ラインズフレニア‐電脳人魚は凍てつく海で推理を唄う‐
AF
CASE1「電脳人魚は凍り付いた海を泳ぐ」
雑記 大陸暦897年四ノ月壱六日
――アルフィニアからトルネシア南部自治区へと向かうリニアモーターカーにて――
推理小説は開幕の一ページで死体を転がせと言った奴を俺はぶん殴りたい。
何故なら被害者婦人の悲鳴によって、探偵が目を覚ましたのだ。
「事件かしら?」
記念すべき初回運行で起こった惨劇を俺は斜め後ろのテーブルから最初の変化を認識し、彼女は悲鳴が巻き起こって乗客同士がパニックを起こしたのと同時に顔を上げた。
俺はただ一言「そのようだな」と眼前の少女に少し驚きながら切り返す。彼女というのは実に白が似合う少女だ。新雪の様を呈する薄ら白い肌は、機微の際に少しの皺も寄らせない。俺を見上げる蒼い深海を思わせる瞳、肌と同様否それ以上に白い長髪は緩くウェーブを掛けて育ちの良さを体現する佇まいを演出している。
「なんだ、普通に喋れるのか」
驚いた理由は、この絢爛豪華な車内に一つも浮かない少女リリネル・フロンターゼの声を聴いたのは、今この瞬間の事件現場が初めてであったからだ。
彼女は乗客者名簿から、死亡したのは都市鉄道連盟におけるリニアモーターカー事業推進局長であるパット・フィルビッシュ氏である事を見出す。
被害者は、真っ白なテーブルクロスの上に並んだメインディッシュである子羊のローストとラディッシュのソースが盛り付けられ、視覚効果によって色彩を放つ陶器の皿に、顔を押し付けるようにして死んでいた。
東部国家アルフィニアから大陸の中心部に位置するトルネシア南自治区へと向かう車内には政財界の重鎮や、今回のリニアモーターカー開通に伴って民営化された都市鉄道連盟の役員等、衣服の着こなしからして洗練されていた。
そんな不釣り合いな俺、ウォルター・アイズマンは一般枠としてこの列車に珍道した。
一介の車掌すらも襟をきちっと均し、はたまた所作のあちこちで見え隠れするカフスボタンの洗練等とは程遠い来歴であり、眼前で優雅にルイボスティーなんかを啜っている少女が居なければこんな場所に席はなかった。
そして前述の通り、死体は転がった。この自身を名探偵として規定する少女の前に。
「ウォルター、私を彼の元へ連れて行ってください」
少女の口元がまるで声音を震わせる事を歓喜するかのように滑らかに動く。
未だに混乱を告げる車内、どういう訳か車窓に映るサイネージの光景は一向に同じ小麦畑の景色を映し出している。きっとこう言った非常事態を告げる為のサイン? なのだろうか。俺の視線に気付いて彼女も車窓を見据えた。
「まるで映画の一場面のようね。美しいけれど物悲しい」
彼女の言葉の一片に同意しつつリリネルの乗った車椅子の向きを変える。そう彼女は足が不自由なのだ。近代的な曲線と重厚感のある車椅子は、多機能が売りのようで足を投げ出せリクライニングすらも可能というリリネルの特別仕様である。
「自分で動かせんだろう……」
「リモコン操作は苦手なので、貴方の優しい手付きで動かして♪」
「重いんだよ、くそ」
そんな風に悪態を突きながら、丸いテーブルが薄紫色のカーペットが敷かれた上に互い違いで並んだレストランの内部を押し進む。俺達以外の者達は皆首だけを当事者たちの方向へと流している為に表情の確認はすれ違う時にしか出来ない。
だが、そんな事をする必要等は無い。何故なら皆同じ表情なのだから……。
目の前で起こった死亡事案に自分がどう対処して良いか分かっていない実に平和ボケした思考をアウトプットしている。
「考え事をしている時の貴方は歩幅が少し狭くなるのね。けど今は大股で向かって貰える?」
口を開いたかと思えばやかましいこの少女の申し出に、俺は舌打ちをかましながら遺体の周囲を囲んでいるスーツ姿の男達の背後に立った。
