第23話


 俺は【黒沼の洞窟】の入口に立ち、深呼吸を一度する。

 このダンジョンも何度か来ているが、今日はこれまでよりも深い階層に行ってみようか。


 俺の現在のステータスを確認してみる。


 ロンド レベル7 ジョブ:【付与術師】 ステータスポイント:25 加護:【時導神リムレス】

 筋力:10 体力:11 魔力:27 魔法力:11 敏捷:10 運:1


 これまでステータスポイントを割り振らずに戦ってきたが、そろそろ次の階層に挑むわけだし強化しておこうか。

 今日は三階層に行ってみるつもりだ。余裕があれば、さらに先へ向かう。


 ゲームなら、適正レベルであるのは確かだが、ここは現実だからな。自分の命がかかっているので、ゲームの時以上に慎重だ。死んで、生き返れるわけじゃないしな。


 ひとまず、筋力と敏捷を少し上げておこうか


 俺は筋力と敏捷に10ポイント、残りは魔力に5ポイント割り振った。

 これで、火力面に関しては問題ないだろう。……体力、精神力は防御面に関係しているステータスだが、そもそも敵の攻撃は一発も喰らいたくない。なので、回避優先のステータス振りだ。

 ステータスポイントを割り振ったことで、少しだけ体が軽くなった気がする。

 さて、これで準備は整った。いざ、出陣だ。


 俺は【黒雷剣】を確認してから、ダンジョンの奥へと進んでいく。

 洞窟内は相変わらず冷たい空気が流れていて、薄暗い。

 それでも、視界が確保できる程度に魔石の明かりが輝いている。そこを慎重に進んでいく。


 一階層は、すでに何度もクリアしている場所だ。ここでの魔物に特に苦戦することはない。

 順調に階層を進んでいき、すぐに二階層に到着した。


 二階層をしばらく探索していくが、正直、そこまで目新しいものは見当たらなかった。

 現れる魔物もシャドウウルフで、一階層と同じだ。

 少し強くなっているように感じなくもないが、それでも問題なく倒せる程度だな。


 ゲームだと、もう少し敵が強くなっていた気がするんだけどな。


 ダンジョンの進行に合わせて魔物が強化されていっていた。

 しかし、今はそこまで大きな違いは感じない。まだ余裕を持って戦えている。俺がそれだけ強くなっているということか? ……いやいや、調子には乗らないようにしないとな。


 ゲームの時に覚えていた地図で、二階層をしばらく進んでいく。途中シャドウウルフと戦闘しつつ探索していると、地下へと繋がる階段を発見した。

 うん、地図はゲーム通り。問題なし。

 ここから三階層だな。


 俺は階段をゆっくりと降りていき、第三階層へと足を踏み入れた。

 周囲の雰囲気が変わったのを感じた。空気が冷たく重くなり、微かに湿り気を帯びている……ような気がする。俺が勝手に意識しているのか、あるいはこの三階層からは違う魔物が出るのをゲーム知識で知っているからか。

 そんなことを考えながら剣を握りしめ、周囲を警戒しながら進んでいくと、目の前に新たな魔物が現れた。


 そいつは、骨のような体に赤い目を持つ巨大なリザードスカルという魔物だ。

 二足歩行のリザードマンをそのままスケルトン化させたような魔物だ。

 大きな爪が鋭く光っている。


 ゲーム通り、出現する魔物が変わったな。

 俺は剣を構え、リザードスカルと対峙する。スケルトン系の魔物を相手にするとなると、この前のスケルトンロード戦を思い出す。

 あの時は限界ギリギリのバトルだったが、今は怖気づくことはなかった。

 クラウスさんとの戦いで学んだからか、心に余裕がある。


「クァ!」


 リザードスカルが突進してくる。

 だが、その動きは俺にははっきりと見えていた。剣を軽く振りぬき、その爪を弾き返す。


「……軽いな」

「グァ!」


 俺の言葉が理解できているかのように、リザードスカルが声を上げる。別に怒らせるつもりはなかったんだけどな。


 クラウスさんとの戦いに比べれば、この程度の敵は怖くない。

 俺は素早く動き、リザードスカルの体勢を崩し、その頭へと剣を振り下ろした。

 骨が砕ける音とともに、リザードスカルは崩れ落ちていった。


「よし、問題なしだな」


 剣の技術が上がっているというよりも、自分の動きに無駄がなくなっているのが分かる。

 ステータスの上昇もあるかもしれないが、クラウスさんの指導のおかげもかなりあるだろう。

 これなら、三階層は問題ないだろうな。

 俺はそのまま探索しながらの戦闘を繰り返していく。

 しばらく進んだところで、聞き覚えのある声が響いた。


「……あれ、あなたってこの前の!?」


 振り返ると、そこにはアンフィがいた。今日は一人のようだ。

 ……一応、俺も彼女も自己紹介とかしてなかったな?


「えーと……キミは――」

「こ、この前助けていただいたアンフィと申します! この前はちゃんとお礼を言えず申し訳ありませんでした!」


 丁寧に頭を下げてきた彼女に俺は手を横に振る。


「気にしないでくれ。俺はロンドだ。改めて、よろしく」

「ロンドさんですね。先日は本当にありがとうございました!」


 元気よく声を張り上げた彼女はそれから、首を傾げてきた。


「今日も、お一人なのですか?」

「まあな、そっちも一人なのか?」

「ええ、そうなんです。ロンドさんに助けられてから、自分の弱さを痛感しまして、暇さえあればこうしてダンジョンに潜っているんです」

「……そうか。まあ、無理はしないようにな」

「大丈夫です。ユニークモンスターでなければ、なんとか戦えるくらいの実力はありますので!」


 まあ、別にアンフィだって弱いキャラクターではないもんな。

 ただただ、絶望的に運がないだけだ。いやまあ、俺もステータスだけ見れば人のこと言えんが。

 べ、別にステータスの運はスキルなどに関係するだけで人生に関係してるわけじゃないし。


「そうか、なら安心だな。まあ、気をつけてな。三階層からどんどん敵も強くなるからな」

「はい、気をつけます! ロンドさんも、お気をつけを!」


 アンフィは元気よく答え、俺たちはダンジョン内で分かれた。

 ……なんだか、ゲームをやっている時みたいだったな。たまたまフレンドとダンジョンで遭遇したときのような感覚を思い出し、俺が少し懐かしく思っていると、


「ほぎゃあああああ!」


 アンフィの叫び声が聞こえた。

 まさか……また、ユニークモンスターじゃないだろうな?


 そう思って俺が視線を向けると、ちょうどに階層に繋がる階段を目指し、涙目で走ってきていたアンフィがいた。



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