第8話


 これだけレベルが高いのは、恐らくルシアナ様を甘やかしているからだろう。

 ……確か、スキルってより難しい状況で使用することで獲得、レベルが上がりやすくなるはずだ。

 

 甘やかしている相手が王族だから……経験値効率がいい? とか?

 ていうか、そもそも、こんなスキルはゲームにはなかった。

 ……何もかもがゲーム通り、ってわけではないんだろうな。


「だあぶ?」


 どうしたの? という感じでルシアナ様が首を傾げてくる。


「……いえ、見たことのないスキルを獲得していたので、少し気になったんです」

「だぁ?」

「……【甘やかし上手】というスキルです。知っていますか?」

「……いや、聞いたことがないな。スキルは千差万別、効果が同じでも人によって名称が違うとも聞いたことがある。」


 ルシアナ様も知らないのか。

 現状、スキル効果が分からない以上……どんなものか調べておきたい。

 何かしら、効果があるとは思うしな。


「ルシアナ様、俺が甘やかしているときに何かいつもと違う感覚はありますか?」

「……ふむ。特にこれといって……いや――」


 そこで、ルシアナ様は何か視線を上に向けた。

 虚空をじっと見ている。それから、彼女は気づいた様子で口を開いた。


「……私のステータスを強化してくれているようだな」

「……え? どのくらいですか?」

「どのくらいかは分からない。ただ、ステータスのバフ効果一覧に、【甘やかし上手↑】と表記されている。恐らくは、何かしらのステータスを強化するバフ系スキルなのではないか?」

「仲間を強化するスキル、ですか」

「分からんぞ。試しに自分にスキルを使用してみたらどうだ?」


 自分に?

 え、えーと……『俺は凄い。やればできるんだぞ』……とか?

 そう思ったときだった。


 少し、体が軽くなった。

 ルシアナ様が確認していたように俺も自分のステータス画面を見てみる。

 ……まさに、同じような表記が増えていた。


「だあぶ?」

「……ええ、ちゃんとスキルの効果がついていますね」

「そうか。つまり、この行為も私がただ自分の欲を満たすためだけのものではない、ということだな」

「……」


 誇らしげに胸を張るルシアナ様に、俺は何とも納得しがたい気持ちだった。

 ……まあでも、バフ系スキルが優秀なのは確かだ。

 満足そうなルシアナ様をあやしながら、俺はもう一つ聞きたかったことを問いかける。


「そういえば、ジョブを選ぶ必要があるみたいですけど……何かこれにしなくちゃいけないとかはあるんですか?」

「いや、好きに選んで構わない。が、何か気になるものがあるのか?」


 自由に選べるのはありがたい。

 それならば、心置きなく、ゲームで最強だった付与術師のジョブを獲得させてもらおう。


「付与術師という職業ですね」


 付与術師――ゲーム内でも強力だとされるが、使い方が難しい職業。装備品に言葉を付与し、強化することができる。だが、付与する言葉には様々なルールがあり、ひらがな、漢字、カタカナの組み合わせ次第で大きな違いが生じる。


「付与術師か……あまり強いジョブではないと聞いたことがあるが」

「そうなのですか?」

「ああ。使い手が少なく、扱いの難しい職業だな」


 ……付与術師は、アプデ後に搭載されたジョブでありNPCで使うキャラクターはいなかったよな。

 それが、そのままこの世界では扱いの難しい職業という認識になってしまったのかもしれない。


「それでも、やってみたいと思います」

「ああ。自由にしてくれて構わない。それと、今回は私も一つお願いがあってな」

「何でしょうか?」


 ルシアナ様が不意に何かを取り出した。

 それは……哺乳瓶だった。


「これを飲ませてくれ。だぁぶ!!」

「さ、さすがに哺乳瓶は……」

「だぁ! ばぁぶ!」

「……本気ですか?」

「本気だ。早くしろ」


 ルシアナ様の目が急に鋭くなって哺乳瓶をこちらに差し出してくる。

 ……俺はため息を表に出さないようにしながら、渡された哺乳瓶を受け取り、ルシアナ様の口元へと近づけた。


「ばぁぶ!」


 ルシアナ様は、幸せそうに哺乳瓶に口をつけていく。


「……ふむ。これは中々飲みにくいな」

「冷静に分析しないでください」

「だあ!」


 その夜の経験が俺を強くさせてくれたのか。

 俺の【甘やかし上手】がレベル4へと上がった。





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