第52話


 ……このままじゃ、勝てない。

 このままで戦えば、な。

 ルシアナ様を守る。それが俺の使命だ。


 俺は深く息を吸い込み、【加速】を三重にかけ、力を引き出す。


 その瞬間、視界が一気に広がり、世界がゆっくりと動き出した。

 それと同時に、地面を蹴った。


「……ほぉ!」


 グシヌスは俺の動きに完璧についてきていた。

 ……これで、まだグシヌスと互角だ。あの妖刀の力が、予想以上に強力だ。


「ちっ……!」


 全身にかかる負荷が大きくなり、筋肉が千切れそうな痛みが走る。

 それでも、ここで終わらせるわけにはいかない。俺はさらに【加速】を四重に引き上げた。


「……ぐっ!」


 体中がバラバラになりそうな痛みが襲ってくる。だが、今はその痛みを押し殺し、【剛力】も三重にかけて、俺は一気に踏み込む。


「これで、終わらせる!」


 瞬時にグシヌスに接近し、剣を振り下ろした。俺の剣は唸りをあげ、グシヌスに向かって放たれるが――。


「そう簡単にいくかよォッ!」


 グシヌスもまた、妖刀の力をさらに引き上げ、俺の剣を受け止める。ここまで引き上げて、まだ互角になるのか。

 剣と妖刀が激しくぶつかり合い、火花が飛び散る。


「っ、くそ……!」


 全身が痛みで悲鳴を上げるが、それでも剣を振るい続ける。

 俺の剣とグシヌスの妖刀は激しくぶつかり合い、お互いに押し合い、切り裂き合う。

 力と力のぶつかりあいとなる。


「……くっ!」


 俺がわずかに後退するのを見逃さず、グシヌスが一気に攻め込んできた。


「さあ、これで終わりだァ!」


 グシヌスの刀が俺を斬り裂こうと迫る。

 だが、俺は【加速】を最大限に発動し、かろうじてその一撃をかわす。そして、反撃の剣を放つが――。


「甘いんだよォッ!」


 グシヌスは、さらに妖刀の力を高め、一瞬で間合いを詰め、再び襲い掛かってくる。

 俺はその剣撃をなんとか受け止めるが、その勢いに押され、再び後退させられる。


 ――このままじゃ、勝てない。


 俺は再び深く息を吸い込み、限界を超える覚悟で力を込めた。そして――奥歯を噛みしめ、スキルを発動する。


 【剛力】と【加速】を四重で発動する。

 全身にさらに力を巡らせ、俺はグシヌスに向かって突撃する。


「これで、終わりにする!」


 俺の剣がグシヌスに迫り、彼の妖刀と激しくぶつかり合う。

 その瞬間、俺の動きがグシヌスを上回った。

 完璧に追い込み、グシヌスの体を剣で殴りつける。


「ぐうう……!?」

「まだだ!」


 一気に跳躍し、グシヌスへと剣を叩きつける。【ガードブレイク】を発動し、グシヌスの持つ驚異的な防御を削ぐ。

 同時に発動した、【蜘蛛糸】で敏捷を下げようとしたが、グシヌスはそれを妖刀で振り払った。


「調子に、乗るんじゃねぇ!」


 だが、その時――。


「くたばれッ! これが【天絶刃】だァ!」


 グシヌスが妖刀を振り上げ、黒いオーラを纏った一撃を放つ。俺は咄嗟に反応し、同じく【天絶刃】を発動させた。


「【天絶刃】!」


 お互いの技が激突し、凄まじい衝撃波が辺りを吹き飛ばす。屋敷の窓が割れ、瓦礫が舞い上がる中、俺たちは必死に耐えた。


 だが――。


「へっ、まだまだ終わりじゃねぇぞ!」


 グシヌスはそのまま勢いを保ちながら、俺に向かって再び突進してきた。俺は剣を構え、再び彼の攻撃を受け止める。

 だが、今の一撃で俺の全身への負荷がさらに増した。そのせいで、反応が遅れる。


「くっ……!」


 グシヌスの攻撃を受け止めたが、大きく弾かれる。

 ……すでに、体は悲鳴を上げている。だが、また、先ほどのようにスキルを過剰に使っていかないと、俺はこいつに対抗できない。


 やるしか、ない。


 再び、【加速】と【剛力】のスキルを四重で発動した俺は、グシヌスの妖刀と剣をぶつけ合う。

 お互いに限界を超えた状態での戦い。

 剣と妖刀が激しくぶつかり合い、火花を散らす中、俺はグシヌスに対抗するためにさらに力を引き出していく。


「……てめぇ、どこまでやるつもりだよッ!」


 それは、こっちのセリフだ。

 グシヌスが再び襲いかかってくる。

 その攻撃を避け、俺は即座に反撃を繰り出す。

 ……まだ、足りない。


 しばらく、動けなくなっても構いはしない。

 こいつを、ここで倒せれば、それでいい。


「――【加速】」


 俺はさらにもう一つ。スキルを重ねた。

 その瞬間。俺は明確にグシヌスの速度を超えた。

 その体へ、剣を叩きつける。


「ぐああ!?」


 反撃に妖刀を振りぬいてきたが、すでにそこに俺はいない。

 グシヌスの意識を刈り取るために連撃を叩き込んでいく。

 ――だが、その時だった。


「ルシアナァァァァッ!」


 グシヌスが突然、屋敷の窓へと向かい、地面を蹴った。

 ……俺ではなく、直接ルシアナ様を殺そうとしての行動か。


「――させるか!」


 俺は即座に反応し、剣を叩きつける。グシヌスが妖刀を振りぬいてきたが、その一撃をかわした。


「クソッ、邪魔しやがって!」


 グシヌスはすぐに俺に向かって突進してくる。俺は彼の攻撃をかわしながら剣を振り、再びお互いの剣が激しく交差する。


 その度に衝撃が走り、地面が揺れ、俺たちの限界が近づいていることを感じさせる。

 ……俺も、もう時間はない。

 だが、それはグシヌスだって同じだ。


 戦闘が始まってから。俺はグシヌスが妖刀を使っていた時間を数えていた。

 ――もう、ゲームならばそろそろHPが切れる寸前だ。


「これで……終わらせる!」


 

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