第28話


 魔力操作訓練について困っていたのだが、ルシアナ様から嬉しいことを言ってもらえた。

 なんでも、エレナが指導をしてくれるというわけで、早速今夜から行うことになった。

 エレナの部屋で指導してもらい、それからルシアナ様の部屋に行き甘やかし、キャリンとともに女装して寝ると。

 ……俺の日常おかしくない?

 夜。全ての業務も終わったので、唯一の癒しであるエレナの部屋に向かうと、ドアの前で彼女が待っていた。

 わざわざ待っていてくれるなんて、エレナは優しい人である。

こちらに気づいた彼女は、にこりと微笑を浮かべた。


「ロンドさん、準備はできていますか?」

「はい、ルシアナ様から魔力操作訓練の話を聞いてきました。よろしくお願いします」


 エレナは軽く頷き、部屋の中に入るよう促してくれた。

 ……よくよく考えると、エレナの部屋に入るのは初めてだ。

 少し、緊張してきた。

 中に入ると室内は静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。


「それでは、早速始めましょう。この魔道具を使います」


 彼女が取り出したのは、薄いパッドのようなものだった。

 ……前世で見たことがある。腕とかに貼って電流を流してマッサージをするような器具に似ているな。


「これを体に貼って、魔力を込めると電流が流れます。こめる魔力が多いと痛いですが、効率よく魔力を制御するための訓練です」

「なるほど、体で覚えていくのか」

「そういうことになります」


 つまり、自分の体につけ、痛くならない程度になるよう魔力を制御していくということだろう。

 なかなか、エレナ先生はスパルタだな。

 理解した俺は、早速つけようとしたが、エレナがその手を止めた。


「あなたが痛がるのはダメでしょう」

「え? どういうことだ?」

「こちらは私がつけますので、ご安心ください」

「代わりに痛みを引き受けるのか? でもそれはさすがに悪いし……」

「気にしないでください。私、痛いの好きなので」

「え……?」

「あなたにならどれだけ痛めつけられても大丈夫です。すべてを快感に変えられますから……!」


 そう叫んだエレナの表情はとても人には見せられないようなものだった。


「お、お前の趣味かよ!」

「訓練自体は本当ですよ。さぁ! 早く魔力を流して私を痛めつけてください! どうぞ!」


 どうぞじゃねぇ! ぐいっと、魔力を込めるための棒のようなものがこちらへと差し出してくる。

 エレナはそれはもう餌を求める犬のように呼吸を荒げ、俺が魔力を込めるのを今か今かと待ち構えている。

 ……こ、この屋敷の人は頭のおかしい人しかいないのかよ!

 半ば絶望しながらも、魔力の操作訓練はしたかった俺は……ひとまず魔力を込めた。


「ああん! つ、強すぎます! いい!」

「魔力……もっと抑えた方がいいのか?」

「も、もっと強くしてくれても構いません……よっ!」

「あってるのかあってないのか分からないんだよ! どっちなんだ!」

「私的には魔力を強めてくれた方が嬉しいですね。ただ、ロンドさんの成長的には、無駄が多いのでもっと抑えてください」

「エレナの感想はいらないからな」

「だ、黙って鳴いていればいいということですか?」

「ちげぇ! ドM変換するな!」


 エレナの声に従い、魔力を流し込む。

 ……制御をミスるとエレナが変な声を上げるので、妙な緊張感がある。

 彼女の欲望を満足させないように制御するのが、大事なようだ。

 ……魔力を長時間一定の状態で維持するのは、かなり難しい。


「スキルなどを使う時に……んっ! 効果が毎回違うことは……んあっ! ありませ……んか?」

「……まあ、あるな」

「それは、魔力の制御がああん! できてないからで……すっ! 魔力を安定化させれば、安定的にスキルを使用……できま……んっ、す!」


 お前は声を安定させてくれ。

 ……ただ、指導内容自体は納得できる。

 俺は彼女の指示に従い、意識を集中させる。体から漏れ出る魔力を無駄にしないよう意識する。


 ……魔力を使う時、たぶん体の穴という穴から魔力は出てきてしまうんだろう。

 だから、それをなるべく抑える。 

 ……そうして、一時間ほどの訓練の時間はあっという間に過ぎ去った。

 とても満足そうな顔で頰を僅かに紅潮とさせながら、うっとりとした表情でエレナがこえをあげる。


「お疲れ様です、ロンドさん。魔力の制御……なかなかでしたよ」

「……まあ、なんとなく方向性は分かったたよ、ありがとなエレナ」

「またいつでも訓練しましょう。今度はもっと強い魔道具を使ってみるのも、いいかもしれませんね……!」


 それは、お前の趣味じゃないよな?

 ひとまず、エレナのもとでの訓練を終えた俺は、そのままルシアナ様のところへと向かう。


 扉を開けると、ルシアナ様が優雅にベッドに腰掛け、魔道具の明かりで本を読んでいた。

 髪をそっとかいた仕草は、凛々しく美しい。

 そんな彼女は、こちらへと気づくと、そっと読んでいた本を閉じた。


「だっこ! よしよししてー!」


 ここからは、また違った意味での訓練が始まった。

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