第34話

 リーニャンが屋敷に来てから一週間が経過した。彼女も少しずつ屋敷の生活に慣れ、のんびりしたペースで仕事をこなしている。

 俺の手が空いているときなどは彼女のことを観察しているが、特に何か変な行動をとることはなかった。


 ……まあ、俺は確かにかなり強くなってはいるが、所詮は素人。

 その道のプロに本気で正体を隠されたら、見破れるわけがないよな。

 夜になり俺はいつものようにエレナの部屋で魔力操作の訓練を行っていた。

 エレナの体に張り付けたパットへと魔力を流し込むと、エレナは全身をわなわなと震わせ、頬を紅潮させながら笑顔を浮かべる。


「い、いい感じです……! ロンドさん、魔力操作にもかなり慣れてきましたね……んっ!」

「……そう、だな」


 とはいえ、常に一定の魔力を込める、一度それを止め、また一定の魔力を込める、というのは中々大変だ。


「どうされましたか? 浮かない顔をして……もしかして、ロンドさんもこの電気を全身で浴びたいのでしょうか?」

「それは違うから気にしないでくれ」

「それなら良かったです。譲る気もありませんでしたので。無理やり剥がれたら、どうしようかと思っていましたよ。……む、無理やり剥ぐ……!? ロンドさんが!? 私を……!?」

「勝手な妄想でテンション上がるんじゃない」


 身ぐるみを剥がされているシーンでも想像したのか、エレナは体をくねらせて息を荒らげる。

 オンオフが激しい人への耐性はすでについていたので、そんな様子のエレナに俺も特に驚くことはない。

 俺が気になっていたのは、そんなところではない。


「エレナ。今の魔力の使い方だと電源のオンオフを繰り返すような感じで、かなり燃費が悪いよな?」


 俺が思っていたのはそのことだ。……まあ、仕方ないっちゃ仕方ないがスキルを発動する際には、0からスキルが発動するまで魔力を込める必要がある。

 そうなると、結構魔力を使うんだよな。……ゲームではそれが当たり前だとは思っていたのだが、今の俺はゲームの時よりも魔法やスキルを使える回数が少ない。

 燃費が、悪いんだ。だから、ゲームの時とは何か違う手段をとる必要があると考えていた。……今は、最大魔力をあげていっているが、それは力業での解決になってしまう。


「ええ、そうなりますね。そこに気づくとは……さすが、ロンドさんです。それでは、今日からは……そちらの訓練に行きましょうか」

「……どう、やるんだ?」

「やることは同じです。ただ――電流を流す時間を増やすんです……!」

「お前の趣味ではなく?」

「私の趣味ではありませんよ、失礼な」


 だって疑わしいんだもん。

 俺はまだ疑いの目を向けていると、エレナは微笑を浮かべた。


「これは私が……今は亡き師匠から伝授してもらった訓練になります」

「……今は亡き、なのか」

「はい。私の師匠は……ドエムでした」

「俺の師匠もなんだけど」

「……師匠は、より高い電流を求め、市販のマッサージ魔道具を違法改造しました。……その結果、体が許容できないほどの電流を流してしまい……逝かれてしまいました」

「そう、か」

「その時の師匠の顔は、それはもう恍惚とした表情をしていて、私としてはとても気になっているのですが、今はその話は置いておきましょう」

「本当にな」

「私の師匠は、魔力操作に関しては間違いなく天才でした。同じ魔力量の人と比べても、明らかに魔法の使用回数が多かったのですが……それは、師匠の訓練の方法に関係していました」


 やっと話が戻ってくるようだ。


「どうしていたんだ?」

「戦闘中、常に体の魔力を高めておくというものです。先ほど、ロンドさんが話していたようにオンとオフを切り替えていては、毎回0から魔法やスキルが発動するまでの100%までを溜めるのは大変でしょう? だから、常に99%程度の魔力を纏いながら戦闘を行うというものです」


 例えば、人間が走り出す場合にしても、歩いた状態から走るのと、座った状態から走るのとでは動き出すまでにかかる労力が違う。


「理論としては分かるが……それはつまり、常に魔力を纏っているわけで、それはそれで魔力も消耗しちゃうんじゃないか?」

「少しでも気を抜けば、魔力は放出されてしまうので無駄になります。あくまで、体内で魔力を練り上げておくのみとなります」

「……なるほど」


 確かに、スキルを使う場合、体内で魔力を練り上げ、それからスキルへと変換をする。……その魔力を練り上げる作業に魔力を消費することになるので、連続でスキルを使うのであれば一定の魔力を維持していた方が効率がいいのか。


「ってことは、もしかしてスキルが発動するまでの速度も早くなるのか?」

「ご名答です。単純に手順を一つスキップしますので、その分だけ早く発動できますね」

「……いいこと尽くしだな」

「ですが、とても大変ですよ。全身しばりつけられた状態で、体をくすぐられ、その状態で呼吸を止めるようなものです。……あっ、そのシチュ想像してたらちょっと興奮してきてしまいました」


 性癖について語る必要あったか?

 でも、まあ分かる。彼女の性癖に対しての理解ではなく、魔力を抑えておくことの大変さが。


「これからは、その訓練を行うんだよな? どうやるんだ?」

「はい。プレイ内容ですが、やることはこれまで通りこのパットに魔力を流してもらいます。ただし、今までのように、魔力を込める、一度やめる、というのではなく魔力を一定時間籠め続けるようにします。最初は三十秒程度を目標に、維持できる時間を長くしましょう」


 おい今プレイって言ったな。

 ただ、やるべきことは理解したので、俺は早速魔力をこめるために魔道具を握った。



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