イケナイこと 10

 翌日、苺果ちゃんは元気がなかった。


 苺果ちゃんが化粧を終えても、チェックアウトするときも。


 いつもは鬱陶しいくらい絡んでくるのに。


 もしかして僕は、選択を間違えたのだろうか。


 女の子がゴムを用意してくるくらいだし、勇気をもって臨んでたんだよな。

 そう考えると、苺果ちゃんを安易な誤魔化し方で抑えたのはよくなかったかなという気がしてくる。


 飛行機を待つ間、「苺果ちゃん、あのね、昨夜のことだけど」と切り出してみた。


「昨夜のこと? してくれなかったこと? 聞きたくない」


「……そう」


 明確な拒否に、僕は怯んで、二の句が継げなくなってしまう。


 正直、肉体関係を持つのは怖い。


 でもそれを告白するのは、情けないという思いが優先してしまう。


「お兄ちゃんなんて大嫌い」


「悲しい」


「うそ、大好き」


 苺果ちゃんは、にこっと笑った。


 彼女の胸中なんか、僕はちっともわからない。

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