食中毒になってまで生食にこだわるバカどもへ:実は日本人だけじゃなかった?

 日本人は生食にこだわりすぎである。

 寿司や刺身を食べて毎年何百人もアニサキスに当たり、腸管出血性大腸菌O157による食中毒で何度人が死のうがユッケやレバ刺し、レアハンバーグを食べるのをやめない。

 正直ここまでくるとバカなんじゃないの? と言いたくもなる。

 文化だから、美味いからという理由だけで死んだら元も子もない。


 と、思っていたが、実は生食文化というのは日本やその他アジア国家に限らない。

 意外や意外、実はアメリカはニューヨークこそ、かつては生牡蠣でその名を馳せた一大都市だった。牡蠣なんてノロウイルスなど食中毒の頻発事例であり、生で食べるのは愚かしいと言わざるをえない。

 それでも牡蠣の生食が美味いのには科学的根拠もあったりする。


・牡蠣の街ニューヨーク


 ヨーロッパでも一部地域では豚肉を生で食べたりする(ドイツのMettなど)が、基本的に生食はあまり受け入れられてこなかった。しかし、唯一例外的に生食することが多かったのが牡蠣である。

 この文化が受け継がれたアメリカでは19世紀、ニューヨークでは牡蠣は生に限るということでレモン汁と塩胡椒、酢だけをかけてバーやその辺の露店なんかでも普通に売っているほどだった。

 こうして大量に消費された結果ニューヨークの牡蠣は取り尽くされ、現在ではほとんど姿を消した。

 では生肉や生魚を食べることに抵抗の強い欧米人になぜ牡蠣だけは受け入れられたのだろうか。

 スチュアート・ファリモンドの「料理の科学大図鑑(The Science of Cooking)」によれば、肉を含め大抵の食品が加熱すると美味しくなるのに対し、軟体動物が持つアミノ酸の一種グルタミン酸が加熱によって閉じ込められ、筋肉のタンパク質が凝固することによって味蕾に届かなくなることをあげている(同時に海中のプランクトンや藻を濾過摂食する牡蠣が様々な有毒微生物を保菌し、感染症の原因であるとも注意書きしている)。

 なるほど、猛烈な腹痛で地面をのたうち回るハメになっても生牡蠣を美味しい美味しいと食べている人々を不思議に思ってきたが、そこには科学的に裏打ちされた旨味があったというわけか。


・どうしても牛肉を生で食べたいバカどもへ


 2011年にフーズ・フォーラスの運営する「焼肉酒家えびす」でユッケを喫食した客にO111(腸管出血性大腸菌の一種)による集団食中毒事件が起きてから、法律が改定されたせいで現在の日本では一部の厳格な基準を満たした店舗でしか生肉を提供することは許されていない。

 しかし、同じ牛肉でもレアステーキはいいのに、なぜユッケやレアハンバーグは危険なのか? と疑問に思う方もいらっしゃるだろう。

 実は、大腸菌というのは大体肉の表面にいることが多いのだ。主に穀類をエサとして与えられている日本の肉用牛はその約一割が酸性になったルーメン(第一胃)内に耐性を持つ大腸菌を保菌しており、屠殺時に牛の糞便が表面に付着するのを防ぐことがほとんど不可能に近いからである。

 つまり逆を言うと、筋繊維の奥にまで大腸菌は入り込みづらい(ゼロとは言っていない)ため、表面を十分に加熱すれば基本的に大丈夫なのだ。

 だがハンバーグやユッケでは、肉をカットするときにどうしても肉の表面がその他の部分と混ざりやすく、まな板や包丁、ミンサーなどに付着した大腸菌が紛れ込む恐れが極めて高い。

 静岡県が誇る炭焼きハンバーグ「さわやか」などでは中身が多少レアでも比較的に安全に食べられるハンバーグを出しているが、これも徹底した衛生管理でこそ実現できるものである(肉の表面を十分に加熱して菌を殺してから中の赤身部分を使うなどの手法がとられているのでは推測される)。

 筆者は若くして死にたくはないので、皆さんが家で牛肉を食べるときは基本的によく焼きをオススメしている。


 が、それでも美味いものは美味いし、俺は生で牛肉が食いたいんだよ! という方もいらっしゃるだろう。

 やれ脱法ユッケだ、馬ならレバーでも食べられるとか、涙ぐましい努力でどうにかして生肉を食べようとする愚か者の実に多いこと。

 まぁ、気休め程度に大腸菌とかに抗菌作用のある緑茶でも一緒に飲んどきゃいいんじゃね?(適当)

 それじゃ心配だって?

 よろしい、分かりました。もっと根本的な解決策があります。


・完全食中毒フリー? 培養肉の生食


 先ほども言った通り、大腸菌というのは牛の胃の中にいる。

 つまり、。ちなみに培養サーモンというのもあって、無論こちらも寄生虫フリーである。

 現在値段が頗る高く、すぐに一般の消費者が購入できるような普通のお店に並ぶことはないかもしれない(2013年にイギリスで作られた培養肉ハンバーガーはなんと3000万円だった!)。

 以前はチキンナゲットのようなかみごたえのないものが多かったが、昨今は技術が進歩してちゃんと繊維を持った鶏肉や牛肉を作り出すことにも成功しており(それでも味的に完全に肉と同じというわけにはいかない)、生食用の培養牛肉が実現するのも時間の問題かと思う。

 誰かが培養肉ユッケのスタートアップとかやるんじゃないか、と筆者も密かに期待を寄せている。

 美味しさの追究だけでなく、科学の力で食の安全を確保しつつ文化の継承をしていきたいものだ。

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