第6話 陰謀の核心

夜は深く、後宮は静寂に包まれていた。しかし、その闇の中には、見えざる陰謀が渦巻いていた。霜花(そうか)は心を静め、宮中の奥深くへと忍び足で進んでいった。皇帝・廉明(れんめい)から命じられた密命は、後宮内の陰謀を探ることだった。表向きは後宮の運営を手伝うという名目で、裏では他の妃や女官たちの動きを監視する役割を負っていた。


その日、霜花は特に注目していた。妃・麗華(れいか)の周辺が不穏な空気を漂わせていたからだ。麗華は美貌と知略で後宮の中心に位置する存在であり、彼女の影響力は後宮全体に及んでいた。しかし、霜花の目には、彼女の背後に何かしらの大きな計画が動いていることが明らかだった。


夜の後宮

霜花は後宮の奥深くにある麗華の私室に向かっていた。表向きは、麗華が信頼する侍女のひとりとして彼女の周辺を観察していたが、真の目的は、麗華が後宮の陰謀の中心にいるという確証を掴むことだった。皇帝に忠誠を誓った霜花は、彼女自身の安全を顧みることなく、皇帝からの任務を果たす覚悟をしていた。


「今夜こそ……何か確かな証拠が手に入るかもしれない」

彼女は心の中でそう決意し、暗い廊下を歩み続けた。夜風が薄い衣の下を抜けていくたび、冷たさが彼女の体に染み入るが、その心は冷静さを保っていた。


麗華の私室

麗華の私室に近づくと、辺りは不自然なほど静かだった。霜花は周囲を見回し、見張りの侍女たちがいないことに気づいた。普段なら麗華の周りには常に数人の侍女が控えているはずだが、今夜は誰もいない。怪しさを感じつつも、彼女はそのまま部屋の中へと足を踏み入れた。


「誰もいない……」

霜花は慎重に歩を進め、机の上に散らばった文書に目をやった。その中に、一通の封を切られた手紙が目に留まった。薄暗い灯りの下、その手紙の内容を確認しようと、霜花は静かに紙を手に取った。


「これは……」

手紙には、見覚えのない筆跡で何かが記されていた。彼女が読み進めるにつれて、その内容は重大な陰謀を示すものであることが分かってきた。


手紙の内容

「計画は順調に進行している。後宮内の準備は整い、次の段階に入る。私たちは、時が来れば行動を起こす。皇帝の目を逃れるために、慎重に動け。決して失敗は許されない。」

それはまさに、後宮内部で何らかの反乱が計画されていることを示す手紙だった。麗華が関わっているだけでなく、彼女の背後にはさらに大きな勢力が存在していることを示唆していた。


「これは……反乱か……?」

霜花の手は自然と震えていた。皇帝に対する反逆の計画、それも後宮内で密かに進行しているとは。彼女は急いでこの手紙を持ち帰り、皇帝に報告しなければならないと感じた。


だが、その瞬間、背後から静かに歩み寄る足音が聞こえてきた。


「誰だ……?」

霜花が振り向くと、そこには麗華が立っていた。彼女は冷静な表情を保ちながらも、その瞳には明らかな敵意が宿っていた。


「霜花……まさか、あなたがここで何をしているの?」

麗華はゆっくりと近づいてくる。その姿には、これまで霜花が見たことのない冷徹さが滲み出ていた。


霜花は手に持っていた手紙を隠そうとしたが、麗華はその動作を見逃すことなく、鋭い目で霜花の行動を追っていた。


「その手紙……あなたが読んだのね。」

麗華の声は低く、冷ややかだった。霜花は何とか冷静さを保ちながら、言葉を選んで答えようとした。


「これは……偶然、目に入っただけです。私は何も――」

言い終わる前に、麗華は冷たい笑みを浮かべた。


「偶然だと言うの?いいえ、霜花。あなたは私を監視していたのでしょう?ずっと前から気づいていたわ。皇帝の命を受けて、私を見張っていたのね。」

麗華の言葉は核心を突いていた。彼女はすでに霜花が皇帝の密命を受けていることを知っていたのだ。


「ですが、麗華様。これは国家を揺るがす陰謀です。あなたが何を企んでいるかはわかりませんが、このままでは……」

霜花は慎重に言葉を選びながら、なんとか事態を収めようと試みた。しかし、麗華は耳を貸さず、冷たく言い放った。


「黙りなさい。あなたが何を言おうと、もう遅いわ。」

麗華は突然、手を伸ばして霜花の手紙を奪おうとした。だが、霜花は素早く身を引き、手紙をしっかりと握りしめた。


「何としても、この手紙を皇帝に届けなければ……」

霜花はそう心の中で決意し、部屋を飛び出そうとした。しかし、その瞬間、扉が閉ざされ、逃げ道が失われた。


「ここから逃げられると思っているの?」

麗華は再び笑みを浮かべたが、その笑みには冷たい怒りが込められていた。


霜花は逃げ場を失い、後ろへと後ずさった。しかし、彼女の決意は揺るがなかった。何としても皇帝にこの真実を伝えなければならない。それが彼女の使命であり、皇帝に対する忠誠であった。


「麗華様、これは反逆行為です。あなたが何を企んでいようと、私は止めなければなりません。」

霜花は冷静に言い放ち、その言葉には強い決意が込められていた。


しかし、麗華は嘲笑を浮かべるだけだった。


「あなた一人で何ができる?後宮の闇はあなたの想像を遥かに超えているわ。私一人でこんなことをしていると思っているの?この計画には、あなたが想像もできない大きな力が動いているのよ。」

麗華はさらに言葉を続けた。


「皇帝が何をしようと、もはや手遅れよ。私たちはすでに次の手を打っている。あなたが知るべきことはただ一つ、ここから逃げられる道はないということよ。」


霜花は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。麗華が言っていることが事実なら、後宮だけでなく、国家全体が危機に瀕していることになる。彼女はこの情報を皇帝に届けなければならないが、麗華の言葉が示すように、ここから無事に脱出する方法は簡単ではなかった。

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