決別 3

 翌日、仙台拘置所に向かった。

 拘置所というものはドラマなどで見るばかりで、まったく未知の領域だ。

 建物にまず、気圧されてしまったが、僕は立ち入った。


 案内を読んで、接見の申請書を書き、呼ばれるのを待つ。


 やがて面会室に呼ばれる。面会室では、ビデオカメラでの監視が常時行われており、隅に職員が立っていた。


 どんな凶悪な面構えの母親が待っているかと思ったが、そこにいたのは普通の女性だった。

 苺果ちゃんも小柄だが、母親も小柄だ。頬肉がこけて、骨が出っ張っている。

 苺果ちゃんの年齢から計算して、母親は四十くらいになるのではないかと思われたが、それより年齢をかさねているようにみえる。


「……久しぶり、お母さん」


「……久しぶりね」


 母親は、祖母とは違い、苺果を捉えた。


「この人と、私、結婚するから」


「……そう、おめでとう。なにもお祝いを渡せなくてごめんなさいね」


 母親は意外にも、申し訳なさそうに頭をさげた。

 その日常感溢れる、普通の母親の言いそうなことを言っているのが、なにか不気味なものを感じさせ恐ろしかった。


「お母さんは、人がみているところではそうやって態度も普通で……私はいつもそれが怖かったよ」


 言葉の最後のほうは独白だった。


「はじめまして、苺果さんのお母さま。僕は苺果さんと交際している長崎羊といいます。最初にご挨拶しなければならないところを申し訳ありません」


「これはまた、ご丁寧に……」


 苺果の母親は僕と目を合わせたくないようで、うつむいた。


「単刀直入に言いますが、僕が苺果さんと結婚したら、もうあなたがたに会わせません。あなたとおばあさまですね。おふたりからは縁を切ってもらいます。結婚式も、葬式も、関係ありません」


「そんな……」


 母親はさすがにショックだったようで、顔をあげて僕と苺果を見た。


「苺果さんになにをしたか聞きました。全部あなたのやったことは、知っています」


「一人娘ですよ、私から取り上げようっていうんですかっ」


「取り上げるも何も、あなたが放り出した子でしょう。愛情もなく接して。ひどい母親だってこと、自覚がありますか。今日、これを言いに来たのは、お別れの挨拶のためです。さようなら、もう二度と、会うことはないでしょう」


「……ごめんなさい、苺果」


 母親は絞りだすような声を出す。両手で顔を覆う。


「ごめんなさい……あなたには謝りたいと思ってた……ごめんなさい……ごめんなさい」


 やがて嗚咽が混じる。


 僕は無言で席を立った。苺果が後を追いかけてくる。


 面会室を出る前に、苺果は母親に小さく「さようなら」と言った。


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