モブに魔王は難易度高すぎませんか!!?

エデン

第1話 女神のミス

 ここは天界。

 世界を見守り導く女神たちが暮らす別次元にある世界である。


 そんな天界にある雲に覆われた部屋で二人の女神が話し合っていた。

 美しい白髪と絹の服に身を包んだ女神たちの名前はベテランのダフネと見習いのイシスである。

 どうやらイシスは先輩女神であるダフネに何かを相談しているようだ。

 かなり焦っているようだしダフネもあまり良い顔をしていないことから察するに、この新米女神はまたやらかしてしまったらしい。

 


「ど、どうしましょう!? 先輩……また、私やらかしちゃいました!!?」


「何やってんのよあんたは……。胸だけ大きく成長させて、女神としてはまったく成長しないわね」


 ダフネは自分の足元を一直線に見下ろすと、憎々しそうにイシスの豊満な胸を見る。



「す、すいません先輩……ミスばっかりで。本当に申し訳ありません!!」


 イシスは恥ずかしそうに胸に手を当てると、髪がボサボサになるほど何度も謝りながら頭を下げる。

 そんなおっちょこちょいな後輩女神、イシスを見て仕方なさそうにため息をついた先輩女神、ダフネはイシスを安心させるようにイシスの肩に右手を置いた。



「仕方ないわね。後輩のミスは先輩の責任になるし、今回も私が上手いことカバーしてあげるわ。それで、今回は何をやらかしたの?」


 ダフネは片目を開けるといつものことだと言いたげにイシスに尋ねる。

 すると、イシスは何度かダフネの顔色を伺いながら震える口を開いた。



「その……怠惰の魔王因子を地球という辺境の星に生まれた赤子に誤って付与してしまいました……」


「う、嘘でしょ!? 無理無理無理!! 私、明日には女神解雇なんですけど!? 何も聞いてない! 私は何も聞いてません!!」


「そ、そんな!! 先輩、信じてたのに……」


 ダフネは頭を抱えながら後輩の目元からこぼれ落ちる涙を見た。

 それを見たダフネはもっとイシスに焦ってくれと直に訴えかける。



「どんな神経してんのよ!! 魔王の因子の力を悪用されたら地球なんていう非能力者しかいない星は一瞬で粉々じゃないの!! それに、本来魔王の因子が与えられるはずの世界は今頃大変なことになっているのに、なんでもっと早く対処しないのよ! 天界の1秒は地上では1日なのよ!? こうしている間にも世界が崩壊して、私たちの女神生活もお終いよ……あぁぁ、なんて可哀想なの私……」


 膝から崩れ落ちたダフネはイシスの胸に顔を突っ込むと涙と鼻水を垂れ流しにする。

 そんな自分可哀想女神のダフネの髪を撫でながら、なぜか慰めるはめになっているイシスは怠惰の魔王因子とは何なのか聞いた。

 新米の彼女にとってまだ女神としての知識が足りてないのだ。



「魔王因子って何なんですか先輩……?」


「そんなことも知らないで女神やってたの!? あんた、もう一回女神見習いやりなさいよ! てか、なんで女神になれんのよ!!」


「すいません、お母様が大女神なんです……」


「チッ、親のコネ……。私なんて300年も勉強して女神になったのに。やってらんないわ。はぁ、とにかく、魔王因子っていうのは厄介なの。七大罪と呼ばれる禁忌の力なんだから。特に怠惰は一番たちが悪いの。なにせ、怠惰であればあるほど勝手に強くなって成長していく。剣術でも魔法でも頭脳でも何でもね」


 それを聞いたイシスはようやく自分のやらかしを理解できたのか、生まれたての小ヤギのように足をプルプル震わせながらどうすれば良いのかと嘆く。

 そんなイシスを見たダフネはこうなったら女神の力で魔王因子を本来与えられるべき世界に戻すと提案した。



「こうなったら魔王因子を元の世界に戻すしかないわね」


「でも、先輩。そんなことできるんですか?」


「魔王因子を持つ地球人を異世界に転生させるのよ。もう、この方法しかないわ」


「転生って女神の中でも禁断の方法では!?」


「細かいことなんて気にしてられないでしょ! とにかく、怠惰の魔王因子を持って生まれた……えっと、立川友也なんて言う高校生を地球から天秤星(異世界)に転生させてしまえばいいの。見てなさい親のコネ女神後輩。これが、本当の女神の力なんだから!!」


 自信満々にそう言い放ったダフネはイシスに人差し指を突きつけながら女神の力を使うと、水晶玉に映る冴えない少年を異世界に転生させるのだった。


――次回に続く。


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