未遂 3

 苺果ちゃんは、その日、退院することができた。ODで入院するのは初めてだったのと、苺果ちゃんに激しい自傷欲求がないことが確認されたので、解放された。


 荷物を持って、苺果ちゃんの部屋に行く。実は彼女の部屋に行ったのは数回しかない。

 というのも、とんでもない汚部屋だからだ。


「わあ、変わらないね……」


 窓際にハンガーでかけられた地雷系の服の数々が、陽光を遮っている。

 床には櫛やサンリオのキャラクター小物など。

 生ごみの臭いがかすかに鼻腔を刺激する。

 BOXからあふれ出しているあふれ出しているゴミが原因だろう。

 洗濯済みの衣類は積まれているが、脱いだ衣類も横に散らかっているので、なにがなんだかわからない。


 今まで見ないふりをしていたが、今日はなんだかやる気になった。


「片付けるよ」


「……そ、そんな……お兄ちゃんにしてもらうことじゃ……」


「いいよ。それに夜ごはんも作ってあげる。苺果ちゃんは今日は寝てて」


「料理、作れるの?」


「十六歳から一人暮らししてるんだぞ、舐めんな」


 面倒だから自炊をしなくなっただけで、料理自体はできる。


 とりあえず、床が見えるようにしよう。

 僕は腕まくりをした。


 ◆


 片付けは大変だった。

 床の大部分を埋め尽くす衣類を畳んだところでタイムアップ。


 心残りだったが、何日か通うつもりなので、焦らなくてもいい。


 十七時に苺果ちゃんに断ったうえで、スーパーに買い出しに行き、卵などを買ってきた。

 冷蔵庫には、冷やごはんがあって、いつのかはわからないけど火を通せば食べられると考えた。


 十八時には戻ってきて、料理を作った。


「食べて。口に合わなかったらごめん」


「オムライスだ! 嬉しい!」


 苺果ちゃんはきらきらの笑顔をみせてくれた。

 こっちまで、笑顔になる。


 奇跡的に今日はシフトが休みだった。出勤する必要がないので、ずっと苺果ちゃんの部屋にいることができる。


 僕は洗い物をして、ベッドに寝転ぶ苺果ちゃんの横にくる。


「苺果ちゃん、睡眠薬、どこ?」


「もー寝るまで監視してるつもり?」


「そうだよ、苺果ちゃん、なにをするのかわからないから。自殺未遂なんて勝手はもう許さない」


「お兄ちゃんが私に執着してくれることが嬉しい」


 時間はまだ二十時だけど、病み上がりだから、今日は早くに寝てもらおう。


 サンリオのキャラクターが描かれたカップを洗って、水を用意する。

 薬のしまわれた場所を教えてもらって、白い錠剤三錠を手のひらにのせて、苺果ちゃんのところにいく。



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