。

大変なことだ。

せっかくここまで頑張ってきたのに。

「それにしても不思議なんだよね」

 俺をじっくり見ながら彼女がそんなことを口にした。

「有馬君ってモテモテなのになんかモテ男子って感じはあんまりしないんだよね。むしろ正反対の感じがするよ」

 モテてるだけであって恋愛経験はゼロだからな。

 モテ男子というわけじゃないんだ。

「まあ、そんな感じの男の子の方が私は好きだからいいんだけど」

「俺はモテるかもしれないですけど恋愛経験はないですからね」

「ないの?」

「ないですよ」

「そうなんだ。まあそれの方が私にとってはいいけど」

「俺よりもっといい人いると思いますよ」

「いるかもね。でも私は有馬君のことが好きだから」

 だからなんでそんな堂々と好きって言えるんだよ。 

 そんなに俺に固執するほどの人間じゃないって。

「なんで俺のことが好きなんですか」

「う~ん。理由か~」

「そうです」

「頭いいとか、運動神経いいとか、かっこいいとか、優しいとかいろいろ要素はあるけど、好きになった。それだけかな」

 それだけって。そんなことあるか。

「逆に聞きたいんだけど、有馬君は好きな人いるの?」

「いませんが」

「それならいいね」

 よくないですって。

「でも好きな人がいないのに告白を断るのはなんで?」

「なぜといいましても…………」

「あ、わかった」

「わかった?」

「エッチな事させてくれなさそうな女の子ばかりだったんだね」

「違います」

 即答した。

 何を言い出すかと思えば、とんでもない偏見を

「そっか。そっか。そういうことだったんだ」

「あの、違いますからね」

「流石学校一のモテ男子、かつ、学校一女遊びをしている男子と言われているだけのことはあるね。エッチなことをさせてくれない女の子に用事はないというわけだ」

「そんなことあるはずがないじゃないですか」

「わたしだったらいいよ?」

「な、何がですか………………?」

「エッチなことしても」

「⁉」

 一瞬ぶっ倒れそうになった。

 本当に何言ってんだよこの人。

「私こう見えてスタイルにはかなり自信あるんだ。ちょっと肉好きが良すぎるみたいなんだけど。まあエッチなことをするならそれぐらいの方がいいと思うんだよね」

 知らないって。

 童貞の俺にそんなこと言っても全くよさなんてわからないんだよ。

 

「手始めにキスでもしようか」


「⁉」


 なんてこと言いやがる。

 今この状況だってギリギリで耐えているのにそこからさらに何かをされたら俺は即答する。心肺停止してしまう。

 キスした瞬間泡吹くわ。

「あの……ちょっと…………もっと自分を大切にした方がいいと思います」

「大丈夫だよ。私は気にしないから」

 あなたはシまくりのヤりまくりだから気にしないかもしれないが俺は気にするんですよ。

 俺は死にたくないですよ!

「好きな人とのキスだよ?嫌なことないよ」

 俺の意思は考慮されてないって。

 いよいよまずい。今すぐここから逃げないと。

 俺は素早く逃げる。

 両頬を掴められた。彼女の肌と俺の肌が触れた。

 全身の毛という毛が逆立った。

鳥肌も立った。

悪寒が全身を襲ってきた。

「よしっ。これで逃げられないね」

 逃げられない。完全に捕まってしまった。

 全身が硬直してしまったから強引に引きはがすことができない。

 彼女の顔が少しずつ近づいてくる。

 五感すべてが女の子を認識する。

 目の前に女の子がいて、さっきまで彼女の声を聴いて、肌と肌が触れていて、至近距離にいるから女の子の香りがしていて、そしてこれからキスされようとしている。

 あ、ダメだ。

 頭がくらっとしてきた。意識が朦朧としてきた。

 意識が朦朧としてきたから体も動かせない。どうにもすることができない。

 ある程度防衛本能は働いていたが今は完全に停止してしまっている。

 終わりか。俺はここで死ぬのか。

 女の子にキスされて死ぬのか。

 ロマンチックな死に方かもしれないが、それにとっては最悪の死に方だ。

 あ~まだやりたいことあったのに………。

 しかし逃げられない。

 俺はもうあきらめるしかないのか。


 ドン!

 

 勢いよく屋上のドアが開けられた。

 雨宮さんが閉め忘れたのか誰かが入ってきたみたいだ。

 助かった、そう思った。


「なにしてるのよ!」


 聞こえてきた声を聞いて俺は絶望した。

 別の女の子の声が聞こえてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る