実家 4

〈今日から日記をつけてみることにする。


 まったく祝おうとも思えないけれど、友達の三月ちゃんにこの鍵付きノートをもらったから、活用していこう。


 誰か私を知らない人に読み返されることもあるかもしれないから、プロフィールも書いておくね。読んでね、誰か知らない人(←重要)


 私の名前は姫野苺果。


 今年で十三歳。第一中学校の美術部所属。O型。好きな食べ物は甘いものと中華料理。


 お母さんの名前は姫野夏海ひめのなつみ。おばあちゃんの名前は姫野トモエ。


 お母さんは基本的に帰ってきません。水商売をしていて、そこのお客さんだった男の人の家にお世話になってます。


 私と暮らしているのはおばあちゃんで、お母さんは私を産んでほったらかし。私を育ててくれたのは、おばあちゃんです。でもおばあちゃんは私のことが邪魔みたい。悲しい。おばあちゃんに私のこと好きになってもらえるように、がんばりたいです。


 だから今日からつけていくこの日記は、おばあちゃんとの距離が縮まっていく記録でもあるのだ~〉


 シャープペンシルの筆記は濃くて角ばっていて時折解読できない。

 だけど僕は夢中で読み進めた。


〈八月一日。今日は麻婆豆腐を作った。暑いときにこんなもの食えるかって、おばあちゃんに皿を投げられた。頭に当たった。最低な気分〉


〈八月十四日。今日は誕生日だった。三月からお祝いされただけで、誰もなーんも言ってくれない。夏休み中だからしかたなし! なしなし!〉


〈八月二十七日。おばあちゃんはよく「うちは男の縁がない家系なんだ。じいさんもおまえの父親もクズだった」って愚痴言ってくるんだけど聞き飽きた〉


〈九月一日。マユと海に行った。九月に海に足を浸すのはエモし〉


 などと、短文の報告が並ぶ。内容は痛ましいものもあったが、あまり止まらずに次々と読んでいく。

 読んでいくうちに、気になる記述に遭遇する。


〈九月十八日。お母さんが私の処女を四万で売ることにしたって言ってきた。車検のお金が足りないんだって。ヤダって言ったら、お前が四万払えって言ってきた。中学生がバイトできるわけないでしょ? 四万なんて大金どーしよ。おばあちゃんに言ったら絶対、私のこと叩くから言えない。ヤダなーてか売春って犯罪だよね。まじ無理。ゲロ吐きそう〉


 記述はそこから飛んでいる。

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