第13話 蠢動する影
琥珀(こはく)が倒れた後宮の庭園は、静寂と緊張感に包まれていた。霜花(そうか)は肩から流れる血を抑えながら、まだ痛みを堪えていたが、心は不安に揺れていた。琥珀が語っていた「麗華様の真の目的」——それは一体何を意味しているのか、まだ全てが明らかになっていない。
皇帝の疑念
廉明(れんめい)は倒れた琥珀を見下ろし、剣を収めながら深く息をついた。彼の顔には、わずかな疲労と共に何かを見通すような鋭い眼差しがあった。
「麗華が背負っていたもの……それはただの権力争いではなかったかもしれない。」
廉明は静かにそう呟いた。霜花は彼の言葉に思わず耳を傾けた。
「陛下、それはどういう意味でしょうか?」
彼女は慎重に問いかけた。琥珀が残した最後の言葉、麗華が追い求めていた「新たな秩序」という言葉が頭を離れない。
「麗華はただ後宮を掌握しようとしていたわけではない。おそらく、後宮を拠点にもっと大きな計画を進めていたのだろう。」
廉明は深く考え込むように言った。
その言葉に、霜花は一瞬、冷たい恐怖が胸を駆け巡るのを感じた。もし麗華が反乱を超えた大きな計画を進めていたのだとしたら、倒れた琥珀もその一部に過ぎない。真の敵はまだ影の中に潜んでいる——そう感じざるを得なかった。
謎の文書
その夜、霜花は自室に戻り、静かに傷の手当をしていた。肩の痛みは和らぎつつあったが、心の中は今まで以上に乱れていた。琥珀の最後の表情が、どうしても頭から離れない。
「麗華様の計画はまだ終わっていない……」
霜花は小声で自分に言い聞かせ、何か手がかりを見つけるために動かなければならないと決意を新たにした。
その時、扉の下から一通の手紙が差し込まれているのに気づいた。霜花は不安な気持ちを抱きつつも、その手紙を拾い上げ、中を開いた。手紙には、たった一つの短い文章が書かれていた。
「お前も麗華様の真実を知る時が来た。」
霜花の心臓が高鳴った。誰がこの手紙を送ったのか?彼女は周囲を見渡したが、何も怪しい気配はなかった。しかし、この文書が示唆するのは、麗華がまだ全てを明かしていないという事実だった。
「誰が……?」
霜花はさらに文書をよく調べたが、それ以上の情報はなかった。ただし、手紙の末尾には、後宮の奥深くにある**「西の書庫」**という場所に記された一文字があった。
「西の書庫……?」
それは、普段使われていない後宮の一角にある古い書庫で、ほとんどの人が近づかない場所だった。しかし、そこに何かが隠されている可能性があると霜花は直感的に感じた。
禁断の書庫への探索
翌日、霜花はその謎の手紙の指示に従い、「西の書庫」へ向かうことに決めた。後宮の隅にひっそりと佇むその書庫は、長年使われていないせいか、埃っぽい雰囲気が漂っていた。古い木の扉を押し開けると、中には古びた書物や巻物が乱雑に積み上げられていた。
「ここに……何が隠されているというの?」
霜花は静かに書庫の中を歩き、奥へと進んだ。
書棚の一角に、特に目立たない古い巻物があった。その巻物を手に取ると、妙に違和感があった。普通の書物とは異なり、紙の質感が重く、まるで意図的に隠されていたかのようだった。
巻物を開いた瞬間、霜花の目に飛び込んできたのは、後宮や皇帝に関する記録ではなく、**「禁じられた歴史」**という見出しだった。内容は古代から伝わる秘密の儀式や禁術に関するもので、麗華が追い求めていたものとは異質の力について書かれていた。
「これは……まさか……」
霜花はその内容に驚愕した。麗華がただ後宮を掌握しようとしていたのではなく、もっと大きな目的を持っていたことが明らかになりつつあった。
「もしかして、麗華様が狙っていたのは……この力……?」
霜花はさらに巻物を読み進めたが、突然背後で足音が聞こえた。振り返ると、そこには黒い装束を身にまとった人物が立っていた。
「誰……?」
霜花は瞬時に身構えたが、その人物は静かに微笑んだ。
「お前は禁じられた真実に近づきすぎた。ここで終わらせてもらおう。」
その人物が鋭い剣を抜き、霜花に襲いかかってきた。
新たな敵の出現
霜花は咄嗟に避けたが、相手の動きは俊敏で、彼女にとっては格上の戦士だった。剣が鋭く迫り、彼女は狭い書庫の中で身を守るのに精一杯だった。
「この力を求めたのは……麗華様だけじゃない……!」
霜花はその事実を理解しながらも、戦いの中でどうにかしてこの情報を外に持ち出さなければならないと思った。
戦いが激しさを増す中、霜花は必死に相手の攻撃をかわし続けたが、やがて体力が限界に近づいていた。相手の剣がもう一度彼女に向かってきた瞬間、霜花は反射的に手にしていた巻物を盾に使った。剣が巻物に当たった瞬間、書庫の中に不思議な風が吹き始めた。
「これは……?」
その風に巻かれるように、霜花と相手は一瞬動きを止めた。巻物から放たれた奇妙な力が、部屋全体に広がり始めたのだ。
「これは……禁じられた力……?」
霜花は目の前で起こっていることを理解できないまま、書庫の外からも人々の叫び声が聞こえ始めた。
新たな脅威の始まり
巻物が示す力は、単なる古い伝説ではなかった。霜花が触れたものは、後宮を超え、帝国全体を揺るがす禁じられた存在だった。そして、彼女が手にしたこの巻物を巡り、新たな戦いが始まろうとしていた。
「これは……まだ終わっていない……!」
霜花は気を取り直し、戦い続ける覚悟を固めた。新たな敵と禁じられた力に対峙することで、後宮の陰謀はさらに深まっていく。
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