第29話

 クラウスさん、エレナ、キャリン……三人との訓練の日々を経て、俺はダンジョンに挑戦することにした。

 休みを利用してのダンジョンへの挑戦。今日の目標は……ダンジョンボスの討伐だ。

 ゲームでは、一日一回までダンジョンボスを討伐できる。この世界でも、そのようだ。

 ダンジョンボスは通常よりも経験値やドロップが良い。

 もしも、討伐できるようになれば、今以上に効率よく経験値が稼げるようになるというわけだ。


 それに、自分の成長を確認するためのいい機会でもあるしな。

 朝早く、ダンジョンの入口に立った俺は、深呼吸を一度して心を落ち着ける。

 今日までの訓練の成果がどれほどのものか、しっかりと試してやる。


 ダンジョンへと入った俺は、脳内にある地図に従って最短距離で進んでいく。

 道中に現れる魔物は、サクサクと討伐していく。

 シャドウウルフが一、二階層。リザードスカルが三、四階層。

 すでに何度も戦った魔物というのもあるかもしれないが、以前と比べると圧倒的に楽に感じる。

 剣の使い方、体の使い方、そしてスキルや魔力の制御が身についてきたおかげ……だと思う。


 かなり、無駄なく戦えるようになってきている。

 あっさりと五階層に繋がる階段に到着した俺は、アイテムボックスから水分を取り出して、少し休憩をとる。


 ひとまず、今の自分のステータスポイントを割り振らないとな。

 自分のステータスを改めて確認すると、レベルは15にまで達していた。


 ロンド レベル15 ジョブ:【付与術師】 ステータスポイント:0 加護:【時導神リムレス】

 筋力:26 体力:11 魔力:44 魔法力:11 敏捷:26 運:1


 ステータスポイントもバランスよく割り振っている。……耐久面は心許ないが、今の装備品と合わせれば、このダンジョンのボスに十分通用するステータスだ。


 水分補給を終えた俺は、アイテムボックスに飲み物を片付ける。

 これで、ボスに挑む準備は整った。


 五階層へと繋がる階段を降りていった先には……重厚な扉が待っていた。

 この扉の先には、ボスがいる。

 ……ユニークモンスターとは、また違った強さを持つのがダンジョンボスだ。

 ゲームの攻略情報がある俺としては、勝てる見込みがあってここにきているわけだが……100%ではない。

 ……よし、いくか。

 一度、深呼吸をしてから俺は扉を開けた。


 大きな円形の階層は、コロシアムのようにも見える。

 中央には一人の人型の魔物が立っている。

 異様に長い手足を持ち、瞳は赤く光っている。


「来たか、挑戦者よ。私はこのダンジョンの主、デモニックナイトだ」


 言葉を発しながら、デモニックナイトは剣を抜き構える。

 ……ダンジョンのボスたちには、言葉を話す個体もいたんだったな。


「さぁ、始めようか、挑戦者。どこからでも、かかってくるといい!」


 デモニックナイトは笑みをこぼし、こちらに大剣を向けてくる。

 細い腕で、よくもまあそんな馬鹿でかい剣を扱えるものだ。

 俺も腰に差していた剣を抜き、デモニックナイトと向かい合う。

 そして……地面を蹴った。


 駆け出した俺はすぐに、【付与術師】の力を発動する。

 【加速】と【剛力】によって、ステータスを強化し、一気に迫る。


「ハッ! なかなかの速度だな……!」


 デモニックナイトはこちらの動きにすぐに反応して剣を振り下ろしてくる。

 それをかわした俺は、反撃に転じる。訓練で身につけた無駄のない動きに、【ガードブレイク】を合わせる。


「……むっ!?」


 ……防御低下の効果は、発動したようだ。これで、こちらのダメージが通りやすくなる。

 ダンジョンボスの体力は多いので、基本的にはデバフを重ねがけしながら、じっくりと削っていく必要がある。


 デモニックナイトの攻撃を、俺は跳んでかわす。【ちょうやく】によって【跳躍】を発動させながら、【火矢】を放つ。


 デモニックナイトは俺の魔法を大剣で防ぐ。だが、それによって視界が塞がれている隙に側面へと回って、剣を振り抜いた。


「……ぐっ! やるではないか!」


 デモニックナイトが声を上げ、大剣を振り回した。

 周囲を薙ぎ払う一撃を、俺は剣で受けがしながら後退する。

 

 剣がぶつかり合い、火花が散る。お互いの技がぶつかり合う中、デモニックナイトの動きの癖を見抜く。

 少しの隙を見つけた瞬間、全力で攻撃を叩きこんでいく。


 ……ゲームの知識も、生きている。

 デモニックナイトの攻撃から、隙の大きなものを見つけ出し、そこにつけこんで連撃を叩き、怯ませる。


 怯ませられるかどうかの判断を正確に、的確に行っていくことで時間あたりのダメージを稼いでいく。

 ……本来、ダンジョンボスはマルチプレイで討伐するものだ。


 それは体力が多いから時間がかかる、とかそういった理由ではない。

 敵の攻撃が一人に集中すると、対応しきれないだけの攻撃がくるからだ。


 だが俺は……すべて完璧に読み切り、先読みのようにかわし、攻撃を加えていく。

 ソロでここまで動けているのは、訓練を行ったおかげだ。

 無駄のない最小限の動き。初めてクラウスさんと戦った時に、彼は俺の何倍も速く動いているように感じた。


 時の流れが違うのではないかと思ったが……それは違う。

 無駄な動きを削ることで、少しずつお互いの攻撃を行う時間が変化していく。

 それが、決定的な差となり、一回、また一回と攻撃の手数が増えていく。


「う、ぐっ……!?」

「……終わりだ」


 俺の一撃を大剣で受け止めようとしたデモニックナイトの側面へと回り、剣を叩きつけた。


「くぅぅっぅ!? ば、馬鹿なぁぁぁぁ!?」


 俺の一閃によってデモニックナイトの腹は切り裂かれ、血の代わりとなって黒い霧が溢れ出していく。

 倒れたデモニックナイトは、その体が霧のようになって消えていった。


「……」


 ……計画通り。問題なく、討伐できたな。

 軽く息を吐き、俺はドロップした素材たちを回収する。装備品のドロップがなかったのは残念だが、これまで運が良すぎたからな。


 ボスモンスターを討伐したことで、第五階層に魔法陣が出現した。

 これは、ボス討伐者のみが使えるものだ。

 一階層の入り口へとワープできるいわゆるファストトラベルだ。


「……俺がもっと早く転生していることに気づいてればな」


 借金で苦しむようなこともなかったはずだ。

 俺は小さくため息を吐きながら、魔法陣へと足をのせた。

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