第三話 友達って何?[前編]

予感


 ホワイトデー前に折角会えたアスマに、連絡先を聞かなかったのは予感がしたから。



 また会える。



 漠然ばくぜんとそう思った。



 そこに何の保証もないけど、その時は凄く自信があった。



 必ず会えるって。



 近々会えるって。



 けど、そんなあたしの予感なんてものが当たる確率は低くて、



「スガ先ぱあああい!」


「ダメだっつったらダメだ」


 結局あたしは以前同様、スガ先輩にお願いするしかない。



「駅降りてからどっち方向かだけ教えてくれればいい!」


「無理」


「どっち側かってだけでいいの!」


「無理」


「じゃあ、メッセージアプリのIDでいい!」


「もっと無理」


「スマホの番号は聞かないからID教えて!」


「絶対に無理」


「…………意地悪」


「意地悪じゃなくて、優しさ」


 うつ伏せになって寝転んで、漫画の本を読んでるスガ先輩に、繁華街でアスマに会った事を報告したのは、会った日の翌日。



 あたしの話を聞いたスガ先輩は、「連絡先を聞かなかった事は褒めてやる」って満足そうに笑って、「そんな偶然は二度とないと思うがな」って意地悪く言った。



 スガ先輩が言った通り、その後アスマに会える事はなく、何度か学校の友達と学校帰りに繁華街に行ったけど、当然の如くアスマの姿はなかった。



 だからあれから数日経った今、スガ先輩に日々懇願こんがんするしかなく、



「優しさって自己満足だってアスマが言ってた」


 意地悪なスガ先輩に嫌みを言うくらいの反論しか出来ない。



「は? 自己……何?」


「自己満足! 優しさっていうのは、した側の自己満足なんだってアスマが言ってた!」


 ようやくこっちに顔を向けたスガ先輩に、アスマの受け売りを得意気に口にすると、



「ぎゃはははは! アスマさんの言いそうな事だな!」


 スガ先輩はそう笑って、漫画に視線を戻した。



「……スガ先輩?」


「ん?」


「終わり?」


「何が?」


 打撃はなかったらしい。



 あたしはアスマの話を聞いて少なからず「優しさ」っていうものにショックを受けたのに、スガ先輩は平気らしい。



 それどころか。



「自己満足で——」


「ああ。いい。実際、そうだからな」


 意見を丸呑みしてしまうという暴挙に出られてしまった。



 あたしとしては反論して欲しかったのに。



 スガ先輩を熱くさせて、勢いでアスマの連絡先聞こうと思ったのに。



「自己満足じゃねえよ」って言い返してくるスガ先輩を丸め込んで、「本当に違ってあたしを思っての事ならアスマに会わせて」って言おうと企んでたのに、



「ス、スガ先輩も自己満足派!?」


「何の派閥だ」


「アスマと同じ意見!?」


「全部同じかどうかは分かんねえけど、この件に関してはそうだな」


「この件ってどの件!?」


「スズがアスマさんに会わせろって件」


 あっさり自己満足を認められて、次の手がない。



「うう」


うなっても無理」


「ぐげっ」


「奇妙な声出しても無理」


「クックドゥードゥルドゥ」


「アメリカンな鶏の鳴き方しても無理」


「ボヘミアーン」


「何だそれは!?」


 いくら考えても次の手なんて何もなくて、スガ先輩とじゃれ合うしかないあたしは、今度こそアスマに会えなくなってしまった。



 こんな事ならメッセージアプリのIDを聞いておけば良かったって心底思った。



 あの時感じた予感は一体何だったんだろうって凄く思った。



 ――けど。



 その数日後、まんまとあたしの予感は当たった。

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