第八話 Devilの教え

理由


 あのキスの意味を何度も何度も考えてみた。



 だけどどんな風に考えても、行き着くのは酔っていたからという答え。



 泣いてる女にキスをするのは、アスマの常套じょうとう手段なんだと思う。



 そこに深い意味はないし、確かにアスマにキスされれば、誰だって泣きやむんじゃないかと思った。



 事実あたしだってそうだった。



 あっという間に涙が乾いた。



 けど、あたしへの行為はやっぱり本人が言ったように「酔ってるから」なだけだった。



 あのキスのあと、すぐに眠ってしまったアスマの寝顔を見つめながら悟ってしまった。



 もうこれが最後なんだと。



 女として見て欲しいと願ってた。



 だけど実際そうやって、女として扱われて、凄く虚しくなった。



 他にいるアスマを取り囲む女の人たちと同じになってしまったと。もう「特別」ではないと、理解した。



 例えば女として扱ってもらえないなら家に行ける。



 だけどキスしてしまった以上、もう家には行けない。



 あたし的には今までと変わらない行動のつもりでも、起こった出来事に左右されて、アスマの受け取り方が違ってしまう。



 今後あたしがあの家に行けば、アスマにとって「しつこい女」になってしまう。



 男と女の関係が凄く複雑なように思えた。



 今まで誰かと接する時にこんなに深く考えた事なんてない。



 行動ひとつひとつが全てマイナスの方向へいく――ような気がする。



 折角アスマへの気持ちに気付けたのに、直後にアスマを失ってしまった。



 もしあたしがこの気持ちに気付いてなければ、今まで通りに接する事が出来た――のかもしれない。



「しつこい女」と思われたくないと思うのは、好きだという感情があるからで、その感情に気付いてなければ、何をどう思われても今まで通りにやっていけたと思う。



 そう思うと、好きって気持ちをうとましく思った。



 嫌われたくないって思う気持ちを邪魔だと思った。



 好きだと自覚した途端に、相手の顔色をうかがわなきゃいけない事に、酷くジレンマを感じた。



 ……けど、今更どうにも出来ない。



 時間を戻す事が出来なければ、気付いた気持ちを認めない訳にもいかず、結局あたしはアスマに会う事が出来なくなってしまった。



 これがまだ、きちんと女として見られていたら、もしかするとアスマが遊んでる女の人の中のひとりになれたのかも――しれないけど、なりたくはない。



 やっぱりあたしは「特別」でいたい。



 そう思うのもまた、好きだからだと思う。

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