Hannya
・前の画面に戻る
https://kakuyomu.jp/works/16818093085371501586/episodes/16818093085432312812
------------------------------------------------------------------------------------------------
赤黒い部屋のなかに足を踏み入れた。
正方形の部屋でまず目につくのは、部屋の中央に鎮座した
天蓋から垂れ下がったシルク・カーテンの向こうに人影がみえた。
寝息が聞こえてくる。
誰だ?
この屋敷の主人か?
だとしたら、早急に助けてもらわないといけない。
僕は一歩踏み出す。
扉から向かって、左手にはドア、右手には暖炉があった。左手のドアを開ければここから出られるのだろうか?
どちらにしろ、この人に助けを求めるのは悪い判断ではないだろう。
「お休みのところをすみません」
僕は言った。
「このお屋敷から外に出る道を教えてほしいのですが」
カーテンの向こうでシルエットが半身を起こした。その動作には、たっぷり三十秒はかかった。
僕は成り行きを見守った。
細いシルエットを見るに、どうやら女性だった。高い鼻。長い髪。なんとなく、それが若い女性ではなく、高齢の女性だという感じがした。
やがて、カーテンの向こうの人物は、ベッドをおりた。
青いケープをまとった老婦人。
カーテンから透かし見たように、長い髪は全て白髪で、整えられてはおらず、乱雑に伸びていた。
老婆と目が合い、僕は悲鳴を上げた。
赤くにごったそのまなざし。ろうそくのように白い顔。口は耳まで裂け、歯列がのぞいているのだが、その犬歯は異様に大きく、また、先が尖っていた。
グルル……。
犬のような唸り声を老婆は上げた。
近づいてくる。
一歩。また一方。
紫色の腐った口内を見せつけるようにして。
「く、来るな!」
僕は剣を突き出した。これ以上くると刺すと脅すためだ。
僕の恐れている様子をみて、老婆はよろこんでいるように見えた。
目をカッと開き、口をあんぐりと上げ、僕に向かって飛びかかってきた。
「うわあああ!」
すんでのところで身をかわし、老婆は壁へと激突した。だが、それをものともせず、くるりと態勢を変え、再び襲いかかってくる。
剣を両手で握ると、僕は老婆に向かって振り下ろした。
ぎゃああああ。
部屋のなかを絶叫がみたした。
僕のはなった一撃が、老婆の細い肩を切り傷をつけていた。たちまち青いケープは暗赤色にそまった。
興奮に駆られた僕は、さらに老婆へと近づき、二度、三度と切りつけた。腕を、側頭部を、背中を切りつけた。
絶叫。
絶叫。
絶叫。
――吹き出す血液。
老婆は突如、床に両手をつくと、
そして、目にも止まらぬスピードで暖炉の向こうへと消えていった。
部屋を沈黙が支配した。
時計――時を刻む秒針の音。
老婆から垂れた血液が床を侵食していく。
こうして突っ立っては居られない。
僕は東側の壁にあるドアを開け放った。
・次へ進む
https://kakuyomu.jp/works/16818093085371501586/episodes/16818093085432411841
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます