未遂の夜
未遂 1
あの日から、苺果ちゃんからの連絡がなくなった。
家に来ることもない。
おはようも、おやすみもない。
苺果ちゃんからの連絡がなければ、LINEの通知は一切こない。
寂しくて涙が流れる日もあるけれど、そういう日はYouTubeでひたすら音楽を流して耐えた。
僕からいくつかチャットを送ったけれど、既読無視だった。
一体、今は苺果ちゃんはなにをやっているのだろう。
仕事中、考え事をして、手を止めてしまうこともしばしばだった。
一週間ほど経ったころだろうか、朝仕事から帰ると、苺果ちゃんから通話が突然かかってきた。
「もしもし、お兄ちゃん、苺果、いま、入院してるの。××総合病院の七階。うん、来て、面会時間になったら」
飛んで行った。夜勤で寝ていないということも気にならないくらい、急いだ。
七階というのは、なんのフロアかよくわからない。調べる心の余裕もないまま行った。
看護師さんに言われたとおりの部屋の前で、ノックして、「どうぞ」の声とほぼ同時に入った。
「苺果ちゃんっ!」
僕はすごい速さで近づいて、ベッドの上で起き上がっていた苺果ちゃんを抱きしめた。
「あ……ごめん」
抱きしめてから、苺果ちゃんの細い腕に刺さった点滴が気になった。
そしてその腕に包帯がぐるぐる巻きにされているのも確認した。
「お兄ちゃん、来てくれてありがとう」
そう言って微笑む苺果ちゃんに、やつれた印象を抱いた。
目の下はクマだし、唇は白い。肌も白い。
ファンデなしすっぴんのこの白さ、相当だ。
「なにを……したの?」
薄々、想像はついていた。
病室の天井には監視カメラがついている。看護師さんには転倒防止用と言われたけれど、実際どうなのかわからない。
苺果ちゃんはもじもじとしていたが、やがて、話し始めた。
「えっとね……そのぉ……」
「うん」
「ODしちゃったんだよね! メジコンOD。ちょっとやりすぎちゃった」
「ちょっとじゃないでしょ、胃洗浄されるくらいなんだから、死ぬ気でやったでしょ」
「……失敗しちゃった」
「うん」
「……もう、もう、死にたい」
苺果ちゃんは俯く。
その頬に、雫が伝っていた。
僕は彼女が泣くところをはじめて見た。
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