第24話



 彼女は目を大きく見開き、今にも泣きそうな顔でこちらに飛び込んでくる。


「ロ、ロンドさん! ユ、ユニークモンスターが出現したんです! 逃げないとまずいです!」


 やっぱりかい。

 アンフィがダンジョンに入ると、必ずと言っていいほどユニークモンスターに遭遇するのは、彼女の不運故なのか……。

 いやまあ、倒せるのならむしろラッキーなんだけどな。


「ユニークモンスターってどんな奴なんだ?」

「く、黒い鎧を纏った不気味な奴です! 逃げないとまずいですよ!」


 黒い鎧ってことはあいつか。


「アンフィが逃げるなら、俺がそいつを倒してもいいか?」

「え? ……べ、別にいいですけど、危険な相手だと思いますよ!? なんか、黒くて怖いんですもん!」

「まあ、難しそうならすぐ撤退するから、心配しないでくるれ」

 

 ……ユニークモンスターを倒せば、レアアイテムが手に入るのはもちろん、経験値もより多く稼げる。

 せっかくのチャンスだし、逃すわけにはいかないだろう。


 俺たちの会話が聞こえたのか、曲がり角から黒い鎧の魔物が姿を見せた。


 全身が黒い鎧に包まれ、赤く光る瞳がギラついている。鎧の隙間からは黒い霧が漏れ出ていて、まるで亡霊のような風貌だ。手に握られた剣は異様に大きく、その刃からは黒い瘴気が漂っている。


 ユニークモンスター――ナイトオブカースは鎧を揺らしながらこちらにじりじりと接近してくる。

 俺は剣を構え、ナイトオブカースと向き合った。

 そして、次の瞬間。


「グアアア!」


 ナイトオブカースが地面を蹴り付けると、一気にこちらへ迫り、剣を振り下ろしてきた、

 俺はすぐにその攻撃を受け流す。剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。


 ……重いな。


 その一撃は、まるで巨岩を相手にしているかのような重さだった。だが、クラウスさんとの戦いを経験したおかげで、絶望的な力量差とは思えなかった。

 そこから、ナイトオブカースが剣を振り抜いてくる。

 一撃一撃が大振りで重たい。だが、大振りなのでいくらでも力の向きを逸らすタイミングはいくらでもあった。


 ナイトオブカースは力は強いようだが、クラウスさんほどの剣の腕ではない。


 再びナイトオブカースが剣を振りかざし、俺に連続攻撃を仕掛けてくる。俺はその剣をぎりぎりまで引きつけてから、ナイトオブカースの剣を弾いた。奴の体が一瞬だけバランスを崩す。


 ここだ。


 俺はすぐに【付与術師】の力を発動する。

 【剛力】、【加速】をそれぞれ、書きやすい文字で発動させていく。


 自分の肉体と武器に付与魔法をかけ、全力で強化する。

 そして、さらに【甘やかし上手】を発動し、自分の全力を引き出す。


「――これで終わりだ!」


 俺は一気に加速し、ナイトオブカースに向かって剣を振りぬいた。剣がナイトオブカースの鎧を砕き、そのまま深々と胴体に突き刺さる。


「グ……ガアアア!」


 反撃しようとしてきたそいつへ、俺は剣を叩きつける。

 動きを阻害するよう、確実に怯む部位を狙って剣の雨を叩きつける。

 やがて、ナイトオブカースは動きを止めた。

 ……俺は深く息を吐きながら、剣を納める。


 ……余裕を持って戦えたな。

 ナイトオブカースの残骸が消え、ドロップアイテムが地面に転がるのをみながら戦闘を振り返っていた。

 レベルの低いダンジョンの魔物だからか、力はあってもそれを活かしきれていなかった。


 ……俺もただただステータスを強化していたら、ああなってしまうのだろう。

 強くなるには、レベルだけ上げればいいというわけではないのだと、改めて思い知らされたな。

 ドロップを確認するとネックレスと、魔石、それに鍛錬石があった。

 鍛錬先は、装備品を強化する場合に使うものだな。特別珍しい品ではない。

 それよりも、この装備品だな。


 俺はそのネックレスを拾い上げた。鎖は銀色で、トップに黒曜石のような美しい石がはめ込まれている。その石は、どこか妖しく光を放っている。


「……【ハードネックレス】、か」


 序盤のおすすめ装備の一つだな、、

 このネックレスは、ステータスのどれか二つに+1〜10の補正が入ったものだ。

 さらにダメージを僅かに軽減する能力も備わっている。ゲームでは、一応被ダメージの1%をカットしてくれるんだったか。

 正直言って雀の涙程度の効果だけど、レベル5から装備できるアクセサリーでは破格の性能だ。


 これはいい物を手に入れたな。


 そんなことを考えていると後ろから足音が聞こえた。

 アンフィが駆け寄ってきていた。


「ロ、ロンドさん……凄すぎます! まさか、あのユニークモンスターをまた一人で倒すなんて……!」


 アンフィが目を輝かせながら、俺を見つめてくる。

 まるで、英雄でも見ているかのような尊敬の眼差しである。

 結果だけを見れば、前回と今回で二度も彼女を助けたのでどうやら変に尊敬されてしまったようだ。


「たまたまだ。それより、短期間の間に二回も襲われるなんて不運すぎないか?」

「むむっ。……それは、まあそうなんですけどね。私、昔から運が悪くて……あんまりダンジョンには行かない方がいいのかもしれませんね」


 本当にそれはそうだと思う。

 

「戦闘する場合は、階段付近にした方がいいかもな」

「……そうですねぇ。今後はそうしたいと思います! またまた助けてくれてありがとうございました!」


 アンフィが丁寧に敬礼をして、すっと頭を下げた。

 ……まあ、俺としてはまた装備品が手に入ったので良しとしようか。

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