第9話
事前に話していた通り、一週間の研修が終了した。
仕事の流れも覚え、特に問題なくこなせるようになった。
その日の入浴も終わり、俺の仕事も無事終わったところで俺はエレナとともに休憩室へと向かう。
そこにはキャリンもいた。研修最終日、ということでエレナとキャリンが最終評価を下してくれるそうだ。
「ロンドさん、今日で最終日になりますが、どうでしょうか?」
「俺は……大丈夫だと思っているが、見ていてどうだった?」
「私からも見ていて問題ないと思いました。もしも、業務中などで何か疑問が出てきたら聞いてください。キャリンさんからは何かありますか?」
「私からも特にはないかな? 物覚えが良くて、助かっちゃったくらいだよー」
そう言ってもらえるなら良かった。
一人安堵していると、エレナがゆっくりと頷いた。
「私も同意見ですね。明日は休んでいただいて、明後日からよろしくお願いいたします」
「分かった。……明日のうちにレベル上げをしたいと思うんだがそれはいいか?」
「それは構いませんが……今週はずっと働いていましたが疲れていませんか?」
「特には、問題ないな」
「分かりました。あまり夜遅くならないように戻ってきてくれれば、自由に活動していただいて構いません。怪我だけはしないよう、お気をつけください」
エレナの言葉に、もちろん頷いておく。俺に何かあったらシフトに空きができちゃいますもんね。
バイトをしていたことがあるので、その大変さは十分わかっていますとも。
俺が頷いていると、思い出したようにキャリンが口を開いた。
「あっ、屋敷にある装備品とかも借りられるからね? 事前に倉庫で確認してからいくといいかもね」
「……そうなんだな」
それは、至れり尽くせりだな。
ゲームにおいて、装備品を準備すると言うのはなかなか大変だ。ドロップアイテムを狙ったり、金がかかったり……。
さすがに最強装備とまではいかないと思うし、そもそも俺のレベルやステータスでは装備できない可能性の方が高いとはいえ、ある程度のものが最初から使えるのはいいだろう。
「そういえば、ロンドさんはジョブを獲得しているのですか?」
「いや、まだだ」
「それなら、ジョブを獲得してからだね。あっ、神様の加護はもう持ってるのかな?」
「加護もまだだな」
神の加護は、この世界で重要な要素の一つだ。特定の神に祈りを捧げ、その加護を受けることで能力が向上する。
加護の効果は神によって異なり、戦闘での能力を強化するものから、制作系のスキルを強化するものまで様々だ。
自分の立ち回りたいものに合わせ、加護とジョブは選択していく必要がある。
「そうだよね。まだ悩んじゃうよね」
「でも、一度決めても他のものに変更できた……よな?」
ゲームではそうだった。……ただ、どうにもゲームとは違う部分もあるので正直言ってどうなのかは分からない。
「そうだけど……一度ジョブとか変えちゃうとレベルも1になっちゃうからね。あんまり、ころころ変えちゃうと経験値が無駄になっちゃうからねぇ」
「そうですね。一つのジョブを極めていくようにしないと、高レベルまで上げるのは難しいですね」
……ジョブは転職した場合、レベル1からのスタートになる。
ただし、獲得したスキルなどは他のジョブでも使えるため、思いがけないコンボが見つかることもある。
時間さえかければ全てのスキルが習得可能だし、ゲームではわりと問題なくレベル上げができていたと思うが、どうやらここでは違うようだ。
そういえば、ゲームに出てきたNPCたちはそんなに強くなかったよな……。
最高率のレベル上げ方法などを知らないと、恐らくそこまで強くはなれないんだろう。
「エレナとキャリンはどの神様から加護をもらったんだ?」
「私の神は【烈風神アイリス】様ですね」
確か、風属性の強化をする神様か。別に弱くはないのだが……強い神様ではない。
「私の神様は【炎刃神フィレア】様だね。だいたい皆、属性を強化する神様にすることが多いよね?」
「そうですね。それが一番分かりやすく強いですから」
「……そうなんだな」
キャリンの加護も、火属性を強化する程度の神様だ。
「……【時導神リムレス】の神様は、いるのか?」
「え? うん、いるけど……あんまり強くない加護だったよね?」
「加護の効果は……聞いたことありませんね」
聞いたことない、のか。
【時導神リムレス】の神様といえば、アプデ後に追加された各種経験値効率アップの加護を持った神様だ。
レベルキャップがどんどん解放されていき、新規プレイヤーたちのレベル上げが厳しいということで追加された神様だ。
もしかしたら、アプデ後に与えられたものとかについては、この世界の人たちはあまり知識がないのかもしれないな。
あとは、【甘やかし上手】のようにもしかしたら俺が知らない神様やジョブなどもあるため、獲得する前には一応確認した方がいいかもしれないが……皆も知らない可能性もあるか。
「そういえば、二人のレベルっていくつなんだ?」
「私は今レベル13ですね」
「私はレベル14だよ」
「……むっ。キャリンはレベル14に上がっていたんですね」
「昨日ちょっと狩りに行ってきたからね。ふふ、エレナを抜かしちゃったね」
エレナとキャリンはどうやらちょっとずつレベルを上げて競い合っているようだ。
何とも微笑ましい光景だ。俺も、ゲームを始めたばかりの頃は友人とそんなふうに報告し合っていたものだ。
「俺はまだレベル1だから……早く二人に追いつかないとだな」
「焦らなくてもいいですよ。それで何かあったら問題ですし」
「そうそう。そもそも、私たちって本当に緊急時に戦うだけだしね」
二人はそう言っているが、俺としては一刻も早くレベルを上げたいんだよな。
だって、単純にできることが増えて楽しそうだから。
「とりあえず、明日は冒険者登録をして、ジョブと加護を得て、怪我しない程度に頑張ろうかな」
「そういえば、もうジョブは考えてるの?」
キャリンが首を傾げて問いかけてくる。
……ルシアナ様は特に気にしていなかったが、【付与術師】と言ったら二人はどう反応するだろうか?
「実は【付与術師】にしようかと思ってる」
「え? 【付与術師】?」
「確か、あまり強くはない職業ですよね」
「みたいだな。でも、やりたいことがあってな」
【付与術師】――装備品、自分、他人に言葉を付与し、強化する特殊なジョブだ。
ゲーム内ではアプデ後に搭載されたジョブで、非常に扱いが難しい。しかし、使いこなせば全属性の魔法が使え、装備も強化できるぶっ壊れのジョブ。
育て方次第で、アタッカー、サポーター、ヒーラーと自分のやりたいことができるため、パーティーには最低一人は欲しいと言われていたジョブだ。
「でも、自分がやりたいことがあるならを見つけたなら、それが一番いいんじゃないかな?」
「そうですね。別に私たちはがっつり戦うわけではありませんし、自由にして大丈夫だと思いますよ」
……良かった。特に反対意見などはないようだ。
二人とはこの一週間で仲良くなったので、特に嫌われることがなくて良かった。
研修も無事終わり、夜はいつもの通りルシアナ様の面倒を見て、その日を無事終えた。
明日は、いよいよ異世界で初めての冒険になる。
楽しみだ。
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