第3話:男爵の男が俺の初めてを奪いに...
朝の日差しを浴びながら、俺はうわっと思いつつ漁港に来ていた。
なぜ漁港にいるんだ?と思うだろう。
簡潔に言うと、毎日野宿で野生動物の肉ばかり食べていたので飽きてきたから、というのが正解だな。
ただ、そうすると他の食料を買うにはお金がかかるのではないかと思い、遠慮していると、アリシアが持っていたリュックサックの中から、無限と言ってもいいほどのお金がなだれ出てきた。
これ以上あると戦闘の邪魔になる、ということで結局泊まることにした。で、泊まったところがここだった。
「ふわああ...」
小さな口から漏れる可愛らしい声が、俺の眠気を完全に吹き飛ばした。
(すぐ近くからこんな可愛い声がするなんて慣れねえ...そんな目覚まし時計があったら前世で欲しかったわ...)
そんな中年のおっさんのような思考をしていると、漁港のほうから誰かの声が聞こえた。
「今日も助かるよ。アリシアちゃん」
「ほんと、いつもやらせちゃっていて大丈夫なの?」
アリシアの手にはいくつもの四角い木箱があり、それをどうやら船の中に運ぼうとしているようだった。
2人の少し年配の夫婦とアリシアが何やら話している。
アリシア.....彼女は今の俺の旅仲間で、本当にいい子だ。
アリシアと過ごしていてわかったのだが、彼女は本当に優しい。しかも元気があって、街へ向かう途中に出会った人々を皆笑顔にしてきた。
「大丈夫ですよ〜。こうやって人の役に立っていれば筋肉のトレーニングになりますし。あ、でも絶対に筋肉ムキムキで『こいつ男かよ』って言われるほど鍛えるのはごめんですけどね。」
こうやって、人のためにすることを自分がしたいからする。相手に気を遣わせないように配慮する。そんな小さな優しさが彼女の良いところだ。
彼女たちは話しながら港の方へと物を運んでいった。
「ごめんねリオ〜。ちょっと私用で出かけちゃってて...」
私用っていうか人助けだけどね...
「いや全然いいよ。荷物運びお疲れ様。紅茶とちょっとしたお菓子を買ってきておいたから一緒に食べようか」
「うん!ありが...えぇ?なんでそれを...」
「ちょっと港で見ちゃってね。すごくあの人たちも喜んでいたね」
アリシアは頬を真っ赤にしながら、髪を縛るリボンをいじっている。
彼女は赤色の目を閉じたり開けたりして、少し下を向いている。その照れて困っている仕草...可愛いよなぁ。
俺は宿に備え付けられていたティーカップを取り、紅茶を注いだ。
机の真ん中には皿が置かれてあり、3種類の美味しそうなクッキーが並んでいる。
凄い高級感というわけではないけれど、お茶会の雰囲気を味わうには十分だった。
...女子とお茶会!!!前世ではまともに話したこともなかったなぁ。
「ありがとう、リオ......はぁ、凄い美味しい。こんなに美味しい紅茶は初めてかも」
「ダージリンを使っているんだ。さすが人気の紅茶だよね」
「ううん、違うよ。いつも飲む紅茶よりもリオが作ってくれた紅茶のほうが美味しいんだ」
「ありがとう。紅茶を誰かに作るなんて初めてだったから」
思わず顔がにやける。にやけ顔がキモくなってないか心配だったが、彼女も笑ってくれた。
まあ、この子の前でにやけを抑えるなんて到底不可能なんだけどね。
*
そんなこんや話していたら、午前もあと少しになってしまっていた。
「ご飯食べにいかない?ちょっとお腹が空いたよね」
「わかる!お腹空いた〜」
お腹がぎゅるると鳴りそうだ。いや、さっき小さな音で鳴ってしまったので、今すぐにでも何か食べたい気分だった。
「じゃあ、近くに美味しいお店があるから、食べに行かない?」
「うん、案内お願いします!」
そう言いながら宿の入口を出ると、外が騒がしかった。
「なんだろう?」と思って目を向けると、どうやら貴族が訪れているようだった。
「レアード男爵家だね。あまりいい印象は持っていないわ」
「そうなんだ。男爵家とか貴族とか全然わからないや」
「男爵とか子爵とかたくさんいるから、覚えるのは結構大変だよね。今度、このあたりの図書館で教えてあげるね」
「ありがとうございます〜。アリシア様ぁ〜」
こんな場所で深々と頭を下げる俺を見て、アリシアは慌てて周囲を確認しながら頭を上げるよう促してきた。大勢の人々がこちらを見ている。
そんなコントのようなことをしていると...
「Hi、そこの可愛いレディ達!」
目の前にいたのは先ほどの男爵だった。まっすぐこちらだけを見ている。
「わあ!ナンパなんて初めて!」
アリシアの方を見ると、彼女は鋭い視線で男爵を警戒していた。
「私たちは今、少し用事がありますので、すみませんがまたの機会に」
そう言いながら、アリシアが俺の左手を取ってその場を離れようとする。彼女の手は驚くほど柔らかくて...少し動揺してしまった。
だが次の瞬間、男爵は俺の右手を掴んで引き寄せてきた。
「ちょっとダメだよ、レディ達。もうテラスの予約は取ってあるんだ。一緒にご食事を...」
アリシアは素早く男爵の手を振りほどいた。
「あなたと食べるテラスの食事より、リオと食べる食事の方が断然美味しいわ!」
「チッ、生意気な小娘め。お前にそんな選択肢はないんだ。もういい!もう一人の娘!こっちに来い!」
「あなたなんかと食事したら、どんなものが出てくるかわからないわ。媚薬でも入っているかもしれない!」
...え、これどういう状況?俺を取り合いしているってこと?いやいや、そんなことがあったとしても俺はアリシアの方に行くけど...
そっとアリシアの側に寄る。悪いけど、俺には男を愛する趣味はないんだ。
「リオ...」
「この野郎...護衛たち、こいつらを傷つけない程度に捕まえろ!」
「はっ、承知しました!」
護衛が3人、じりじりとこちらに近づいてくる。一人、妙にニヤついた顔の男が混じっていて...怖すぎる!
俺は焦りの中、反射的に手から魔法を発動しようとしてしまった。
「リオっ!それはダメ!」
「お前!街中でそんな魔法を...」
だが、止められる前に、俺は前世から使ってみたいと、憧れていた魔法を放ってしまう。
「フレイムバインド!!」
地面に鮮やかな魔法陣が広がり、赤い炎の鎖が3本現れた。鎖はうねりながら男爵の方向へ向かって進む。熱気が周囲に漂い、地面を焦がしながら突き進む...
しかし...
ジャキンッ!
次の瞬間、白服をまとった金髪の男が現れ、全ての炎の鎖を一瞬で切り裂いた。
第一回修正 12/29
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