第33話

 訓練を終えて屋敷に戻る。

 さて、どうしようかな。今日のルシアナ様の専属はキャリンだ。

 エレナが完全な休養日で、俺はキャリンが休憩するときなどに代わりを務めるくらいだ。

 それ以外の時間では、他の使用人同様の仕事をするのだが……そもそも、俺たち専属の人たちがいなくても仕事は回るようになってるからな。


 たまに、イレギュラーが発生して手伝うことはあるが、基本的には何もしなくてもいい。

 とはいえ、何もしないでダラダラ過ごすのも勿体無い。そんなこんなで、仕事を探すために屋敷内を歩いていると、リーニャンが荷物を持ってゆったりと歩いているのを見かけた。


 ……リーニャンたちもすでに仕事を開始しているようだ。俺と違い、皆どこかしらで使用人の経験があるため、初日に少し指導した後は普通に勤務をしている。

 ただ、リーニャンが運んでいる荷物が結構多く、少し見ていて不安になる。


 彼女のことは気になる部分もあったため、俺は声をかけてみた。


「大丈夫か? 手伝おうか?」

「あ、ロンド……大丈夫。倉庫まで、運ぶだけ……だから」


 そうはいうのだが、彼女の歩きは蛇行している。……不安なので、持っていた荷物を勝手にこちらで受け取った。


「落としたら大変だ。今は空き時間で暇だから気にしないでくれ」

「……ありがとう」


 リーニャンはそう言ってぺこりと頭を下げてきた。

 彼女とともに、倉庫へと向かう。装備品などをしまっている地下倉庫ではなく、荷物などを管理している倉庫だ。

 リーニャンとともに倉庫へと向かい、運んできた荷物を片付けていく。


 倉庫内は少し埃っぽい。普段そこまで使うことはないが……今日はここの掃除でもしていようか。

 そんなことを考えながら、俺はリーニャンをチラと見る。


 白に近い薄い色素の髪を揺らし、全体的に細身な体。

 ……儚げな印象を受ける彼女は、細いながらも柔らかそうな太ももをお持ちだ。

 見間違いようなく、ゲームにも出てくるキャラクターだ。


 ゲームでの設定では色々と裏側のある女の子だが、やはり色々と抱えているものがあるのだろうか?

 ルシアナ様たちは逆に変な性癖を持っていたので、リーニャンは特に何もない普通の女の子という可能性だってあるかもしれない。

 そもそも、ゲームでは男娼とかの年齢制限に引っかかりそうな要素もなかったわけだしな。

 何もなければいいのだが……やはり彼女ことは警戒してしまう。ゲームでのリーニャンの設定が、どうしても脳裏に引っかかっていた。


「ねぇ、ロンド」

「……なんだ?」

「……専属の使用人って、給料いいの?」

「いきなりすごいこと聞いてきたな」

「気になって」


 リーニャンの不意打ちのような質問に、苦笑する。

 彼女の方を見ると、とても気になる様子でこちらを見てきている。……まあ、世間話をして交流を深めるのは大事だよな。


「給料は普通よりはいいかもな」

「……おお、魅力的」

「ただ、その分仕事も多くなるし、責任も重い。何かあった時は俺たちがルシアナ様の命を守るように動かないといけないしな」


 基本的には兵士たちがいるが、兵士たちが動けないような状況もある。……それに、ルシアナ様が俺の部屋で幼児退行してるときなんて、何かあったら俺一人で対応する必要があるだろう。


「なるほど……給料がいいのはいいけど、大変そう……」

「お金、欲しいのか?」

「欲しい。あって、困るものじゃない。いっぱいご飯食べられる」

「……まあ、そうだな」

「ロンド、冒険者として活動していることもあるって、屋敷の人たちから聞いた。冒険者はかなり稼げる?」

「リーニャンは登録してないのか?」

「登録はしてるけど、今はあんまり活動してない。安定しないから」

「……まあ、ある程度強くならないと厳しいよな」

「うん、厳しい。私、妹がいるんだけど病気がちで、お金が必要だから」


 ……そういえば、そうだったな。

 彼女の書類を見ていたのだが、使用人への応募の理由がそれだった。

 リーニャンは相変わらずぼーっとしたような表情だったが、声には切実さが感じられる。

 彼女は単にお金が好きなのではなく、妹を守るために稼ぐ必要があるのかもしれない。


「……大変だな」

「大変、ではない。妹のためなら、頑張れるから」

「それなら、良かった。ルシアナ様は悪い人じゃないし、職場の人も変な人は………………いないから、まあ悪い職場じゃないと思うよ」

「なんだか、間があった。……もしかして、陰湿ないじめとか、ある?」


 ……間があったのは、俺の脳内に浮かんでいた三人衆が原因だ。

 ルシアナ様、エレナ、キャリン。それぞれ、幼児退行、ドM、女装させてくるという特殊な人間だからだ。

 とはいえ、直接リーニャンが彼女らの趣味に付き合うことはないだろう。


「そっか。それなら……良かった」


「手伝ってくれた、助かった。ありがとう」

「どういたしまして。無理するなよ」


 俺がそう言うと、リーニャンは小さく笑みを浮かべた。彼女のことはまだまだ分からないことも多いが……妹のために頑張っている言葉が本当なら、純粋に応援したいと思えた。

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