第12話 暗雲立ち込める後宮
霜花(そうか)は全力で後宮の廊下を駆け抜け、皇帝・廉明(れんめい)の元に向かっていた。琥珀(こはく)が動き出した、麗華(れいか)の陰謀がまだ終わっていない——このことを一刻も早く伝えなければならなかった。
皇帝への報告
玉座の間にたどり着いた霜花は、ひざまずき、息を切らせながら廉明に告げた。
「陛下、琥珀が……麗華様の計画はまだ続いています。彼女は私を襲ってきました。」
その言葉に、廉明の顔が一瞬強張った。
「琥珀が動き出したか……。やはり麗華の計画はまだ終わっていないのだな。」
廉明の瞳に冷たい怒りがよぎり、彼はすぐに近衛兵たちに命令を下した。
「琥珀を捕らえろ。後宮全体を捜索し、反乱の残党を一掃するのだ。」
近衛兵たちはすぐさま動き出したが、霜花は廉明の前にとどまり、さらに言葉を続けた。
「しかし、陛下、琥珀はただの侍女ではありません。彼女は何者かと連携しており、反乱を再び広げようとしています。」
霜花の警告に、廉明は重々しく頷いた。
「お前の言う通りだ。これは後宮だけの問題ではないかもしれぬ。」
彼の声は静かだが、その中には深い決意が込められていた。
夜の戦いの火蓋が切られる
霜花は、再び廉明とともに後宮の庭へと向かうことに決めた。月明かりが差し込む庭園に足を踏み入れると、すでに何人かの近衛兵が倒れており、辺りは緊張に満ちていた。
「彼女たちが動き出した……」
霜花はその光景に胸の奥が冷たくなるのを感じた。
突然、茂みの中から黒い影が飛び出してきた。数人の黒装束の者たちが一斉に廉明と霜花に襲いかかってきたのだ。彼らの動きは驚くほど迅速で、剣が光を受けて鋭く輝いた。
「守れ!」
廉明が剣を構え、近衛兵たちが反撃に転じた。激しい剣戟の音が夜空に響き、火花が散る。霜花も腰の短剣を抜き、何とか防御に回った。
琥珀の登場
戦いが続く中、霜花は庭園の奥からじっとこちらを見つめる一人の影に気づいた。それは間違いなく琥珀だった。彼女は冷たい微笑を浮かべ、まるで全てを見透かすかのような目で霜花を睨んでいた。
「霜花様、久しぶりですね。」
琥珀は静かに歩み寄ってきた。彼女の手には鋭い短剣が握られており、その目には狂気が宿っていた。
「琥珀、これ以上の反乱をやめなさい!」
霜花は彼女に向かって叫んだが、琥珀はただ笑うだけだった。
「麗華様の意志はまだ生きています。そして、それを受け継ぐのは私。あなたにはもう何もできませんよ、霜花様。」
その言葉と同時に、琥珀は素早く短剣を構え、霜花に襲いかかってきた。
二人の戦い
琥珀の攻撃は鋭く、訓練された動きで次々と霜花に斬りかかってきた。霜花は何とか身をかわしながら、防御に徹した。彼女は自分が琥珀の技量に劣っていることをすぐに悟ったが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「どうして……こんな道を選んだの、琥珀!」
霜花は問いかけながら、必死に剣を振るった。だが、琥珀は笑みを浮かべたまま、再び攻撃を続けた。
「麗華様は真実の皇帝となるべき方だった。私はそれを成し遂げるために、どんな犠牲も払う覚悟です!」
琥珀の目には狂気が溢れていた。
「もう遅い……この国は、私たちが作り直す!」
その言葉に霜花は息を呑んだ。麗華が背負っていた野望は、単なる権力争いではなかった。琥珀が語る「新しい秩序」とは、一体何を意味しているのか。
危機一髪
琥珀の動きが一瞬止まった。霜花はその隙をつき、力を込めて短剣を突き出した。しかし、琥珀は素早く身を引き、避けた後に逆に霜花の肩を狙って斬りつけた。
「ぐっ……!」
霜花は痛みで身を縮めたが、倒れることなく立ち続けた。彼女は肩から流れる血を押さえながらも、琥珀を睨み返した。
「簡単には負けませんよ……琥珀。」
霜花の声には、彼女が皇帝を守るために全力を尽くす覚悟が込められていた。
戦いの結末
その時、戦いの最中で混乱する中、廉明が琥珀に向かって剣を振り下ろした。琥珀は驚愕の表情を浮かべ、一瞬の油断が命取りとなった。
「終わりだ、琥珀。」
廉明の声が冷たく響いた。
琥珀は鋭い剣を受け、地に倒れた。彼女の目はまだ狂気を帯びていたが、もはやその反乱の火は消えつつあった。
「麗華様……私の使命は……まだ……」
琥珀の呟きは途切れ、彼女は静かに息を引き取った。
反乱の終焉か?
琥珀が倒れ、霜花は安堵の息をついたが、その心の中にはまだ消えぬ不安が残っていた。麗華と琥珀が背負っていた計画は、これで終わりを告げたのか。それとも、さらに背後に別の影が潜んでいるのか。
「陛下、麗華様の陰謀はこれで終わったのでしょうか?」
霜花は傷を負いながらも、廉明に問いかけた。
廉明はしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。「わからない。しかし、麗華の力はこの程度ではないはずだ。もっと大きな敵が潜んでいる可能性がある。」
その言葉に、霜花は再び身を引き締めた。戦いはまだ終わっていない。この後宮には、さらなる陰謀と危険が待ち受けているのだ。
「私たちが見つけなければなりませんね、次なる脅威を……。」
霜花は決意を込めてそう言った。
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