第11話 裏切りの影
反乱が一時的に鎮圧された後、後宮は表向き平静を取り戻していたが、霜花(そうか)の心には消えない不安が残っていた。廉明(れんめい)皇帝が言った通り、麗華(れいか)が背後で操っていた勢力はまだ完全に消えておらず、その余波が後宮全体に広がりつつあった。
新たな陰謀の兆し
ある日、霜花は通常の任務をこなしながら、後宮内の侍女たちの間で広がる噂話に耳を傾けていた。いつもは些細な話題ばかりの侍女たちが、最近は妙に口数が少なく、ひそひそと何かを話しているのが気にかかっていた。
「どうやら……反乱者たちの残党がまだ潜んでいるらしい……」
「聞いたか?あの麗華様の忠実な部下、琥珀(こはく)がまだ姿を消していないとか……」
「琥珀様の行方は誰も知らないけれど、また動き出してもおかしくないわね……」
侍女たちの話に、霜花は思わず耳を澄ませた。麗華が捕らえられ、反乱が鎮圧されたにもかかわらず、その影響力が後宮内に未だ存在していることは明らかだった。特に、霜花がかねてから警戒していた琥珀の名前が出たことに、彼女は背筋が冷たくなるのを感じた。
「琥珀……彼女がまだ後宮内にいるなら、麗華様の計画は終わっていない……」
霜花は心の中でそう確信した。琥珀は麗華の最も忠実な侍女であり、反乱の首謀者の一人でもある。もし彼女が新たな動きを見せたなら、再び後宮は混乱に巻き込まれるだろう。
皇帝への報告
霜花は急いでこの情報を廉明に伝えようと決意し、すぐに皇帝のもとへ向かった。彼女の心は警戒でいっぱいだった。もし琥珀が再び動き出すならば、今度はもっと大きな陰謀が待ち受けているかもしれない。
「陛下、少しお時間をいただけますか?」
玉座の間に入り、霜花は廉明に頭を下げた。
廉明は穏やかな表情を浮かべつつも、彼女の緊張した様子に気づき、真剣な眼差しで彼女を見つめた。「霜花、どうした?」
「反乱が鎮圧された後も、後宮内で不穏な動きがあるようです。麗華様の忠実な侍女であった琥珀がまだ姿を見せておらず、彼女が何かを企んでいる可能性があります。」
霜花は一言も漏らさずに報告した。
廉明はしばらく沈黙した後、深く息をついた。「琥珀か……あの女が動けば、再び後宮が混乱に巻き込まれるだろう。だが、彼女を見つけるのは容易ではない。」
「陛下、もしも私が調査に出れば、琥珀の動向を掴めるかもしれません。どうか、この任務をお任せください。」
霜花は自ら申し出た。彼女はこれまで何度も危険な任務をこなしてきたが、今回の陰謀はそれ以上に深刻なものだと感じていた。
「お前に任せるしかないか……」
廉明はそう言い、少しの間、思案するように視線を遠くに向けた。そして、再び霜花を見つめ、静かに頷いた。「いいだろう。だが、気をつけろ。琥珀は麗華に忠実なだけではなく、彼女自身が危険な存在だ。決して油断するな。」
霜花は深く頭を下げ、心に決意を込めた。「必ず、真実を掴んでみせます。」
琥珀の影を追う
翌晩、霜花は後宮の静かな一角に向かった。琥珀が潜んでいるという情報を得た場所だ。薄明かりの中で、後宮の長い廊下を静かに進む霜花は、足音を忍ばせながら周囲を警戒していた。
「この先に……何かがあるはず……」
彼女は琥珀が姿を現す瞬間を待ち、注意深く進んだ。その時、不意に背後で気配を感じた。
「誰だ?」
霜花が振り向いた瞬間、そこには闇に潜む人影があった。それは琥珀だった。彼女はゆっくりと歩み寄り、その冷たい笑みを浮かべていた。
「霜花様……あなたがここに来ることを待っていました。」
琥珀の声は低く、毒々しい響きがあった。
「琥珀、あなたはまだ何かを企んでいるのですね?」
霜花は緊張した面持ちで彼女に問いかけたが、琥珀はただ笑みを浮かべるだけだった。
「そう、私の計画はまだ終わっていません。麗華様が捕らえられたのは一つの失敗に過ぎません。真の目的はこれから始まるのです。」
琥珀の目には狂気が宿っていた。
「真の目的……?一体、何をしようとしているの?」
霜花はさらに問い詰めようとしたが、その瞬間、琥珀が素早く霜花に近づいてきた。
「あなたにはもう、知る必要はありません。」
琥珀がそう言い放ち、突然、霜花に向かって鋭い短剣を突き出した。
戦いの幕開け
霜花は素早く後ろに身を引き、何とかその攻撃をかわした。だが、琥珀の動きは俊敏で、すぐに次の一撃が彼女に迫った。
「ここで終わらせるつもりはない!」
霜花は必死に身をかわしながら、琥珀の攻撃を何とか防いだ。
しかし、琥珀はただの侍女ではなかった。彼女の動きはまるで戦士のように訓練されており、その一撃一撃には正確さと力強さがあった。霜花は次第に押されていき、逃げ場がなくなっていくのを感じた。
「あなたのような者が、麗華様の計画を邪魔することは許されない!」
琥珀が再び短剣を振り下ろしたその瞬間、霜花は咄嗟に近くの装飾品を掴み、それを琥珀の手に投げつけた。
「っ……!」
琥珀はその一瞬の隙を突かれ、短剣が彼女の手から落ちた。
危機一髪
霜花はその機会を逃さず、素早く逃げ出した。彼女の心臓は激しく鼓動し、体は限界に近づいていたが、今ここで倒れるわけにはいかなかった。後ろから琥珀の怒声が聞こえる中、霜花は全力で走り、後宮の安全な場所へと急いだ。
「絶対に陛下にこのことを伝えなければ……!」
霜花は心の中で強く誓った。麗華の計画はまだ終わっておらず、琥珀がその実行者として動き出している。今度は、皇帝の命が再び狙われるかもしれない――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます