第36話
夢の中での訓練を開始する。
俺は【付与術師】として魔力操作に集中しながら、夢の中で作り出したクラウスさんと対峙している。
……それから、戦闘を開始する。
クラウスさんがいつものように素早い動きとともに連撃を放ってきて……そして、トドメに俺へと【天絶刃】を放ってくる。
この前、クラウスさんが見せてくれたような攻撃だ。このクラウスさんに、勝てるようになりたかった。
【天絶刃】の威力は凄まじい。夢の中だから喰らっても痛みはないが、リアルで浴びせられたら塵一つ残らないかもしれない。
夢の中だからこそできる、訓練だろう。
やられたところで、再びクラウスさんを作り出し、訓練再会。
……戦闘を行いながら、【付与術師】としての魔法などを放ちながら、気づいたことがある。
【付与術師】の魔法やスキルの発動に関しては、文字を書くことでその内容が決まる。
だからか、エレナに言われた一定の数値での魔力の維持がより使いやすい。維持した状態から文字を書くと、即座に魔法へと変換されるのだ。
……今はまだ、そこまで安定して維持できていないのでそこまで恩恵を感じていないが、慣れてきたらこれは凄いことになりそうだ。
ゲームではありえないような、連続で高威力の魔法やスキルを連発できるようになるかもしれない。
クラウスさんの攻撃に……集中しないとな。
クラウスさんが大剣を振り抜き、空間が引き裂かれる音が響く。
恐ろしい速度で放たれる【天絶刃】を、ギリギリでかわしながら、俺は剣を構えた。
「くらえ……!」
俺は懐へと入り込み、剣を振りぬいたが……クラウスさんに受け止められる。そのまま弾かれ、一気に剣を振るわれる。
何とかくらいついて弾いたのだが、その威力によろめかされた瞬間に、クラウスさんの【天絶刃】が放たれ、俺の体は吹き飛ばされた。
……くそぉ。マジで強いぞ、この人。
俺にも、こんな必殺技があればもっと楽に相手を追い込めるかもしれないのに。
【付与術師】はなんでもできるがそういった必殺技はない。
俺の戦い方は地道に削り、時間をかけて相手の体力をゼロにするというものだ。……けれど、何か一発で決める技があれば、それを使えば相手を確実によろめかせられるような必殺技があれば、戦術も変わってくるはずだ。
夢の中のクラウスさんと剣を交えている時だった。
ふわりとキャリンが虚空から姿を見せ、笑顔とともに手を振ってくる。
「ロンドくん。色々と夢を調整していたんだけど、今なら二倍くらい長く訓練できるようになったよ」
……おお、本当か。
下着まで身に着けたかいがあったというものだ。
「ありがとな、キャリン。助かるよ」
「いえいえ……私も色々と助かってるしね」
舌なめずりをして、嬉しそうにしているキャリン。
……深くは、聞かないほうがいいだろう。
とにかく、訓練時間を実際の倍に伸ばすことができるようになった。その事実だけを、受け入れよう。
俺は再びクラウスさんに向き直って戦っていくのだが……うん、やっぱりクラウスさんは強い。
それでも、魔力操作を行いながらの戦闘には手ごたえも感じていた。
そんなこんなで戦闘を続けていると、俺の戦いを楽しそうに見ていたキャリンがふと問いかけてきた。
「ロンドくん。なんだか悩んでるみたいだけどどうしたの?」
「いや……俺も、クラウスさんみたいな強い技があればなぁ、って思ってな」
「……あのバーン! ってやつだよね? ロンドくんの【付与術師】って似たようなことができるんだよね? それで真似しちゃったらいいんじゃないの?」
「俺の場合、ステータスもあるかもしれないけど……そもそもオリジナルと比べると劣るんだよな」
バフ、デバフ、攻撃魔法など。俺は確かに何でもできるが、その効果はすべて本来あるものよりも劣る。
それが【付与術師】の弱みでもある。
「うーん……それなら、他のスキルも組み合わせて、全部乗せーみたいなことをしちゃったらいいんじゃないの?」
「……なるほど、な」
そういうことも、できるのだろうか?
ゲームでは、スキルを発動してから、別のスキルを発動……みたいな流れだった。
だから俺は今も同じように使っているのだが、例えば【天絶刃】に他のスキルの効果を上乗せするようなことができるのなら……オリジナルと比較しての威力低下をカバーできるかもしれない。
例えば、【ガードブレイク】+【天絶刃】のような感じだ。相手の防御を削ってから、本命の必殺技をぶち当てる、みたいな。
考えてみる価値はありそうだな。
まずは、クラウスさんが見せた【天絶刃】をそのまま再現してみることにする。
【天絶刃】の文字を空に描き、剣に魔力を込めて振り抜いた。
しかし、放たれた斬撃は思っていたよりも弱い。威力は本家の【天絶刃】に遠く及ばなかった。
俺はクラウスさんの恐ろしい技を再現したつもりだったが、【付与術師】ではやはり限界がある。
ただ真似をするだけでは器用貧乏に終わってしまう。
そこに、時間はかかるが【ガードブレイク天絶刃】という文字を書いて、剣に効果を反映させる。
そして、剣を振りぬいた。……同じような衝撃波は出たし、さらに【ガードブレイク】も発動していただろう。
「できたの?」
「できたけど……実戦向きじゃないな」
もっと素早く、お手軽に技を発動できるようにしないと、敵の前でこれだけの文字を書いているのは隙になる。
ただ、方向性としては悪くないと思う。
色々と、試してみるか。
【付与術師】として強くなっていくのは大事だが、それとは別に俺自身の剣の技術を磨く必要もある。
俺は再び剣を構え、夢の中でのクラウスさんに向き合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます