第12話

 レベルは、まだ上がっていないな。

 ステータスポイントは余っているが……どれに割り振るかは迷いどころだ。

 俺が、パーティーを組んで戦うのなら、【付与術師】をサポート優先で強化したい。つまりは、魔力、精神力などを強化し、連続で魔法を使えるようにしたい。

 

 ……でもなぁ。今後も別に誰かとパーティーを組む予定はないんだよな。

 このゲーム、別にパーティーを組まなくてもソロで遊べるようにも作られている。それならば、やはりソロ向けにステータスポイントは割り振って行ってもいいだろう。


 とりあえずはまだ敵に苦戦していないので、戦うのが厳しくなったらステータスポイントは割り振ろうか。


 ダンジョンの奥へと慎重に進んでいく。洞窟内の冷たさが増し、背中にじわりと冷気がしみ込んでくる。

 暗く狭い通路を抜けるたびに、何かが潜んでいそうな気配がするが、俺は気を引き締めて前に進んだ。


 少し進んだところで、シャドウウルフが二体姿を見せた。

 ……今度は、ジョブの力を試してみようか。


 【付与術師】――このジョブの最大の強みは、文字の組み合わせによる無限の強化が可能なこと。

 ただし、自分の魔力が限られている以上、大きな強化は望めない。文字数、画数が増えれば増えるほど、消費魔力が増えていくからだ。

 ……とりあえず、ゲーム内でも使えた低コストでの強化を肉体に施そうか。

 俺は右手に魔力を込め、空中に文字を記入する。

 【カソク】と書けば、【加速】となって、自分の肉体に効果が反映される。……敏捷力の強化ができる。最初から漢字で【加速】と書いてしまうと、消費魔力が少し上がってしまうので注意が必要だ。


 【加速】による効果なのか、体に電流が走ったかのような感覚が広がり、一気に体が軽くなる。


「ガアウ!」


 シャドウウルフたちが飛びかかってきたのだが、その攻撃を俺はあっさりとかわした。

 ……うん、さっきよりも完全に体のキレが上がっている。次は、攻撃だ。


 魔法だって使うことができる。【火】、【水】など、基本的な文字と何か攻撃的な文字を組み合わせれば、魔法が発動する。

 今は【水】の【刃】でも発動しようか。ゲームでも何度も書かされていたので、【水刃】は慣れたものだ。


 ……【付与術師】はレベルがあれば文字のストックができるようになり、画数の多い文字などはストックしておけばいつでも取り出せるようになるのだが、最初のうちは毎回書かされるからだるいんだよな。


 空中に【水刃】と書くと、真っ直ぐにシャドウウルフへと水の刃が襲いかかる。

 俺の遠距離攻撃は想定しなかったのか、シャドウウルフの一体は回避が遅れ、俺の水の刃に切り裂かれた。


 文字を組み合わせれば、【追尾】効果を付与したりもできるが、まあ今の俺の魔力だと厳しいだろう。

 仲間がやられたからか、シャドウウルフが苛立った様子で唸り声を上げる。

 次は、【ゴー力】で、【剛力】だな。漢字で【剛】を書くと、画数が増える関係で消費魔力が増えてしまう。なので、同じ効果ではあるがカタカナで記入する。


 シャドウウルフが飛びかかってきて、爪を振り抜いてくる。

 俺は体の底から力が湧き上がる力を使い、その一撃を迎えうつ。

 俺の剣にシャドウウルフの全体重が乗ったが……俺はそれを吹き飛ばすように切り裂いた。


「……が、アアア」 

 

 シャドウウルフは真っ二つになった体で断末魔を上げながら、霧のように消えていった。

 ……よし、問題ないな。


 【付与術師】、ちゃんと効果が機能しているな。

 

 ……あとは、【甘やかし上手】のスキルを最後に試してみようか。


 そう思った時だった。


「きゃああああ!?」


 ダンジョン内に響き渡るような悲鳴が聞こえた。

 ……一体なんだ?

 俺が首を傾げながら声が聞こえた方を見てみると……そちらには、全長二メートルはあるような巨大な骸がいた。骸の前ではガタガタと震えている人が二名、一人は……倒れている。

 三人とも騎士のような格好をしているので、おそらくは冒険者ではなく、訓練中の騎士だ。

 ん?


 よく見たら、あの太もも……。あれは、騎士団の見習い騎士であるアンフィか。

 アンフィは不運な女性騎士として、たびたび問題ごとに巻き込まれるキャラクターなのだが、たぶん今回もそうなんだろう。

 巨大な骸は……スケルトンロードと呼ばれるユニークモンスターだ。


 ユニークモンスター……通常でるモンスターとは違うレア枠の魔物だ。

 ダンジョンでは、出現するユニークモンスターが何体か決まっていて、低確率でどれかが出現する。

 ダンジョンの低階層では出現率は低く、高階層では多少確率が上がるんだよな。


 こいつらはレアな装備品をドロップするため、そちらのドロップ品はかなりの高額で取引されるものが多い。

 ……そのため、低ドロップ率の装備品を低出現率の魔物から狙うという地獄のマラソンが始まることはシバシバある。

 スケルトンロードも、その一体だ。


 一階層で遭遇するなんてとても運がいいのだが、アンフィたちでは勝つのは難しいだろう。

 俺は……どうだ?


 スケルトンロードは、俺のレベルで戦うには厳しい相手だが、そこまで強い魔物ではない。

 ……うまく、立ち回ればいけないこともない、か?

 もしも、装備品がドロップしたら、めちゃくちゃラッキーだしな。


 やってみる価値は、ある、か。

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