Orcus

 案の定、正方形の部屋だった。

 入ってすぐに、周囲を見渡す。

 あの豚みたいな悪魔がひそんでいるとも限らない。

 部屋の隅まで目をさらにして見つめた結果、なにもないと判断した。


 突き当りに扉がり、そこに向けて部屋をまっすぐに進んだ。

 何もないというのは、こういう異常な空間にあっては、何かあるのと同じぐらい、あるいは、それ以上の不安をもたらす。

 空気につぶされる――そんな感覚を初めて味わった。


 スニーカーで歩く、ほんの少しの距離がずいぶんと長く感じられた。

 背中に汗が吹き出す。

 踏み出す足が重い。

 吐き気がこみあげてくる。


 突き当たりの扉の色は赤。いや、赤黒と言ったほうがしっくりくる。

 何か嫌な予感がする。

 ここを開けるなと警告されているようだ。


 僕は恐怖を飲み込む。

 天使の剣がついている。何かあれば、これで戦ってやる。

 さっきの悪魔みたいにりふせてやる。

 僕はドアを開けた。


・赤黒いドアの部屋へ

https://kakuyomu.jp/works/16818093085371501586/episodes/16818093085432633800

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