第10話
次の日の朝。
俺は屋敷の倉庫へと向かうことをエレナに伝えたところ、案内してもらうことになった。
そもそも、装備品の貸し出しの許可を出せる人間が限られているそうだ。その一人が、エレナというわけで同行してもらう必要があった。
屋敷の地下へといき、エレナは落ち着いた表情で、倉庫の扉を開く。
中はかなり整頓されていて、綺麗だ。
武具や装備品が整然と並んでおり、その数は思っていたよりも多い。
……へぇ、結構いい装備品もあるんだな。
今の俺では扱えないが、もう少しレベルが上がったら使ってみたい装備品なども保管されていた。
「こちらが倉庫になります。……こちらにあるアイテムボックスをご利用ください」
そう言って、エレナは入り口近くに置かれていた棚から一つの箱を差し出してきた。
一瞬なんだっけこれ? となったが、すぐに思いださう。
ゲームでも、一応プレイヤーたちはアイテムボックスという収納アイテムを持っていたんだったな。
最初に一度だけ説明され、その後は特に気にしたことがなかったので名称さえも忘れていたな。
アイテムボックスは、持ち物を管理するための魔道具であり、冒険者には必須のアイテムだ。
試しに、近くの装備品をアイテムボックスに入れ、取り出してみる。
……うん、便利。
「装備はどれでも構いませんが……ステータスやレベルに合わないものをつけてしまうと、効果が落ちるどころからステータスにマイナス補正が入ってしまうことがありますので注意してくださいね」
「分かった」
エレナに頷きつつ、俺は棚をみて回る。
……凄い。ゲームで見た武器が目の前にあって、生で触れることができる。
俺は一人、興奮していた。次々に武器を持って、軽く振ってみる。ざっと見て回って、武器と防具についてはすぐ決めたのだが……それでもしばらく見て回ってしまう。
それだけ、楽しかったのだ。俺がぐるりと一周して装備品を持ってくると、エレナがくすりと微笑んだ。
「大人っぽいところはありましたが……装備を見ている時のロンドさんは少年みたいでしたね」
「……少し、テンションが上がってな」
「……そうなのですね。……そういうところ、そそりますね。無邪気に鞭で叩いてる姿とか……とても似合いそうです」
ん? 一瞬エレナの表情がいつもと違ったような気がしたのだが、気のせいだろうか? うん、気のせいだろう。
今のエレナはいつも通りの落ち着いた表情なので、俺は特に気にせず持ち出す武器と防具を確認してもらってから、すぐに身につけていく。
装備品に関しては、自分で身につけたあと……周りから見えるかどうかを選択できるようだ。ゲームでもあったな。
装備品の見た目装備を反映させるかどうかというものだ。自分のお気に入りの装備を反映させることもできるようだ。
見た目は普段着のまま……といっても執事用の燕尾服なんだが、そのままにしておいた。
下手に豪華な装備のまま外を歩いても、敵を増やすだけでいいこともないだろうしな。
武器のみ、見えなくはできないようなので、これはアイテムボックスにしまっておこうか。
不思議な感覚だな。
装備をした感覚はあるが、外からは分からない。この設定のおかげで、いかにも冒険者という感じにならずに済んだ。
「それでは、準備はよろしいですか?」
「ああ、問題ない。ありがとな、ここまで付き合ってくれて」
「いえ、気にしないでください。それでは、お怪我のないよう、お気をつけてください」
エレナが優しく微笑み、俺を見送ってくれた。
……初めての冒険、初めての戦闘。
色々と、楽しみで仕方なかった。
冒険の準備を終えた俺は、神殿へと向かっていた。
街内の地図は渡されていたが、そもそもゲームで何度かきたことがあるのでだいたいの地図は覚えている。
脳内の地図で向かった先……ゲームで何度も見たことのある神殿が見えてきて、俺はその中へ足を踏み入れた。
中には冒険者やシスターなど、様々な人たちがいて賑わっている。
「まずはジョブか……」
神殿の奥にあるクリスタルの前へと向かう。幸い、今は誰も転職をしていなかったのですぐに行うことができた。
一瞬、神官が視線を向けてきたが、特に何か言われるということもない。
クリスタルへと、手をかざす。
すると、目の前にウインドウが表示され、いくつかのジョブが選択肢として浮かび上がった。
獲得できるジョブ一覧を確認し、ざっとスクロールさせていき……見つけた。
【付与術師】が、ちゃんとあってほっと一安心。
それから、一応他のジョブも確認していく。
……うん。俺が知らないジョブはないな。
これなら、やはり当初の予定通り、【付与術師】になろうか。
何度か確認するような文字が出てきたあと、俺は【付与術師】のジョブを獲得した。
ちゃんと、ステータスのジョブの部分にも、【付与術師】と書かれているな。
次は加護だ。ジョブを獲得できるクリスタルの近くには、女神像が設置されている。
ここで、加護の獲得を行っていける。
先ほどと同じように、また狙いの神様がいるかどうかまずは探していく。女神像に触れると、俺のやや視線斜め上にウィンドウが表示され、そこから神様を探していく。
俺は一つの名前に目を留めた。その神様の名前は――【時導神リムレス】。
時間を操る力を持ち、経験値効率を高める加護を与える神だ。時間の流れに干渉し、成長を早めてくれる……らしい。
あと、ちょっとした時間に関するスキル効果などもあるため……まあ、めちゃくちゃ強い加護の一つだ。
加護一覧も念の為俺の知らない加護がないかは確認しておく。
……うーん、ゲームの時と同じだな。スキルだけ、なんだろうか?
そんなことを考えながら、俺は【時導神リムレス】に祈りを捧げ、加護ゲット。
無事ステータス画面にも反映されているのを確認したところで、次は冒険者ギルドだ。
恐ろしいほど、順調だ。転生してから、一番順調なんじゃないだろうか?
ここから、俺のゲーム知識による無双生活が始まっちゃうかもな。
やっと異世界転生したっていう感じがしてきて、少しテンションが上がってきた俺は、そのまま冒険者ギルドへと向かった。
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