第20話
本当のことを知っているのは
俳優ではなかったし、その道を選ぶとも断言してはいなかったけれど──眩いばかりの圧倒的な美貌を持つ
当時のアベル
ヘドロのような、人間のような。阿片のような、麻薬のような、お香のような。何もかもすべてが混ざり合った、何者でもない存在が、広い第四撮影所にじわじわと広がっていく。二式は血を流す
「お母さん……待たしてほんまにごめんなぁ……もっと早うに、お父さんも一緒に香港に来れたら良かったんに……」
「紅花姐姐……你喺呢度待咗好長時間咩?(ずっと、ここにいたんですか?)」
天井から血が滴る。二式の痩せた腕に、華奢な肩に、
だが二式は、そして
この痛みは。
劉紅花の痛みだ。
そして、第四撮影所で命を落とした人々が背負う痛みだ。
それもまた、
だがある時、
「我哋去日本(私たち、日本に行く)」
「喺老公嘅家鄉,佢演咗一部電影(夫の故郷で映画に出るわ)」
それで、
──最初から、彼女は言い放っていたではないか。
「映画作りなんてどこでもできる」
──
足だけではなく、全身が重い。身体中がボロボロだ。流れる血を止められない。二式も、
三会會は
香港を去ると言い切った
彼は、わずか数日で徹底的に壊された妻を、見た。
「殺咗我」
愛する『夫』を濁った瞳に映した
日本人の『夫』は息子に頬擦りをして、撮影所の扉の外に置き、それから
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