第16話


「お待たせしました、ルシアナ様」


 そう言って、食堂へと入ってきたのはエレナとキャリンの二名だ。

 二人ともすでに業務を終えているため、メイド服ではなく寝間着用の服である。私も同じような格好であり、それを咎めるようなつもりはない。


「済まないな、夜遅くに呼んでしまって」

「いえ、気にしないでください」


 この場に二人を呼んだ理由は、ロンドについて話し合うためだ。

 エレナが全員の飲み物を用意してくれたところで、私は早速目的の話題を切り出した。


「さて……ロンドの働きについて、どうだ? 問題なさそうか?」

「問題がないどころか……非常に優秀です。初日から作業を完璧にこなしていましたし、私たちが教えたことも一度で覚えてくれています。正直言って、驚いています」

「そうか。それなら良かった」

「……さすが、ルシアナ様です。あのような人材を見つけられるなんて」


 エレナが感心した様子でそう言ってきて、私は内心で少し焦る。

 ロンドとの出会いの仕方がアレだったわけで、あまりその話題を広げてほしくはなかったからだ。

 ロンドについての二人の評価が聞きたかったが、特に問題はなさそうだな。


「ただ……一つ気になることがありまして」

「どうしたんだ?」

「ロンドさんがスケルトンロードを倒してきたそうなんですよ」


 ……何だと?

 その言葉に、私は一瞬耳を疑った。


「スケルトンロードだと……? エレナ、それは本当か?」


 思わず問い返すと、エレナは真剣な表情で頷いた。


「ええ、実際に彼がスケルトンロードを討伐してきたそうです。彼はそのドロップ品である【黒雷剣】も手に入れたと話していたので、間違いないかと」

「……あのスケルトンロードを、たった一人で倒したというのか? ロンドは特別……冒険者として優秀だったということはなかったと思うが」

「はい。しかも、レベルはまだ低い状態で……彼は無事に討伐を成し遂げたようです。ですので、心配もありましたが……少し気になりました」


 驚きと共に、私は無意識に息を飲んでいた。スケルトンロードはユニークモンスターであり、強力な敵だ。それを低レベルで討伐したというのは……尋常ではない。

 キャリンが驚いた様子でエレナに問いかける。


「スケルトンロードってたぶん、私たちくらいのレべルじゃないと余裕をもって倒せないよね? ロンドくんって、実はとんでもなく強いの?」

「……特に、そういうわけではないと思いますが。【付与術師】と【時導神リムレス】の二つのジョブと加護を手に入れるという話をしていましたが、それが特別優秀だという話も聞いていませんし」

「【付与術師】と【時導神リムレス】か……」


 むしろ、強いというよりも弱いと言われるようなジョブと加護である。

 それで、スケルトンロードを一人で撃破したというのか?


「あっ、今日夕食の時間が一緒だから少し話したんだけど、ロンドくんその二つを獲得したって言ってたから間違いないですよ」


 キャリンがこちらへと視線を向けながらそう言ってきた。

 ……どうやら、その二つで確定のようだ。


「もしかしたら、私たちが知らない使い方を彼は知っているのかもしれないな」

「……大丈夫でしょうか? 敵対する者の刺客という可能性はないのでしょうか?」


 私は第七王女という立場で、王位継承権はほぼないと言っていい。それに、このように地方の方で領地だけ与えられ、あとは自由にやってくれと半ば放置されているような状況だ。

 もう少し位の高い立場ならば、エレナのいうような可能性もあるかもしれないがな。


「だとすれば、わざわざ疑われるようなことはしないだろう。その点は、安心してほしい」

「……承知しました」


 エレナが心配になるのも確かだが、もしもロンドが本当に私の命を狙っているのならもっと素性を隠していることだろう。

 ……どちらかといえば、私としては思いがけない拾い物をしたという認識の方が強い。


 ロンドは……私の精神安定剤として雇ったのだが……もしかしたら、今後私の部下として重要な存在になるかもしれない。

 そんなことを考えているとキャリンが視線をエレナへと向ける。


「でもさぁ、エレナってロンドのこと、結構気に入ってるんじゃない? ああいう感じの儚い美少年ってまさにエレナの好みだよね?」

「……別に、そんなことはないと思いますが」

「本当? エレナが『鞭でぶたれたい!』って言い出すんじゃないかと、ちょっと心配だったんだよね」

「ええ、何度も思っていますが」


 ……思っているのか。

 私がじとりとエレナを見ると、彼女は慌てた様子で首を横に振る。


「ですが、私とてそんな無理やりに何かをするつもりはありませんよ?」

「……そうか? まあ、色恋は別に自由にして構わんが……いきなり二人にやめられたら困るからそこだけは配慮してくれると助かる」

「も、もちろんです。というか……私はキャリンさんの方が疑わしいですよ」

「え? 私?」


 キャリンがきょとんとした様子で目をぱちくりとしている。エレナの言葉に、私も思わず問いかける。


「どうしてだ? キャリンは男性が苦手だっただろう?」

「いえ、確かにそうなのですが……キャリンさんは完全にロンドさんを男性として見ていませんでしたよ」

「……どういうことだ? 彼はついていないのか?」

「ついています。採寸する時にこっそり触ったので確認済みです」

「おい、セクハラを公言するんじゃない」

 

 私の指摘に、エレナはしかし反応せず続ける。


「キャリンさんは、彼をあまり男性として見ていませんよね?」

「……もう、さすがエレナちゃんだなぁ」

「……何だと? どういうことだ?」


 キャリンが諦めるように白状したところで、私が問いかける。


「ロンドさんは、そこまで『男性』を意識させられないんですよね。中性的な顔たちで、ロンドくんにメイド服とか着せてみたいなぁって思っていたんです。それで、私の魔法で一時的に女の子の体にして、女の快楽を覚えさせたりして……気づいたら私を求めるように体を改造してあげたりしたいなぁ……って少しだけ思っていたんですよね」


 キャリンが不穏な笑みを浮かべながら、想像を膨らませているのを見て、私はため息をついた。


「キャリン……いきなり二人にやめられると困るから、変なことはしないようにな」

「もちろんですよ、ルシアナ様。気づいたら、ロンドくんの性別が変わっているかもしれませんけど、やめはしませんからー」


 ……まったく、この二人は。

 エレナとキャリンの会話が進む中、私は心の中で少し考える。


 この二人と比べれば、私は随分とまともな方だ。

 エレナもキャリンも優秀ではあるが……時折その過激な発言や行動に頭を抱えることがある。

 ただまあ、部下と上司という関係ではあるが、私としては友人のように接することができる数少ない人たちだ。


「わざわざ、時間を作ってくれてありがとう。また何かあれば、報告してくれ」


 私はそう言って、二人と別れた。

 ……随分と遅くなってしまったな。


 今日はさすがにロンドの部屋へは行けないな。

 仕方ない。今夜は我慢するとしようか。



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新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病み堕ちしちゃってるみたいです

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陰の実力者ムーブで目立ちたい探索者、美少女ダンジョン配信者を助けてバズったらしく、正体がバレないかどうか心配です

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