第五話 学校って何?

作戦


【アスマ、今何してる?】


 送ったそのメッセージは未読無視された。



 1時間くらい待っても既読にならなくて、



【借りてたお金返したいんだけど、今日時間ない?】


 2通目のメッセージを送った。



 送信してから約10分後。



【待て】


 一言だけで送られてきたメッセージを見て、あたしはおとなしく待ってる事にした。



――あれから。



 迷子になりながらもアスマに会いに行ったあの日から、10日ほどが経つ。



 本当はまだお小遣いを貰える時期じゃないけど、退きならない事情があって、チマチマ貯めてたヘソクリを持ってここにいる。



 この間、アスマと「運命」的に会えた場所。



「優しく」抱き締められた自動販売機の前。



 時刻は夜の11時を回ったところ。



 すっかり訪れた春の気配に寒さを感じる事はなく、夜空を見上げたあたしは、瞬く星を見てちょっとだけ泣きそうになった。



 早くアスマに会いたい。



 どうしても今日会わなきゃいけない。



 頼る相手はアスマしかいなくて、今のあたしには物凄く助けが必要。



 まさか「待て」ってメッセージの意味が、数日待てって意味だったらどうしようって、ほんのりと焦り始めた時ようやく、あたしのスマホの通話着信音が鳴った。



「も、もしもし!? アスマ!?」


『声がでけえ』


 すぐに通話に出たあたしに、いつも通りの低い声が聞こえてくる。



 だけどまだまだ安心出来ない。



 今日会えないと意味がない。



「アスマ今日! ってか、今から会える!?」


『会う気はねえけど、金は受け取る』


「今から会えるって意味!?」


『すぐじゃねえぞ』


「え!?」


『今、女のトコ出たばっかなんだよ』


「泊まりはなし?」


『泊まらねえ主義だ』


「主義?」


『ああ。女とは泊まらねえ。勘違いされちゃ面倒だからな』


「勘違い?」


『ああ、いい。お前に言っても分かんねえ話だ』


「分かるかもしれないじゃん!」


『無理だな。とりあえずそっちに寄るとしても、あと30分程――』


「待ってる!」


『ああん?』


「実はもうね、この間のトコまで来てる!」


『この間?』


「自動販売機のトコ! アスマにお金借りたトコ!」


『お前、何考えてんだ!? 俺から連絡なかったらどうするつもりだったんだよ!?』


「でも連絡あったじゃん! 待ってるね! だから早くね!」


『おい、おま——』


『帰れ』って言われるんじゃないかと焦って、アスマの言葉を最後まで聞かずに通話を切った上に、スマホの電源までも切った。



 第一段階は何とかクリア。



 でもまだまだ安心出来る状態じゃない。



 むしろここからが大切で、気合いの入れどころ。



 アスマと会ってからどう説得するかが重要課題。



 あたしの未来が掛かってる。



 何としても説得しなきゃいけない。



 成功する確率はコンマいくつの次元だけど、アスマ以外にあたしを助けてくれる人はいない。



 自動販売機の前にしゃがみ込み、もう一度夜空を見上げたあたしの隣には、着替えや必需品を詰め込んだ――家出用の――鞄がある。

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