「悪いが退いてくれ」
声を掛けると背広姿は何人かこちらを見て吟味する視線を上から下に投げて、まず俺に向かってこう諭す。
「子供がでしゃばる場所じゃない。それとも前の車両に向かいたいのかな? それなら私から車掌に言伝しておこう」
この列車は十一両編成の中間にレストランを配置している為に、こう言った解釈を告げるのは酷く一般的な理屈であった。
「ミハエル・カーマック中佐ですね?」
リリネルは俺への助け舟のつもりか、振り返った中年の男の名を挙げた。彼は深緑色の背広姿で、胸には東部聖十字勲章が輝いている。ただそれだけでは名前などは明らかにならないが、男はリリネルの方にブラウンのオールバックと立派な口ひげを蓄えた顔を向ける。
「お嬢さんは一般枠の招待客だったかな? すまないが、この列車はトルネシア南自治区に着くまで我々軍が管理する。こんな事件に遭って災難だったが大丈夫、我々が犯人を捕まえるよ」
俺は彼がリリネルの素性を知っている事に対して、この場を指揮する旨の発言から察するに、あらかじめ軍からの招待客にはこう言った事態に際して介入するための要項が定められていたのだろうと考えた。
というのを今しがたリリネルが同じようにミハエルに告げた。
「あぁ、その通り。だから君達の素性も一応は確認してある。もしトルネシアの統一を目指す思想犯が紛れ込んでいたら大事だからね」
俺はアイブラウジングを使用して彼の事を調べようとするが、先ほどからラインの調子が悪いのかネットワークが硬直している。恐らくは皆同じ状態なのだろう脊柱支上に搭載されたひし形の電脳受信装置、通称『ライン』に触れ状態を確かめていた。
「アクセスポイントの不具合か。外部と連絡が取れそうにないな。一度車掌と相談するか」
彼は咳払いをしてこの会話をそろそろ終えようとしている風情を見せた。けれどもこの女が簡単に引き下がるとは思えない。
「ウォルター、ほら嫌な顔しないで耳をこっちに向けて」
俺は彼女が手招きをするから口元に耳をやる。
「強・行・突・破」
ったくコイツは何を言ってるんだ。と思っている最中に列車が大きく揺れた。きっとトンネルを通ったのだろう。この車両は軽微な振動すらも感知して反発する揺れを産み出す機能が搭載され、快適な陸路が実現する一方でシゼスタ連峰という山々をトンネルが突っ切るルートである為に何度かこの内圧差による揺れを経験した。
十数秒間の暗闇が車内を包む。超電導リニアにおける電磁干渉を防ぐ為に、トンネル内ではラインとのアクセスポイントが専用の回線となり、管制室制御の車体はこの数舜明かりが消え都合の良い瞬間が訪れた。
よって、人々の間に出来た隙間を俺は見つけると強引に彼女の車椅子を押し込んで見せた。若干彼女への仕返しの意味を込めてはいたが、思惑通りに遺体の傍までリリネルを配達完了して見せる。
「ちょっと、お嬢さん……。君も君だ。こんないたいけな少女何を見せているんだ」
半ば呆れたミハエルの非難の声も何のその、リリネルは遺体の観察を開始して直ぐにその所感を口にし始めた。
「遺体を今まで動かさなかった事は褒めてあげましょう。彼の死因は見ての通り失血死、喉元を何か鋭利な物で切り裂いた痕跡が見て取れます。恐らく殺害時刻はトンネルに侵入したタイミングでしょう。シゼスタ連峰を横切る際に通過するトンネルは五つ、現在は三つ目なので犯行が行われたのは二つ目のトンネルへと侵入した瞬間」
ここまではきっと誰もが行き着く筈だ。俺はリリネルが顔をゆっくりと一人一人に向けると足を揺らしながら俺に車椅子を押して回るように催促をする。硬直した乗客は彼女が人と人の間を行き来するのをただ茫然と眺めており、ミハエルも固唾を呑んで少女の動向を見守った。俺は凡そ犯人であろう人間は軍人の可能性が高いと考えていた。
