イケナイこと 7
旅行の日はすぐにやってきた。
「わーい、晴れてるぅ! 良かったね!」
空港で薄紫のスーツケースを持って、苺果ちゃんは喜んでいた。
僕は忘れ物がないか少し緊張していた。充電器などは旅先で買えばいいと思うものの、それでもなにか大事なものを忘れていないか気になる。
この日のためにバイトは連休をもらった。
店長は「珍しいね。楽しんでこいよ」と言ってくれた。
これから2泊3日の大阪旅行だ。東京羽田から飛行機に乗って、1時間程度で着く。
僕は飛行機に乗るのが初めてだった。
中学は不登校で、高校は通信制だったから、修学旅行とも無縁なのだった。
「アプリでチェックインっていうのを押してね」
横で苺果ちゃんは解説してくれる。
張り切った様子でいろいろと説明してくれるので、可愛くてタメになった。
おかげで僕は初めての飛行機というクエストを難なく乗り換えた。
伊丹の空港から出ると、すぐに太陽が僕らを照りつけた。
冬の太陽って夏とはまた違うけど眩しい。
空港から出た後は電車で移動する。
初日は駅のロッカーに荷物を預けて、海遊館という水族館へ行った。
道中、苺果ちゃんは僕と手を繋いで、ご機嫌だった。
「このお魚、かわいいね」
水族館内に入ったと同時に苺果ちゃんはカメラを構えて、水槽の写真を何枚も撮る。
順路に沿って見て回る。館内は静かで暗くて気持ちよかった。
東京にも有名な水族館がいくつかあるけれど、日帰りで行ける距離の水族館にしか行ったことがない。
すみだ水族館はペンギンの水槽が大きかった。
アクアパーク品川はイルカショーがすごかった。
海遊館は大きくて、海ごとに水槽が分かれているのが特徴的だった。
「面白かったね。アザラシが可愛くて好き」
「僕はペンギンが好きだな」
「イルカは?」
「イルカは子供並みの知能があるっていうから、なんか怖い」
苺果ちゃんは「お兄ちゃんらしいね」と言って笑った。
水族館を出た後は、大阪の人の集まるところを、てきとうに歩いた。
どこも外国人ばかりで、たしかに日本語表記の看板ばかりなのに、海外の知らない街に来たような気分になった。
食事は予約しないでてきとうに食べた。中国人店員の働く中華料理屋さんで、僕はラーメン。苺果ちゃんは、ルーロー飯。
べつに苺果ちゃんも不満はないようだった。
「このお肉おっきーい」などと、ごはんの写真を撮影している。
中華料理屋さんは男性客多めで、地元の人間が多い店のようだった。デートで来る店じゃないかもしれない。けど、そもそも年齢を考えるに、僕二十二歳×苺果ちゃん十九歳のデートだから、どこかいい店を予約して食事するなんてことはあんまりないだろう。
女性経験が全然ないことも相まって、デートにどういう店がふさわしいかイマイチよくわからない。
でも苺果ちゃんが僕の選んだ店に「No」と言うことは絶対なくて、いい子だなあと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます