第45話

 昼休みになりいつも通り、リーニャンと食事をしていたときだった。

 食事を終えたリーニャンは眠たそうに目を擦り、しばらくしてうとうととなって眠りについた。


 エレナがうまく睡眠薬を入れてくれたようだ。

 ここからやることは簡単だ。俺たちしかいない休憩室にキャリンがやってきて、すぐにリーニャンを見る。

 次の瞬間、キャリンも目を閉じた。


「……別に添い寝しなくてもいけるんだな」


 俺がポツリと呟くと、一緒に来ていたエレナが驚いた様子でこちらを見てくる?


「……え? いつもは添い寝して夢の中に入ってきているんですか?」

「ああ、そうだ」

「恐らくそれはキャリンの趣味でしょう。まったく、彼女は変な趣味を持っていますからね」


 それはツッコミ待ちだろうか?

 エレナは、至って真剣な様子で話している。

 しばらく俺たちはキャリンの様子を見守っていた。


 それから数分後――。キャリンがゆっくりと目を開いた。

 キャリンは軽く伸びをしてから、息を吐く。


「どうだった? ちゃんと情報は得られたか?」

「うん……得られたよ。まず、やっぱりヴァンに命令されてるのは本当みたいだね」

「そうか……」

「リーニャンの妹、リアンっていうんだけど……彼女はヴァンの領内にある施設にいる」

「……ヴァンの領内か」


 そうなると、気軽に手を出すわけにはいかないか。


「うん。リアンはそこで療養しているんだけど、あの場所から出るのはほぼ不可能だね」


 キャリンの説明に、俺たちは眉をひそめた。

 ……リーニャンが連れて行きたい、といっめ素直に連れ出させてくれるとは思えないよな。


「施設から連れ出すには、どうすればいいですかね?」

「少し考えたけど、リアンを外に出すには何らかの混乱を引き起こすしかないかも。ヴァンが施設の警備に強い兵を配置しているから、まともに入るのは難しいよ。リーニャンも何度かその計画は立ててるみたいだけど、うまくいってないみたいだしね」


 ……ということは、リーニャンも逃げ出したいという気持ちはあるのか。それなら、まだ交渉の余地はあるよな。


「それから、リアンが療養している場所もかなり特殊な部屋で、厳重に管理されている。おそらく妹を人質にして、逆らえないようにしてるんだろうね」


 キャリンは少し悲しそうな表情を浮かべてから、リーニャンの頰を撫でた。


「……リアンの状況を考えると、リーニャンも無理に従っているんだろうな」

「そうだね。リーニャンの夢の中では、彼女はずっと悩んでた。妹を守りたいけど、ルシアナ様たちも裏切りたくないって」

「……今、リーニャンは板挟み状態になってしまっているんですね」


 俺はリアンの居場所が分かったことで、少し安堵した。

 だが、これからが問題だ。


「まずは、リアンを安全な場所に連れ出す必要があるな。キャリン、具体的な施設の位置は?」

「うん、ちゃんと覚えてるよ」


 キャリンは笑顔で胸を張る。

 最悪、正面突破をして連れ出してもいいのだが……そこは、ルシアナ様とヴァンの関係もあるため勝手には動けない。

 今は、この情報をルシアナ様に共有して、どうするかを確認するべきだろう。

 俺たちは、リーニャンにブランケットをかけてから、部屋を後にした。




 キャリンが得た情報をもとに、すぐにルシアナ様のもとへと向かった。

 先ほど入手した情報について詳しく説明していくと、ルシアナ様は静かに頷きながら、深く考え込んだ。


「……リアンが人質のように扱われているのなら、すぐに保護しなければならないな」

「ただ、リアンを連れ出すには、ほとんど強引な手段を使う必要があると思います。施設自体が厳重に守られていますし、ヴァンの勢力下にある場所なので、無理に突破する形になります」

「……そうか」


 ルシアナ様は静かにため息をつき、少し考え込むように目を閉じた。

 ……内心、色々なことを考えていることだろう。

 俺のせいで、ルシアナ様に苦労をかけさせてしまって申し訳ない。


 だが、リアンを放っておけば、リーニャンの命も危うい。俺としてはどうにかしてあげたかった。

 しばらくの沈黙が場を支配していたが、俺は考えていた作戦を口にする。


「ルシアナ様……リアンを保護するために、リーニャンも呼び出して話をするのはどうでしょうか? 現状、彼女に敵対の意思はありません。リーニャンが家族を迎えに行くという形であれば、少なくも表向きはどうしようもないはずです」

「表向きは、だろう?」

「はい。向こうがそれから何かしてきたのであれば、抵抗させてもらいます」


 俺の言いたいことは分かるだろう。

 ルシアナ様は俺の言葉に頷いた。


「……分かった。リーニャンとともに、ロンドが保護に向かうということで話を進めよう。ロンド、危険伴うが大丈夫だな?」

「ええ、任せてください」


 ルシアナ様の提案に、もちろん頷いた。


「それなら、早速リーニャンを呼んで話をしよう。あまり、時間もないだろうしな」

「はい。分かりました」

「私がリーニャンを呼んできます」

 

 エレナがそう言って、部屋を出て行った。

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