「こんな簡単な事推理する必要があるのか? 犯行の手際を見ればすぐに分かる」
「耳元で囁かないでくれる? こしょばゆいわ」
動脈を切られた被害者、しかし血液が飛び散っているのはこの高級そうな紫色の柔らかな床材のみなのだ。つまりは殺しの手際を心得ている者に一瞬で殺されたのだ。
そしてこの中で軍人はミハエルの他にもう一人存在する。それが袖口を赤に染めた二十代の男で黒の士官服で見分けはつきにくいがしっかり血を吸った染みが見て取れた。他にパット氏に最初に駆け寄った車掌とコックがそれぞれおり、彼等は必死に喉から溢れる血液を止めようと奮闘したが、両手を血で濡らしただけで徒労と化したのは言うまでもない。
「なるほど、なるほど」
彼女は俺に車椅子を押させながら、幼い妖艶さの中に滞在する理知を細かな所作から彷彿とさせ彼等を品定めした。
こんな簡単な事件を前にして名探偵を気取る彼女が、早く俺の正しさを証明してみろと内心はほくそ笑んでいた。
「犯人は、貴方ですね?」
リリネルは被害者の隣に戻って細い指先で殺人を行ったであろう人物を指し示した。
「は?」
俺はつい素っ頓狂な声を上げた。
「そんな目で見ないで頂戴、まるで死神みたいよ?」
少女らしく微笑んだ彼女に指差された車掌が顔色を変える。当惑に身を染めながら近代的な紺色を基調とした制服姿と、セットの制帽を目深に被った男は言い訳を考する。
「私? 冗談はやめて下さい。どうして私が? 彼とは初対面なのに」
白の手袋にはべっとりと血が付着して、乾いて革のように重たく成ったそれはきっと他の者達と同じく救命処置を行った印である。
「もしや手袋の血だけで犯人と決めつけた訳ではあるまいね?」
ミハエルの問いに少女は凛然と頷いて見せる。
「正解から紐解く推理は些か面白みに欠けるでしょうが、お望みとあらば御覧じましょう」
全く眼前の殺人をなんとも思っていないかのような不謹慎な様を、咎める間もなく少女は推理を遡って皆に披露してみせた。
「被害者はとても美味しいメインディッシュの皿に頭を押し付けて死亡しています。額には僅かにですが皿の端で切った後がある。けれど、喉を裂かれて死亡した被害者が苦しみの余り藻掻いたと考えるならば不可解です。失血死、それもこれ程の失血の場合は十数秒で意識障害を発生させます」
「一体それが何だと言うんだい」
リリネルは明瞭にミハエルの疑問を紐解く。
「凶器の証明です」
人差し指を立てた彼女は袖が捲れるのを厭わずに遺体の顔の部分を指差した。俺は何処か遠い島国の正装であるその白絹が血に濡れないように持ち上げてやる。
「中佐、彼を床に寝かせてあげてはくれませんか? 足りないのならば容疑者意外の男手を借りても構いません」
彼女の提案にミハエルは俺の方を見据えた。つまりは最も被害者から遠い存在を選出したのだ。その抜け目の無さに感心しつつも彼の視線に同意して俺はパット氏の遺体を予備のテーブルクロスで急ごしらえした場所に寝かせた。
彼の妻である女性が縋り付こうとするのを中佐が留め、更にはミハエルの部下らしきが遺体へと近付こうとした車掌の腕を掴む。
ムードは完全にリリネルの手の中にあった。けれどもそれだけでは事件の証明には成り得ない。
「所で車掌さん、このリニアモーターカーのコンセプトは何でしょう」
突然訊ねられた容疑者はあっけに取られながらも車掌として当然知っている事を即答した。
「新世界への旅立ち……」
正解です。と彼女が微笑みを象ったのを真横でみていた俺は心底ゾッとしながらその笑みを見下した。
「列車の外観から内装に掛けてまで、このリニアモーターカーは一つのコンセプトを元にデザインされています。それはガイドブックにも書かれているので、駅に着いたら皆様もご確認下さい。さて、その一つのコンセプトというのは無論皆様が食事を摂る為の食器類にも明確に『第三知覚(サードアングル)』に記されている筈です」
