第21話


 朝。俺は庭にて剣を握りしめていた。

 今日は……クラウスさんに二回目の剣術指導の日だ。

 夢の中での訓練の成果がどれだけあるか、だな。

 夢で学んだ感覚は、現実の体で再現できるように何度も練習していた。

 ……ただ、リアルでの練習はあくまで一人で行っていた。

 対人で試すのは、久しぶりになる。


 前回と同じように、クラウスさんとは裏庭で戦うことになっていた。

 今回は、すでにクラウスさんが庭の中央で俺を待っていた。

 あの浮浪者のような風貌は変わらずだが、そこから発せられる威圧感は健在だ。

 まるで一切の隙を感じさせない鋭い目つきで俺を見つめている。


「申し訳ありません。待たせてしまって」


 俺が慌てて向かうが、クラウスさんは特に何も反応はしなかった。

 俺が剣を構えると、すぐにクラウスさんがこちらをじっとみてきた。


 夢の中で何度も対峙したクラウスさんと、目の前のクラウスさんは同じ見た目をしている。

 だというのに……プレッシャーは比べ物にならない。

 次の夢からは、このプレッシャーも再現できるようにしないとな。


 そんなことを考えていた次の瞬間。

 クラウスさんが踏み込んできた。そして同時に、すさまじい速さで繰り出された突きが俺を狙ってくる。

 だが、今回は違う。夢の中でクラウスさんと戦った経験が、瞬時に体を動かしていた。剣を振り上げ、その突きを受け止める。


 ――重い。


 しかし、俺の剣はしっかりとクラウスさんの一撃を止めていた。その一撃を、いなすように弾く。

 前回の俺だったら、確実に弾き飛ばされていたはずだ。

 それが、夢での訓練のおかげで、確実に対応できている。


 クラウスさんの剣を弾いていく。この前、俺がクラウスさんにやられていたことを、今度は俺がやり返す。

 だが……俺は全神経を集中させてどうにか対応している。

 クラウスさんは、こちらが対応できる限界ギリギリの速度で何度も攻撃を加えてくる。


 まるで水の流れのような連続攻撃だが、俺はその動きに食らいつく。


「ほぉ……」


 クラウスさんは短く声を上げた後、さらに速さを上げた。

 足を強く踏み込み、体の軸をずらし、俺の死角へと回り込んでくる。


 だが――夢で何度も見たこの動き。


 俺は即座に体をひねり、剣を振りぬいた。剣先がクラウスさんの剣を捕らえ、激しい金属音が鳴り響く。


 ――分かる、動きが見える!


 前回は手も足も出なかった。

 だが、今ならば、クラウスさんの攻撃の予兆、そしてどう攻めてくるかまでが見える。

 彼が次に何をしようとしているか、体の動きから読めるようになった。


 しかし、俺がその感覚に慣れてきた頃、クラウスさんがさらにスピードを上げた。

 剣が空を切る音が増していき、攻撃の密度がこれまで以上に濃くなっていく。

 クラウスさんの剣が、まるで竜巻のように周囲を巻き込んで襲いかかってくる。


 ――速すぎる。


 一撃でも受け止めれば、即座に次の攻撃が飛んでくる。

 息をつく暇もなく、俺は全神経を研ぎ澄ませてその剣技に食らいついていった。

 夢の中の訓練で培った動きで、何とか対応していく。


 凄い、な。

 これが……本物の剣士の動きか。


 クラウスさんはじっとこちらを観察するように見てきて、それから僅かに口元を緩めてから攻撃を加速させていく。

 だ俺はその攻撃の中に、見覚えのある動きを見つけていた。

 夢の中で何度も見た、彼の体の動き。肩が少し沈んだ瞬間、次は横薙ぎの一撃――。


 俺は剣を振りぬき、彼の一撃を弾いた。

 クラウスさんの目が少しだけ驚いたようにしていたが、すぐにその剣は次の攻撃へと転じていく。


 ――速い。だが、分かる。体のどこに力が入っているのか、動き出しの予兆が見える。


 クラウスさんの剣がさらに加速し、俺の剣がギリギリでそれを受け止める。俺は夢の中で培った経験を元に、クラウスさんの次の動きを予測し、対応していく。


 クラウスさんの連撃の隙を突き、俺は渾身の一撃を振りぬいた。剣が、クラウスさんの剣と交錯し、激しい火花が散る。

 なんとかクラウスさんの攻撃を弾こうと力を入れた瞬間、不意にクラウスさんの剣から力が抜けた。

 俺は慌てて剣を引き戻そうとしたが、その瞬間にクラウスさんの剣が俺の剣を絡めとるように動いた。

 想像していなかった方向への力に、俺は剣を握っていることができず、手放してしまう。

 剣は空中を待った後、地面へと突き刺さった。


「ふむ」


 クラウスさんは一歩引き、剣を収めた。……訓練の時間は、終わりということだろう。


「ありがとう、ございました」

「今日はここまでだ。次回の訓練では、わしとお前の立場を交代する。わしは防御しかしないから、わしの剣を弾きとばせるようにしてくるんじゃな」

「分かりました」

「そこまでできれば、次の指導もしてやろう」

「……はい! ありがとうございます!」


 俺は深々と頭を下げ、クラウスさんに感謝の言葉を伝えた。

 クラウスさんは軽く頷き、そのまま庭を後にしていった。


 ……さて、次はダンジョンだな。

 今日は休みなので、学んだ剣を実戦で試してこよう。


 俺は庭を後にし、ダンジョンへと向かう準備を始めた。

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