第27話


 朝日が昇るころ、俺は再び庭にてクラウスさんと対峙していた。

 今日は、いつもの稽古とは少し違う。クラウスさんが防御役に回り、俺が攻撃を仕掛ける番だ。


「以前話していた通り、今日はお前が攻めてこい。わしは防御に徹する」

「分かりました」


 そう言われ、俺は剣を握りしめた。

 この三日間、夢の中でキャリンに手伝ってもらい、ひたすらクラウスさんの動きを再現して訓練してきた。

 現実の彼にどこまで通用するか……それを試す時が来た。


 俺は深呼吸をして、地面を蹴った。クラウスさんへ向かって一気に突進し、剣を振り下ろす。


 ――ガキンッ!


 剣と剣がぶつかった。クラウスさんの剣は、俺の一撃を受け止めていた。

 だが、俺はここから連撃を叩き込む。剣を何度も振り下ろし、横薙ぎにし、突きを繰り出していく。


 クラウスさんは微動だにせず、すべての攻撃を軽々と受け止めていく。


 やはり、この程度では怯まないか。


 俺は一気に【付与術師】の力を発動した。

 体全体に魔力を付与し、【加速】のスキルを使って体の動きを強化する。


 ……ユニークモンスターと戦うときのような気持ちで、俺はスキルを発動していく。

 【甘やかし上手】も発動し、一気に能力を高めていく。

 瞬時に加速し、クラウスさんの剣を狙って剣を振り抜く。


 クラウスさんはそれをひょいとかわす。まだだ……!

 すぐに剣を引き戻し、地面を蹴り付ける。


 クラウスさんの回避を誘導し、そこに……俺の最高の一撃を合わせる。


 クラウスさんの剣を弾き飛ばし、彼の剣が地面に落ちる音が響いた。

 ……できた。

 この前俺がやられたことを、今度は俺がやってみせた。


 ここまでが、ひとまずの訓練だ。

 クラウスさんは弾かれた剣を見てからこちらへ視線向けてきた。


「ふむ、スキルを使ったな」


 クラウスさんは冷静に、短くそれだけ言ってきた。

 あ、あれ? もしかして、スキルの使用はダメだったのだろうか?


「も、申し訳ありません……。より実戦的なものにしようとして使ってしまいました」


 クラウスさんも、俺に攻撃してくるときはスキルを使っていた。

 だから使用していいのだと思ってしまっていたが、剣の技術を磨くだけならダメなのかもしれない。

 俺は反射的に頭を下げたが、クラウスさんはふんと鼻を鳴らした。


「謝る必要はない。むしろこれまで使っていなかったから、戦闘用のスキルはないのだと思っていたぞ」

「いえ……その単純な剣の腕を磨くのには使わない方がいいのかと思いまして」

「スキルは人それぞれ違う。スキルと合わせた剣の指導まではわしにもできん。だから、あるなら、初めから使え。魔物との戦いではスキルを使うのだろう? なら使え。使えるものはなんでも使え」

「……分かりました」


 その言葉に少しホッとした。怒っているのは、むしろこれまでほとんど使ってこなかったことに大したのようだ。

 確かに俺とクラウスさんでは何もかもが違うんだから、スキル込みでの戦闘は実際にやって身につけていくしかないよな。


「スキルの使い方に無駄が多い。特に、魔力の制御がなっておらん。お前の魔力が、空気中に漏れ出しているのが見える」

「魔力が……漏れている?」


 俺は驚いて、自分の手を見つめた。確かに、スキルを使うときに全身から魔力が放出されている感覚はある。

 ただ、それを指摘されるほど溢れているのだろうか?


「そうだ。お前は魔力の制御が甘い。効率よく使うには、まず漏れ出さないように意識することだな。魔力の操作訓練をもっとやれ」

「分かりました……ありがとうございます」


 そう返事をしてみたはいいものの、魔力の制御に関してはどのようにすればいいのか分からないんだよな。

 ……魔力に関しても誰かに指導してもらえれば分かるのかもしれないが、これは今後の課題だな。


「今日はこれで終わりだ。わしはまた三日後に来る。しっかり復習しておけ」

「はい。ありがとうございました」


 俺は深々と頭を下げ、クラウスさんに礼を言う。

 彼はふんと鼻を鳴らしながら、庭を後にしていった。


 訓練を終えた後の俺は、自分の変化に気づいた。

 ……まだ、体力に余裕があるな。

 最初のクラウスさんと行った訓練の後は、クタクタで動けなかった。

 だが、今は多少の余裕がある。


 スタータスとは別にスタミナもついてきたんだろうな。


 今日はこのまま普通に仕事もある。

 軽く伸びをしてから俺は、屋敷の仕事へと向かう準備を始めた。



 私が食堂で朝食を頂いていると、食堂へ一人の男がやってきた。

 無礼な行いであるが、それを気にした様子のない男……クラウスは、私をじっと見てきた。


「訓練は終わったのか?」

「ああ。まあまあだな」

「まあまあか」


 くく、と笑みが溢れてしまう。クラウスは基本人を褒めないので、彼のまあまあという言葉は最高峰の褒め言葉でもある。

 相変わらず素直ではないじーさんは、私のそんな態度が気に食わないようで、腕を組んだ。


「奴の魔力の使い方は問題だらけだ。指導できるものを用意しろ」

「そうか……それは確かにもったいないな」


 ロンドが成長しているのは確実だし、私の部下の中で唯一クラウスに認められた貴重な人材だ。

 下手をすれば、私の部下の中でも最高の戦力になってくれるかもしれないので、それについては一考の余地がある。

 誰にお願いするか。知り合いの魔法使いは多くいるが、今すぐにお願いして引き受けてもらえる人はいただろうか。

 そう思っていると、食堂にて私の給仕を行ってくれていたエレナが声を上げた。


「お話中のところ割り込んでしまい申し訳ございません。……私でよろしければ魔力操作を指導できますが、どうでしょうか?」

「そういえば、エルフたちは魔力の扱いに長けていたな」

「仕事終わりの夜などであれば、私も時間を作れますが」


 夜か。ただでさえ、キャリンとともに寝るようになってから私の時間が減ってしまっているが、仕方ないか。

 私としても、今はロンドの成長が楽しみでもあるので、多少は我慢しよう。


「分かった。それならば、ロンドと話をしてどうするかは決めよう。確定した情報をまた後で伝えるからな」

「かしこまりました」


 エレナはどこか嬉しそうに微笑んで引き受けてくれた。

 クラウスも満足そうに頷き、そして去っていく。

 まったく。相変わらずの人だ。


 ロンド、か。

 彼の成長速度は著しいし、おまけに私の専属使用人たちとも仲良くやってくれている。

 かなりの掘り出し物を見つけてしまったものだな。

 あの夜に感謝だ。




―――――――――――

新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


世界最弱のSランク探索者として非難されていた俺、実は世界最強の探索者

https://kakuyomu.jp/works/16818093086515271194

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