彼女の宣言通り、今回のフルコースには新進気鋭のデザイナーが料理を考案したシェフと共同で透明な食器にデザインをインポートしている。
それがラインによる第三知覚の効果として楽しめるように成っているのだ。
「では彼の頭部があった場所をご確認ください」
誰もがその違和感に気付いた。皿の周りを縁取るように搭載されたプリント式のインターフェイスは、今回のコンセプトである光の筋が中央へと放射状に伸びるデザインを凝らしているが、ある一片だけは全くデザインの反映が成されていなかった。
「これはあらかじめ用意した磁器製の凶器でしょう。こうして皿を割れば凶器の発覚が遅れると考え被害者を皿に押し付けた。頭の固定も兼ねてね?」
「けれど、それだけでは彼が犯人だという確証は無いでしょう?」
ミハエルの部下である士官は中立の立場を表明した。俺はこの期に及んでまで彼を犯人扱いするのは不可能だろうと、自らの推理が的外れであることを恥じた。
「中佐、被害者の手を見せて下さい」
寝かされた遺体の左手は開かれ、右手は閉じられるという奇妙な形をしていた。
「右手の中にある物を、取り出して頂けますか?」
もはやこの場に居る皆がリリネルという異端の少女を中心に推理劇を展開していた。慎重に被害者の手を開くとポトリとなにかが落ち、拾い上げたミハエルは小さくそれの正体を口にする。
「カフスボタンか」
「そうです。咄嗟に被害者はカフスボタンを犯人からもぎ取ったんです。私は先程皆様の周りを周らせて貰った時に思いました。なるほど、だから左手のカフスボタンをもぎ取ったのか、とね?」
視線が集中する。車掌の右腕を掴んでいた士官が彼のジャケットの袖を捲り、ワイシャツの袖を晒すと、確かにボタンの痕跡はない。ばかりか引き伸ばした血痕で汚れており見るに耐えない様となっていた。
それに加えて左袖のカフスボタンは当然にして無く、血の染み込み具合が袖口に限定されており様子が左右で違った。
「糸が解れて伸びていたのは急にそれを外さなければならなかった証左であり、急いで外した理由は簡単です。貴方にはカフスボタンをもぎ取られた自覚があったから」
「車掌がカフスボタンをしていなければならないなんて決まりは無い! 第一、私は今日カフスボタンなど身につけて居なかったんだ」
現時点でも十二分に怪しいが、これが確たる証拠ではない。チェックを躱しているがリリネルの猛攻をあと何手凌げるか。
「そうですねぇ、では貴方の手袋に付着した血液はどうして左手の平はそんなにも赤く染まっているのに、もう片方の手は指先だけが赤いのでしょう?」
彼女は指先で自分の髪を撫でながら車椅子の肘置きに頬杖をついて闊達な様を演出する。
「真っ先に救護処置を行った貴方は左手で喉元を抑えて、もう片方の手は握り込んだ手を解く為に必死だったのではありませんか? 袖口の血液の付着の違いは、手を開こうとする貴方とそれを阻止して藻掻く被害者の対比を描いています」
両手に乾いた血をこびりつけたコックが自らとの差異を交互に見定めた。士官も同様にして彼の行動に不可解さを生じさせていく。
「残ったカフスボタンの在り処は分かってるのか?」
つい口を衝いた俺の疑問に彼女は人差し指を頬に押し当てた。
「さぁ? 飲み込んだのでは無くって? どの道彼を拘束してお腹に金属反応が無いかを確認すれば良いことです」
最後の最後でそれかよ。と俺は毒づきそうになったが、車掌はこれを唯一の回避手段として語気を強めた。
「私は中央紛争の帰還兵だ! だから腹にはその頃の鉛玉があるんだよ!」
そう言ってシャツを捲った腹には確かに弾痕が刻まれており一転してリリネルの推論が崩れたかに思えた。
