第53話
俺は再び【加速】をかけ直し、全身に力を漲らせるが、すでに体はボロボロだ。
グシヌスもまた限界に近づいているはずだった。だが――。
次の瞬間、グシヌスの瞳が不気味に輝き、妖刀がさらに禍々しいオーラを放ち始めた。
「……これで、終わりにしてやるよォッ!」
「……何だと?」
グシヌスの身体から溢れ出る異常な量の魔力。その力は明らかに尋常ではない。
まるで命そのものを削っているかのように――。
「貴様、その力は――」
「かはっ……これがオレの最後の一撃だぁ! お前も、この屋敷も、みんなまとめて消し飛ばしてやる!」
グシヌスは狂気に満ちた笑みを浮かべ、全ての魔力を妖刀に集中させていた。
それはまるで命を放出するかのような力。――この一撃で、奴は自らの命も終わらせる気だ。
……自分勝手な、奴だ。
「そんなことをすれば、お前まで死ぬことになるぞ」
「知ったことかァッ! オレの命なんざもうどうでもいいんだよォッ!」
妖刀から放たれた黒い衝撃が、俺へ、そしてルシアナ様がいる屋敷へと向かって放たれる。
……グシヌスが命を削って放った一撃。
これまでに見てきたどの【天絶刃】よりも凄まじい威力だ。
回避したら、ルシアナ様たちが巻き込まれることになる。
ならば、相殺するしかない――!
俺も即座に【天絶刃】を発動する。
だが――。
「足りない……!」
俺の力では、この一撃を止めるには力不足だ。すぐにステータスを強化していくが、グシヌスの一撃を止めるには、足りない……!
……体が悲鳴を上げる中、さらにスキルを発動してステータスを強化していく。
だが、それでも押し切られる――!
「ハハハハ! シね! シね!」
グシヌスが楽しそうに叫んだ瞬間。【天絶刃】の威力はさらに跳ね上がった。
……こいつ。マジで死ぬつもりなのかよ。
俺がその一撃を止めるには……こちらも、命を削るしかない。
「く、おおおお!」
俺は【天絶刃】に関係している、筋力のステータスをあげるため、【剛力】を五重うまで引き上げる。
ぶちぶち、と何か体の内側から嫌な音が響く中、それでも俺は、スキルを跳ね返すために魔力を籠める。
……だが、押し切られる――。
このまま、俺はまた守れないのか?
……いや、もうあんな苦しい思いはしたくない。
たとえ、ここで死ぬことになったとしても――今度こそは、守り切る。
そう覚悟を決めた瞬間だった。
「――済まなかったな、ロンド」
そんな声が響いた。視線を向けると、剣を支えに歩いてきていたクラウスさんの姿があった。
「クラウスさん……!」
俺が見上げると、クラウスさんは前に出ると、一気に魔力を込める。
同時に、剣を鞘へとしまい――そして、クラウスさんは剣を振りぬいた。
俺の【天絶刃】に合わせるように、クラウスさんの【天絶刃】が重なる。
クラウスさんの剣から放たれた強大な【天絶刃】が、俺のものと共鳴し、グシヌスの黒い衝撃とぶつかり合う。
「――なっ!?」
衝撃が全身を駆け巡る。俺とクラウスさんが放った力と、グシヌスの命をかけた一撃が激しくぶつかり合う。
その刹那、空間が歪むかのように巨大な爆発音が響き渡り……魔力による霧が生まれていた。
……スキルが、相殺しあった結果だ。
俺とクラウスさんは荒い呼吸をつきながら……グシヌスへと視線を向ける。
「……ぐ……はっ……」
……妖刀に、すべてをささげて放った一撃だった。
グシヌスはその場で動けなくなったのか、倒れた。……どんどん、彼の呼吸も小さくなっていく。
何よりも彼の持っていた妖刀から放たれる輝きが、薄れていく。
クラウスさんは少しだけ寂しそうにグシヌスを見つめてから、小さくいた。
「……すまない。お前をこんな風にしてしまったのは、すべてわしのせいだ」
その声には、後悔が滲んでいた。
俺は本来のグシヌスを知らない。
……だから、クラウスさんがどんなことを思ってその言葉を言ったのか、その言葉の重みを理解することはできない。
「……クラウスさん」
俺は、クラウスさんの悲しそうな背中を見つめることしかできなかった。
クラウスさんは倒れていたグシヌスの最期を見届けるように寄り添っていて……俺もせめてそれを見届けたかったのだが、もう限界だった。
全身の力が抜け、その場に膝をついた。
……さすがに、無茶なスキルの使い方をしすぎてしまった。体がもう動いてくれそうになかった。
そんな時だった。
「……ロンド!」
……ルシアナ様? 彼女の声が聞こえたような気がして、閉じかけていた目を開いた。
いつもとは逆の立場で、ルシアナ様が俺の体を抱きかかえている。
彼女の顔には、心配そうな表情が浮かんでいて……俺がそんな顔をさせてしまっていることが、少し残念だった。
「ロンド、大丈夫!? 無事か!?」
「……ルシアナ様。守れて、良かったです」
「ああ、ああ! 私は大丈夫だ。だが、お前は……っ!」
だんだんと、意識が朦朧となっていく。
ルシアナ様の悲痛めいた声がどこか遠くの方で聞こえてくる。
……それでも俺は、目を開くことはできず、そのままゆっくりと目を閉じた。
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