実家 5

 次のページには〈死にたい〉という文字だけが、書きなぐられていた。


 日付の記載もない。時がどれだけ経ったのかわからない。


〈お母さんも、おばあちゃんも、私なんか産まれないほうが良かったって言ってる。私自身もそう思う。私なんか産まれなきゃよかった。私なんか、この世界にいないほうがよかった。


 ねえ、お母さん、私、三月やマユのおうちに遊びに行ったとき、とっても羨ましいの。


 綺麗なおうちで、三月のママは専業主婦だから、ずっと家にいて、三月が帰って来たとき「おかえり」って言ってくれるんだよ。クッキーとかを三月と焼いてね、たまに私にもくれるの。すっごく、羨ましい。私、三月のおうちに産まれたかった。お母さんの子じゃないほうがよかった。そしたらお母さんも、私がいなくて、嬉しかったでしょ。そう思うのは悪いことなのかな? 三月に言ったらきもがられるだけだから言わないけど、日記ならいいよね。三月みたいに甘えた声で、お母さんって呼びかけてみたかった。そう思う。そう思うの、お母さん。どうして私のお母さんは、だめなの〉


〈なんで女に生まれたんだろ。男なら、男と抱き合う必要ないのに。オエッ〉


〈死にたい。腕切りすぎちゃった。三月に傷見られて、引かれた。もう遊んでくれないかも〉


〈三月に悪口言われてるって、マユが教えてくれた。死にたさが増えた〉


〈売春やってるんだって、噂されてる。もう学校行けない……死にたいよ……全部私のせいなのかな〉


 次のページからは、筆跡が少し綺麗になる。

 シャープペンシルではなく、三ミリのボールペンを使っている。


〈マユと話して、決めた。高校卒業したら東京に出ていく。こんなクソみたいな親とおばあちゃんとはさよならする。


 目標:高校卒業までに百万貯めて、東京に出ること!! 百万貯めるためになんだってしよう!!


 私には若さっていう武器があるんだから、これを活用しよう!〉


 そこから、日記の記載ではなく、なにかのメモが続く。


〈四月一日 固定 三万〉

〈四月三日 新規 一万〉


 ……など。


〈四月合計 固定六 計三十万〉


 ……〈でもお母さんに全部盗られた。「あんた最近積極的じゃない」って褒めてくれた。歪んでるよ、このクソババア〉


 そこでいったん、僕は読むのをやめた。

 ノートから視線を外す。


「苺果ちゃん、今からでも、お母さんを訴えよう」

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