第11話
神殿でジョブと加護を獲得した俺は、次の目的地である冒険者ギルドへと向かっていた。
しばらく歩き見えてきたギルドの建物は、外観こそシンプルだが、中からは賑わいが伝わってくる。
仕事を求めているのだろう冒険者たちが、建物へと入っていく。
少し緊張しつつ、俺はギルドの扉を開けた。
中には多くの冒険者たちが集まり、それぞれ依頼の確認や報告をしている。
ゲームで見たものと同じ景色だ。
ギルドのカウンターに向かい、受付の女性に声をかける。
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
受付の女性はにっこりと微笑みながら、手元の書類を取り出して説明してくれた。
「冒険者登録ですね。まずは基本情報を記入していただいて……それから、現在のジョブと加護についても確認させていただきます。こちらで能力を確認してもよろしいでしょうか?」
受付嬢がメガネを取り出し、問いかけてくる。
「それってなんですか?」
「ステータスなどを把握するための魔道具になります。能力の開示を許可していただければ、確認できるようになります」
「分かりました、お願いします」
……ゲームではこの魔道具はなかったな。
受付嬢がメガネをかけた瞬間、こちらのウィンドウに文字が出現する。受付嬢……イアンからステータスを見られていることが伝えるようなメッセージだ。相手に見せるかどうか、許可を出すかどうかの文字が出たので、はい、を選択する。
イアンは俺のステータスを確認しながら、名前を記入していく。ジョブや加護などは別に書類に書くことはないようだ。あくまで、俺の名前を見ているんだろうな。
「登録が完了しました。これからはこちらのギルドで自由に依頼を受けていただいて大丈夫ですよ」
「分かりました。近くのダンジョンとかってどんなものがありますか?」
「そうですね……いくつかダンジョンはありますが、初心者の方でしたら【黒沼の洞窟】がおすすめですよ。街の中にありますので、移動も簡単ですし」
【黒沼の洞窟】か。ゲームでも低レベル向けのダンジョンとしてあった登場していたな。
特に強い魔物や厄介な魔物はいないので、今の俺でも問題ないだろう。
「……わかりました。そこに行ってみます」
依頼とかも受けてみたいが、どのみちレベル1だとロクな依頼は受けられないからな。
今は、レベル上げを優先した方がいいだろう。
ギルドを後にし、俺はダンジョンに向かって歩き出す。
ゲーム知識を思い出し、街のはずれにあったはずのダンジョンへと向かっていく。
【黒沼の洞窟】はすぐに見つかった。
ダンジョンの入り口は、黒い渦のようなゲートとなっている。
他の冒険者たちが、その中へと吸い込まれるように入っていっている。
見張りの冒険者はいたが、あれは魔物が外に出てこないよう見張っているだけのようで、中に入る上で何かする必要はなさそうだな。
少し緊張しながら、俺もその渦へと向かって歩いていく。
むわっとした風が顔を撫でたあと、俺は暗い洞窟の中へと移動していた。
……ここが、ダンジョンか。外と比べると少しひんやりとしていて、肌寒い。
さて……初めてのダンジョンだ。
油断せずに進まないとな。
ダンジョンの中は岩肌が剥き出しになっていて、狭い通路が続いていた。しばらく歩いていると、目の前に霧のようなものが集まり何かが現れた。
黒い体毛に覆われた、小型の四足歩行の魔物が二体、俺の方を睨んでいる。
「シャドウウルフ……か」
ゲームでもおなじみの低レベル魔物だが、実際に目の前にすると、なかなかの迫力だ。俺は剣を抜き、魔物との距離を測る。
……剣は重い。ゲームではあっさりと振っていたが、自分の体でいざ試すとなると緊張する。
緊張、する必要はない。このダンジョンの適正レベルは1だ。今の俺でも問題なく倒せる魔物だ。
落ち着け、俺。
今の俺のステータスでも、シャドウウルフ程度なら問題なく倒せるはずだ。
そう思っていると、シャドウウルフがこちらへと飛びかかってきた。
二体、同時だ。
「くっ……!」
シャドウウルフが飛びかかってくるのをかわし、すかさず剣を振り下ろす。攻撃は当たった。やはり、シャドウウルフは大したことはない。
さらにコンボを繋げるように剣を振ろうとしたが、もう一体のシャドウウルフが反撃するように前足を振り回してくる。
鋭い爪の一撃をかわすと、その風圧と威圧感に思わず体が竦む。
……焦る必要はない。
俺は一度距離をとり、それからもう一度シャドウウルフを観察し、確実にダメージを与えていく。
そうして、戦闘を開始して数分が経過したところで、俺はシャドウウルフたちを仕留めた。
「つ、疲れたぁ……!」
声を張り上げ、その場で膝をつく。……結構戦っていたつもりになっていたが、倒したのはシャドウウルフ二体だけだ。
魔物たちを仕留めると、素材がドロップするのだが……ドロップした素材はシャドウウルフの素材と魔石が二つのみ。
ゲームを基準なら、売っても大した金額にもならない。
さすがに、この程度のダンジョンで得た素材だけでは生活費にもならないだろう。
今回の戦闘で分かったのは……ゲームとはまるで違うということ。
剣を振れば疲労し、対面しているだけでも緊張感が違う。画面越しにコントローラーのボタンを連打しているのとは訳が違う。
魔物を切った感触だって手には残っている。ただまあ、思ったよりも戦闘に対して嫌な感覚はない。……転生したから、少し感覚が変わったのかもしれない。現代日本にいた時なら、間違いなく嫌な気持ちになっていただろう。
とりあえず、今の状態でもなんとか戦えるので……次からはジョブの力を試していきたい。
もう少し、ダンジョンの奥へと進んでみようか。
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