けれども彼女は車窓を見て納得したかのように小さい声で「なるほど」と笑った。
「部隊はどちらで?」
「南方作戦軍だ」
これは実在しており、多くの戦死者を出した部隊として有名だった。中佐も士官も苦い顔で車掌に同情的になっていた。
「そうですか、第十八師団の帰還兵と対面出来るとは光栄です。インメタリーフェノーの激戦は今であっても語り草です」
インメタリーフェノーはトルネシアの皇居周辺で行われた皇族の取り合い合戦である。両陣営からは無尽蔵に兵士が送り込まれ小麦畑という平野では両軍の対地爆撃によって数万の死者を出した。中央紛争の半数がこの戦いで没したのだ。
「ど、どうして、それを……」
車掌は驚きの余り目を見張って顔中の皮膚を引っ張られたかのように口を開けている。俺だって驚いている。どうしてこいつは彼の所属部隊を知っているのだ。
「あの作戦は愚かな作戦でした。もはや死に体の皇位という利権を欲する為の意地の張り合い」
ミハエルのおみならず周りの者は皇族の存在を批判する旨の彼女の言葉に、驚きと危うさを両面に展開しながら声を漏らした。
「そうだ。無能な指揮官のせいで皇帝一家を守る事すらできなかったのだ」
車掌はリリネルの言葉の一部に同調する。そこを彼女は刺激するように言食んだ。
「司令官一人の独断によって多くの死者を出したのですものね?」
「そうだ、あの! リチャード・フリンネルによって!」
少女の笑みがこの瞬間に満開と成った。この場に居合わせた二人の軍人は共に彼の発言について違和感を共有する。
「第十八師団の指揮官はロバート・エンウッド少将だ。そんな者が存在した記録はない」
ミハエルの証言は今回ナイトを演じた訳だ。更に彼女はクイーンを手にとって彼の前にチェックメイトを告げる一手を労した。
「『小麦畑の哀歌』第十八師団をベースに撮られた映画です。貴方はこれを観て自分が帰還兵であると勘違いをしているのでは無いでしょうか?」
俺はサイネージに映し出された小麦畑の映像が車掌の心象風景のように思えて仕方がなかった。
「――っ! それがどうした。私はトルネシアと言う栄光の地を守る任を負いながら、戦後にその地を穢した者に相応しい裁きだを与えたまでだ!」
都市鉄道連盟は国内インフラの成長を促進させるために多くの帰還兵を雇用した。確かにそのうち退役軍人として彼を雇う確率は高かった。
「主人は軍になんか行ってない! 行ってないのよ!」
叫ぶ婦人の言葉に車掌は急に頭を振ったかと思えばうわ言を繰り返した。
「dsskgsho[lo;odaうっ、わ、我々は北部帝政復古派閥(ノースアルタード)とっ、トルネシアに栄光あれ!」
ラインの付近に青白い閃光が見えたから思えば、士官の制止を振り切って車掌はガラスの破片を手にとってリリネルに向かってそれを振り降ろした。
俺は咄嗟に彼女の前に飛び出して逆手に振り下ろされた磁器片を腕で受け止めると、顎を掌で打ちながら足を絡ませて相手を封殺した。そのまま背後に腕を固めて動きを封じると士官が遅れて彼の事を取り押さえるのだ。
「見事です」
ニコッと笑ったのが彼女で無ければ愛嬌があったもんだ、と俺は反抗的な目を向けるのであった。
こうして殺人犯を無事検挙した俺達はトルネシア南自治区へと辿り着く。
〈さぁ、里帰りですよウォルター〉
雑記 大陸暦897年四ノ月壱六日 トルネシア南自治区。
――俺はコイツを何時か殺さなければならない。――
車椅子の上で電子音声を爪弾き、口を開かずに楽しそうにしているそんな少女の後頭部を見つめた俺は、どうしてこんな事に巻き込まれているのかと、嘆息しながら出会いまでの記憶を遡った。
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