第25話

 ダンジョンでの狩りを終えた俺は一日の成果を確認するため、ギルドへと向かった。

 そして、アクセサリーの鑑定と素材の売却を行っていく。


「こちらの装備品は【ハードネックレス】ですね。体力+8、精神力+6の補正があり、さらにダメージ軽減効果もついている優秀な装備品ですね」


 受付嬢から聞いた装備の性能は、やはらゲームと同じだな。ついていた補正は体力と精神力か。そこまで使うことはないと思うが、今の俺の装備だと優秀な部類だ。

 序盤でこれだけのステータス補正がつくアクセサリーはそうは手に入らないからな。

 ネックレスと素材を売却したお金をアイテムボックスにしまい、俺はギルドを後にした。


 ダンジョンでの成果は上々だ。

 あのナイトオブカースを倒してからも、しばらくダンジョンに潜り続け、ついにレベルが10に到達した。


 ……気づけば、かなり成長したものだな。短期間でここまで上げられたのはゲーム知識と、アンフィのおかげだ。彼女が、必ずユニークモンスターに襲われてくれるのなら、ぜひともパーティーを組みたいところだ。


 次の休みには、ダンジョンのボスに挑戦しようかな?

 クラウスさんに教えてもらった剣技や、【付与術師】としての能力を使えば勝てないこともないはずだ。


 そんなことを考えていると、屋敷についた。


「ただいま戻りました」


 屋敷に到着したところで、エレナがいたのでそう声をかける。


「お疲れ様です、ロンドさん。ルシアナ様が呼んでいますので、今すぐ執務室へお越しください」

「何か……あったのですか?」

「分かりません……ただ、一人で来て欲しいとのことです」


 だから、エレナは玄関付近で待機していたのか。

 呼び出しか……特に問題を起こした覚えはない。

 ひとまず、俺はエレナに礼を言い、すぐにルシアナ様の執務室へと向かう。


 ルシアナ様の執務室の扉をノックすると、俺が来ることを分かっていたのか、落ち着いた声が返ってくる。


「入っていいぞ、ロンド」


 名乗るより先にそう言われたので、俺は扉を開いた。

 部屋にはキャリンがいた。彼女もどこか心配そうにこちらを見てくる。


「大事な話をする。キャリンは一度外に出てくれ。ロンドは扉の鍵をかけて閉めるように」

「分かりました」


 おいおい。一体なんなんだ?

 俺はキャリンと入れ替わるように部屋へと入り、キャリンが出たところで言われた通り鍵をかけた。


「今日も冒険者として活動していたんだな。休めてはいるのか?」

「はい。ダンジョンでのレベル上げが楽しいので、それが良い休暇になっています」

「なるほどな。男はレベル上げとか好きな人が多いからな。お前もそうなんだな」

「そう、なのかもしれません」

「ダンジョンでの成果はどうだ?」

「おかげさまで順調です。ユニークモンスターも倒しましたし、レベルも10まで上がりました」


 俺が簡単にまとめて報告すると、ルシアナ様は少し嬉しそうに頷いた。


「またユニークモンスターか。運がいいのか悪いのか。無理はしないようにな」

「はい。……それで、俺が呼ばれた理由はなんでしょうか?」

「それはだな……」


 ルシアナ様は小さく息を吐いてから、ぶすっと頰を膨らませた。


「最近私を甘やかしてくれてない!」

「へ?」

「だから! 最近私を甘やかしてくれてない、シアもう疲れたぁ!」


 駄々をこねはじめた彼女に、俺は頰が引き攣る。


「ま、まさか……そのために俺を読んだのですか?」「そうだよ! シアもう疲れたの! 頭なでなでしてぇ!」

「その、シアというのはなんですか?」

「シアはシアのあだ名だよ? 小さい頃はそう呼ばれてたんだよ!」


 な、なるほど……。ルシアナ様の名前からシアと取られているんだろう。

 こちらへとやってきた彼女が頭をぐりぐりと押し付けるので、言われた通りに撫でることに。


「今日も書類たくさんみてもう目がしょぼしょぼだよぉ」

「それは頑張りましたね」

「シア、偉い?」

「ああ、偉い偉い」

「えへへ、偉いでしょー!」


 むっふーと頬を膨らませるルシアナ様。それにしても、今日は赤ん坊ではなく幼稚園児くらいの年齢設定のようだ。

 ルシアナ様も日々成長しているというわけか……。成長なのか、これは?


「シア、あんまり大きな声出すと外に聞こえちゃうから気をつけないと……」

「安心しろ。ここの防音設備はかなりのものだ。聞こえはしない」

「だから急に素に戻らないでください」


 温度差にビビるんで。


「ロンド、シアのこと高い高いしてー!」

「……えっ、で、できますかね」

「やってよー!」


 こちらに両腕を向けてくるルシアナ様。

 高い高いといえば、脇の下あたりに手を当て持ち上げるのが一般的ではないだろうか。

 ……成人女性を持ち上げるのは物理的に不可能ではないか?

 それに、彼女はかなり大きな胸をしている。……脇の下から持ち上げる時に触れることになるだろう。


 ルシアナ様はそこら辺は気にしないのだろうから、まあいいけど……正直持ち上げられるかは分からない。


「ロンド、やってくれないの?」

「分かりました。やってますね」


 俺はそういってから、彼女の脇の下に手を入れる。そして、その体を持ち上げるように力を込めた。

 だが、少し持ち上がったが――足りない。

 ……今の俺はステータスポイントが余っている。

 これを筋力にふればもしかしたらいけるかもしれない。


 だが、いいのか? こんなことにステータスぽいんを割り振って?

 ……いや、でも俺を助けてくれたルシアナ様のためならば、それは必要なことではないだろうか?


 そう考えてすぐ、俺は余っていたポイントをすべて筋力に注いだ。

 そして……全身震えながらも、なんとか彼女を持ち上げることに成功する。


「わぁ! ロンド凄い!」

「……っく」


 胸が僅かに触れているとか、彼女に感想を書いている余裕なんてない。

 俺はすぐにルシアナ様をおろし、乱れた呼吸を整えるように息を吐いた。


「ロンド、もっかい!」

「……分かり、ました」


 もう一度両手を広げてきたルシアナ様の期待に応えるよう、俺は全力を出した。

 ……これは筋トレのようなものだ。


 そうしてしばらく彼女を甘やかしていると、ルシアナ様はすっかり満足した表情になり、ゆっくりと深呼吸をしてから微笑んだ。


「ありがとう、ロンド……やっぱり、お前に甘えるのは最高だ」

「そう言っていただけて、よかったです」


 めちゃくちゃ、疲れた……。

 俺は軽く頭を下げ、ルシアナ様の部屋を後にする。

 入り口で待機していたキャリンと一瞬目が合う。

 「大丈夫だった?」と彼女が心配そうに見てきたので、とりあえず力強く頷いておいた。




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