第13話



 巨大な骸骨――【スケルトンロード】が、アンフィたちを威圧するように目の前に立っていた。

 ガタガタと震えているアンフィたちを見下ろしている姿は、アンフィたちの様子を楽しんでいるようにすら見える。


 俺は一瞬、戦うべきかどうかを迷ったが、すぐに決心した。

 アンフィたちがこのままやられるのは見過ごせないし――何より、ユニークモンスターがドロップするレアアイテムの誘惑もあるしな。

 ここで勝てば、レベルアップや装備の強化が見込めるわけで、戦った方がいいに決まっている。

 そのために、最短で準備をする必要がある。今のまま、ぶつかっても……勝てる相手ではないからな。

 まずは、自分のステータスを確認しよう。


 ロンド レベル2 ジョブ:【付与術師】  ステータスポイント:15 加護:【時導神リムレス】

 筋力:10 体力:11 魔力:12 精神力:11 敏捷:10 運:1

 


 レベルが2になっている。シャドウウルフたちを倒したことでレベルアップしていた。

 ……このゲームでは、レベルアップ時にステータスポイントが手に入るが、ステータス自体の上昇はない。ステータスポイントを割り振らないと低レベルのままのステータスになってしまう。


 ステータスポイントはレベルアップだけでなく、自分の行った行動によっても獲得可能だ。例えば、初めてユニークモンスターを討伐したことがある……とかな。


 普通にソロで戦っていくのなら、筋力、魔力、敏捷にバランスよく振っていくのが無難だろう。

 だが、今の俺がスケルトンロードを倒すためには……魔力一択だ。


 魔力に15ポイントを振り分け、これで準備完了だ。

 スケルトンロードに向かって走り出しながら、俺は魔法の準備に入る。


 まずは、剣に【火】の文字を付与する。

 スケルトンロードは火属性に弱いからだ。

 火属性の力を剣に宿すと、剣全体が燃え上がったかのように熱を帯びた。

 そして、さらに【打】の文字を付け加える。


 スケルトンロードは斬撃よりも打撃に弱い――打属性の武器であれば、骨を砕くのが効率的だ。

 この文字を与えることで、俺の剣は【火】と【打】の属性攻撃を手に入れることになる。


 事前準備は完了した。

 俺の足音に、スケルトンロードが気づいたようでこちらへ視線を向けてくる。その動きにつられるようにして、震えたままのアンフィの視線がこちらへと向いた。

 

「そこのお前! こいつは俺が倒してもいいのか?」


 危機的状況だが……MMORPGなら横取りは厳禁なので念のため、問いかける。


「……は、はい!」


 アンフィは倒れた仲間を抱えながら、声を震わせる。

 スケルトンロードが俺をじっと見据えてくる。


「ガアア!」


 スケルトンロードは、どこから発したのか分からない雄たけびを上げる。

 そして、黒いビー玉でも入れたような両目をこちらへと向けてくる。……威圧感、凄まじいな。

 俺は自分へ【カソク】を付与し、敏捷を強化する。

 その瞬間、スケルトンロードはもっていた長剣を振り下ろしてきた。

 

 ……よし。今の俺でも攻撃は見切れる。そして……振り下ろしの後の攻撃で何が来るかは分かっている。

 ――横の薙ぎ払い。


 その攻撃を完全に読み切った俺は、攻撃が来る寸前で一気に踏み込む。

 スケルトンロードは驚いた様子を見せながらも、俺を薙ぎ払おうと長剣を振りぬいてくる。


 ……スケルトンロードと俺との間には、レベル差がある。

 まともにやったら勝つのは難しいので、短期決戦で一気に削り切る。


 スケルトンロードの懐に迫った俺は、スキルを発動する。

 【ガードブレイク】の文字を素早く書き込みながら、剣を振りぬいた。


「……っ」


 スケルトンロードの弱点を的確についた俺の一撃が、スケルトンロードをよろめかせる。二種の弱点をついたことで、スケルトンロード程度ならばすぐに怯みを取れる。


 ――ここから、一気に攻める!


 俺は即座に自分へ【剛力】を付与し、最後に残っていた魔力の全てを注ぎ込むようにして、【甘やかし上手】のスキルを発動する。


 魔力は……ギリギリだ。すべての魔力を使い切ってしまったが、これで今の俺は……レベル2とは思えないほどの火力が出せるようになっている。


 先ほどのスキルでスケルトンロードの防御力が低下している今、俺は踏み込んで一気に剣を振りぬいていく。


 打属性の剣で、火の力を帯びた一撃がスケルトンロードの脇腹にめり込む。骨が砕け、燃え上がる音が響き渡る。

 が、スケルトンロードはまだ動こうと視線をこちらに向けてくる。振り上げようとした剣を弾くように、素早く剣を戻し、振りぬいていく。


 スケルトンロードの弱点部位を的確に狙っていく。一度怯ませた部位は、怯みにくくなる。

 ……それが分かっているからこそ、俺は次から次に狙う部位を変えていく。

 だが、倒れない。

 ……くそっ。ここまでスケルトンロードのHPは高かったか?


 僅かに、焦りが生まれる。

 あとどれくらいで倒しきれる?


 再び剣を振りかざし、スケルトンロードの頭部へと叩き込んだ。

 だが、もう何度も叩きつけた攻撃に、スケルトンロードは怯まない。


「ガアア!」


 怒りを放出するようにスケルトンロードが叫んだ次の瞬間、もっていた長剣を振りぬいてくる。

 ――ここだ。


 スケルトンロードが攻撃に転ずる際に生まれる大きな隙。

 その一瞬へと踏み込み、俺は剣をまっすぐに突き出し、その胸へと当てる。

 剣の炎が燃え上がり、骨を砕き、バチバチと音を立て――スケルトンロードの骨が弾け飛ぶ。


 俺に迫っていた長剣が地面に落ち、からんからんと虚しい音を響かせた後、霧のように消えていく。

 遅れて……スケルトンロードは、大きな音を立てて崩れていった。


 ……何とか、なったか。


 危なかった。ゲームと違って敵のHPバーが見えないので、どれだけ削ったのかが分からないのは、プレッシャーだったな。


 俺はその場で膝をつき、深呼吸をする。連続で動かしていた体は、思い出したように酸素を求め、俺は自分を落ち着かせるように何度も呼吸を行う。

 スケルトンロードが完全に消えたそこには、ドロップアイテムが転がっているのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る