第4話
その日は休みで、明日から俺の仕事は始まる。
……ひとまず、明日はキャリンとともに研修という形で仕事を行っていくとのことだ。
異世界に転生したと気づいてから、色々あったな。
親に売り飛ばされ、男娼で働くようになり……初の指名が入ったと思ったら相手は第七王女様で……そして何か購入されて今は第七王女様の専属使用人、か。
俺の人生、波乱万丈すぎないか……?
と、とにかく。
多少自由はないが、これからはこの世界を楽しんでいけばいい。
なんだかんだあったとはいえ、ルシアナ様に助けてもらったのは言うまでもない。
――あのまま男娼で仕事をしていたら色々な病気にかかっていただろうしな。
とにかく、ルシアナ様には感謝だ。
そんなことを考えていたときだった。
突然ドアが勢いよく開いた。
は? な、なんだ?
驚いて振り向くと、そこには……ルシアナ様が立っていた。
「ロンド、起きているか?」
「は、はい……どうされました?」
俺が慌てて応じると、彼女はふっと息を吐き、部屋の中にずかずかと入ってきた。
部屋の入口の扉は後ろ手に閉められ、鍵まで回されている。
……な、なんだ?
「私は、お前を自分の目に届く場所に置くために購入しただろう?」
「……は、はい」
「それと同時に……少し思ったことがあってな」
「……なんでしょうか?」
「私の趣味を理解しているお前になら、私は別に何をしてもいいのでは? とな」
「……は、はぁ?」
「だから……甘やかせと言っているんだ」
突然、彼女が腕を広げ、目を輝かせながら言い放った。
「い、いやですが……もしも誰かに見られたらどうするのですか!?」
「見られないよう、鍵をしているんだ。ええい、いいから早く甘えさせろっ。ばぶ、ばぶばぶ!」
「……」
け、結局またやらされるのかよ……!
俺は仕方なくベッドに腰掛けると、彼女はすかさず俺の膝の上に乗ってくる。
頭を撫でていると、ルシアナ様は満面の笑顔を浮かべ両手を広げてきた。
「ぱぱ、抱っこ!」
だからパパじゃねぇよ!
赤ん坊を抱きかかえるように、ルシアナ様を持ち上げようとしたのだが、
「お、重っ」
「……は?」
俺の今のステータスでは、彼女を持ち上げるのは難しそうだ。
「私は、別に重くはないだろう」
「……急に正気に戻らないでください。俺、レベル1なんでそもそもステータスが低いんですよ」
「なんだと……? まったく……私の身の世話を任せる前に、レベル上げをさせたほうがいいか? 仕方ない、今は……ぱぱ、おんぶ!」
「……はい」
ルシアナ様を背負うことにする。抱っこよりもラクといえばラクだが、これはこれで大変だぞ……!
それに、ルシアナ様はまったく気にしていないが……彼女の豊かな胸が背中に押し当てられている。
あまり、意識しないようにしないとな。
「ばぶぅぅ……」
背中では気持ちよさそうにルシアナ様がなく。
……今後も、毎日これをやるのだろうか?
そんなことを考えながら、俺はルシアナ様をあやすようにおんぶを続けていった。
次の日。
俺は早速ルシアナ様の専属執事としての仕事を覚えるため、まずはキャリンとともに仕事をしていくことになった。
いつの間にかに用意された執事の制服に袖を通した俺は、キャリンに頭を下げた。
「ロンドと言います。これからよろしくお願いします」
「私はキャリンだよ。同じ使用人同士、敬語は必要ないよ?」
「……そうですか? ……そうか」
じっとキャリンが視線を向けてきてので、俺が口調を訂正するとキャリンは満足そうに微笑んだ。
おっとりとした穏やかなほんわかとしたお姉さん系サキュバス。
それがキャリンというキャラクターだ。
包容力の塊である。ルシアナ様も、この人に甘えればいいのに。
そんなルシアナ様は、きりっとした表情とともに執務室の椅子に腰かけてこちらを見てくる。
「ロンド、そう肩に力を入れるな。気楽に、やっていけばいい」
「……分かりました。お心遣い感謝いたします」
昨夜の「ばぶばぶ」言っていたルシアナ様とのギャップが凄まじい。
あの甘えたがりの姿は、まるで別人だったかのように思えてくる。
……今のルシアナ様は仕事に集中していて、本当に凛々しい。
いつまでも見惚れている場合じゃないな。俺も、仕事をしないと。
キャリンが笑顔とともに歩き出しているので、俺もその後を追う。
「さあ、ロンド君。まずはルシアナ様にお茶をお出ししましょう」
キャリンに促され、俺はお茶の準備をするため、キャリンとともに食堂へと向かった。
「ルシアナ様はお茶が好きなのか?」
「うん。特に『ルフェアリリーフ』の茶葉が好きで、朝一番に出すのはこれにするんだよ」
キャリンがにっこりと微笑みながら、棚から美しい青みがかった茶葉を取り出した。
『ルフェアリリーフ』は、ゲームでも出てきたアイテムだったな。
やっぱり、ゲームの世界に転生したんだなぁ……。
「これが『ルフェアリリーフ』か……」
俺はその名前を心に刻むと同時に、手元で細かい葉を見つめた。
青い光沢を帯びた葉は、まるで魔法の力を宿しているかのように神秘的だ。
「このお茶は、入れ方がちょっと特殊だからよく見ててね?」
キャリンがそう言って、優雅にティーポットを手に取った。
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