未遂 2

 苺果ちゃんがこの世から勝手にいなくなろうとした事実を確認すると、心が痛みを伴う。大事なものが心から剥がれるとき特有の痛み。

 僕ひとりだけこの世界においていこうとしたことが許せない。


 こんな空虚な監獄に、ひとりにするなんて、ゆるせない。


「許せないよ、苺果ちゃんのこと。僕の自殺を止めたくせに、自分は死にたがるなんて、許されると思ってるの?」


「怒った?」


「怒ってるよ、大好きだよ。苺果ちゃんが、いなくなったら、どう生きていけばいいかわからない」


「……ありがとう。そんなふうに苺果を好いてくれて、嬉しい」


「好いてるなんてもんじゃないよ。苺果ちゃんは天使だから、僕の人生にとって」


「マイスイートエンジェルってやつだね」


「茶化すな」


 ほっぺをむにゅっとする。


「とりあえず、元気になってくれ。苺果ちゃんは僕の最期の人で、最愛の人なんだから」


「重いね。苺果、重いの大好き」


 今度は苺果ちゃんのほうから抱きついてきた。

 抱きしめ返して、よしよしと頭を撫でる。小さくて、丸い。壊れもの。


「僕の前から絶対に消えないでよ……」


「……うん」


「約束して」


「……うん」


「お兄ちゃんも、苺果を絶対、捨てないって約束して」


「いいよ。捨てないよ、苺果ちゃんを。僕にはなにもないから、苺果ちゃんしかいないから、唯一の人だから。苺果ちゃんが僕のこと好きじゃなくなって不要だって、もうついてこないでって言うまで、ついていくし、守る」


「……あーあ、お兄ちゃんのこと……救うなんて大仰なことできるとは思ってなかったけど……でも、苺果ができることをしてあげるつもりで、声かけたのに。のほうが救われてる。逆転しちゃったね」


「……それでいいよ。苺果ちゃんの役に立てるなら、生きてた意味あるって思う」


「……よう……お兄ちゃん」


「え? なんて言った?」


「なんでもない」


 僕に頭を擦りつけてくる。猫みたいだ。

 苺果ちゃんの頭を撫で続ける。


 この二人だけの静かな時間が、永遠に続けばいいと思った。

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